初対面で意気投合した小松代表と豊田会長「堅苦しい大きな会社だと思っていた」「日本人だから、ではない」
2024年10月11日
10月11日、静岡県小山町の富士スピードウェイに隣接する富士モータースポーツフォレストウェルカムセンターで開催された記者会見で、トヨタGAZOO RacingはハースF1チームとの業務提携に合意したことを発表した。
会見にはGAZOO Racing Company高橋智也プレジデント、ハースF1の小松礼雄チーム代表、モリゾウこと豊田章男トヨタ自動車会長が登壇したが、提携に至る経緯が小松代表から語られるなかでは、カナダGP前に来日した小松代表が豊田会長とすぐに“意気投合”していたことが明らかとなった。
会見に姿を見せた小松代表は、ステージ袖から杖をついて着席した。「こちら(日本)に来る3日前くらいにボルダリングをやっていたのですが、飛んだ瞬間に肉離れを起こして歩けなくなってしまって……(苦笑)」とのこと。
「ハースF1チームというのは今年で9年目ですが、F1グリッドの中で一番若いチームで、規模としても一番小さいです」と、小松代表はハースの置かれた環境と、今回の提携に至る道筋を語り始めた。
「それでずっと違うビジネスモデルでやってきて、小さいチームでも効率良くレースチームとしてコアな部分だけにフォーカスして、でっかいレッドブルとかメルセデスとか、そういう人たちがいる中でどれぐらい戦えるのか、というのをやってきました」
近年、その成果は見せ始められてはいるものの、「もっとグリッドの前の方にいくためには、どうしたらいいか」と考えていた矢先、今年2月にバーレーンで加地雅哉TGRモータースポーツ担当部長/BR GT事業室と話す機会があり、今回の提携に向けたストーリーが始まったという。
「最初に話し始めたときは、まだ“ぼんやり”とでしかなかったのですけど、加地さんと会って話をしていくうちに、お互いの思い、あとはお互いの目指してるところがすごく共鳴しまして、『この人とだったら一緒にやっていけるな』というのをすごく感じました」
年齢も近いふたりが話を進めていくうちに互いに信頼関係が生まれ、「ふたつの組織の弱いところ・強いところをうまくミックスして、一緒にやれる」という感覚が、小松代表の中で自然に芽生えていた。
■初対面の章男会長に「そういうことは本当にやめてほしい」
加地氏との話が具体的に進んでいくなかで、小松代表は「章男さんにお会いしてみたい」と思うようになったという。それは、6月のF1カナダGP前、東京で実現した。
「初対面とは思えませんでした」と小松代表はそのときを振り返る。
「思いが本当に一緒で、すごく情熱のある方で、『これからどうしていきたい』『日本の若い人たち、モータースポーツ界に夢を与えてあげたい』というのがものすごくにじみ出ていて。僕がハースF1チームを通してやっていきたいことと、すごく共鳴するものがありました。それで『GOサイン』ですよね」
一方、豊田会長もこの日の小松氏との初邂逅を「『本当に今日、初めてでしたっけ? 前にどこかでお話ししませんでしたっけ?』と思うくらい。もう入ってきた途端にいろいろな話が進んだ、みたいな感じでした」と振り返る。
「昨日までも、その前も、ずっと昔から語り合っていた人と、ちょっと先の話をした。それが、私の正直な感覚だったと思います」
これには小松代表も「まったく同じです。本当に僕も、お会いするまでは“豊田章男会長”という、それしか知らない訳じゃないですか」と答えると、豊田会長は「どんなイメージでした?」と小松代表に話を振った。
「僕のなかで(トヨタは)すごい堅苦しい、大きな会社だと思っていたんですよね。何をやるにも時間がかかって、すごくイナーシャー(それまでの慣例)があって……。さっきおっしゃっていましたけど、(F1を)やめた方なわけですよね。僕なんかは『なんでやめるんだよ』『(モータースポーツは)文化なんだから、文化を作っていかなきゃいけないのに、日本のメーカーというのは行ったり来たり・行ったり来たりしているから、そういうことは本当にやめてほしい』という話もしたんですけれども(会場爆笑)、でもそういうことを初対面で話せて、本当に本心で打ち解けてしまって、素直に疑問を話せる、そんな感じだったんです」
「あり得ないですよね。普通に考えれば、トヨタの会長さんのところにきてそんな話はできないですが、そんなことはまったくなしで、“打てば響く”という感じで本当に面白い、すごく楽しい会話ができたので『こういう思いを持っている方と一緒にできるなんて、なんて光栄なことなんだろう』と思いましたね。本当にこういう出会いがあって良かったなと思って、あとはもうそれを最大限活かすしかないですよね」
そして、会場の記者からの「小松代表が日本人ということで、ハースF1との提携に至ったのか」との質問には、豊田会長は次のように答えている。
「僕はね、『小松さんが日本人だからこの話が進んだ』ということはないと思います。生意気な言い方をすれば、『世界で戦っている』というところで、共通点があったのではないかなと思います。世界で戦う人だからゆえにね、何か共感するものがあったのではないかと」
「これは会社と会社(の提携)、ということでももちろんありますが、それよりも大事なのは個人と個人というところで、ケミストリーがあったというかね。初めて会ったのに、初めてとは思えない。それは私だけが思っているわけではなく、小松さんご本人もそう思われた。そんなものに、ぜひとも今後期待いただきたいという風に思います」
まったく別々の舞台で戦ってきたふたりのトップがF1という場で共鳴したことで生まれた、大きな組織と小さな組織の提携。今後、どのような形で進展していくのか、注目したい。
(Kazushi Nakano / autosport web)
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