今宮雅子氏による2016年バーレーンGPの焦点。今季から導入された3スペックのドライタイヤと選択の幅が広がったことで、レースは大きく変わった。新たな戦い方をものにして、バーレーンの夜を盛り上げた役者たちをクローズアップ。
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マシンとコンディションに合ったタイヤを正しいタイミングで投入すれば、オーバーテイクはサーキット全体に広がり、レースが活気づく。新タイヤ規則の効果が花開いたバーレーンGPになった。
ライバル対比の強みがストレート速度なら、DRSゾーンで勝負を決めるのが定石。逆に、最高速よりコーナリング性能が長所のマシンで対抗するなら、ストレートは接近するために使い、前後のコーナーでドライビングの技を駆使するのが醍醐味──タイヤ戦略の選択肢が広がったことによって、ドライバーはレース中の要所要所でライバルよりも優れた“コーナリング性能”を創造することが可能になった。作戦に失敗したウイリアムズ、緊急ピットインのあと残り周回を2ストップで走り切ろうとしたフォース・インディアが、守り切れなかった所以だ。
9周目にスーパーソフトタイヤからソフトに交換したマクラーレンのストフェル・バンドーンは、11周目のターン4でニコ・ヒュルケンベルグ(ソフト10周目)をパス。12周目には低速ターン10の立ち上がりを活かして、バックストレートでセルジオ・ペレス(スーパーソフト10周目)を抜き去った。デビュー戦とはいえ、何度もバーレーンを走ったGP2チャンピオンは、コースの使い方を心得ている。
3スティント連続でスーパーソフトを投入するアグレッシブな戦略を採用したロマン・グロージャンは、17周目のターン10出口でフェリペ・マッサ(ミディアム10周目)のイン側に並んでターン11で前に出た。24周目のターン4ではダニエル・リカルド(ソフト18周目)をオーバーテイクするのに成功。
グロージャンが素晴らしいのは、スーパーソフトで「攻め続ける」のではなく、マシンのストレート速度を活かしてタイヤを労わりながら我慢強く走り、必要に応じてグリップ力を最大限に引き出している点だ。リカルドを抜いた周も、その次の周も、13周以上走ってきたスーパーソフトのラップタイムは決して速くない。でも、この第2スティントで16周踏ん張ったことが第3スティントの負担を軽減、ほぼ全ラップを1分37秒台で走るという、グロージャンらしい正確なペースを実現した。
マシンもスーパーソフトに合わせてセットアップしていたグロージャンは、ソフトに交換した最終スティントでも再びマッサ(ミディアム17周目)をパス。46周目のターン1、ウイリアムズのアウトに並んだハースはターン2のエイペックスに向かって、すばやく姿勢を変えて加速し、先行した。「Awesome!(最高だ!)」とアメリカンチームは祝福。ドライバーを信頼し、セーフティカー出動もないクリーンなレースで得た5位は、堅苦しいF1チームとはちょっと違う、アメリカのレーシングスピリットを見事に象徴している。