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メルセデスを悩ますポーパシング。『タラレバ』でホンダNSX-GT開発者に聞く解決法とフロア開発の難しさ

2022年5月13日

 フェラーリ、レッドブルが白熱したトップ争いを繰り広げるなか、5戦目を終えても未勝利でいっこうに結果が向上しないメルセデス陣営。F1界トップクラスの資金&開発力と最新シミュレーター技術で近年最強マシンを作り続けたメルセデスが、なぜここまでの低迷に……と、疑問に思う方も多いはず。そのメルセデスの低迷の一番の原因でもある今季のマシン、W13のポーパシング(バウンシング)の原因と解決法にはどのようなアプローチが必要なのか。ホンダ(現在はHRC)で長年、スーパーGTに参戦するNSX-GTの空力&車体開発を担当してきた徃西友宏エンジニアに聞いた内容が興味深かった。


 スーパーGT500クラスのホンダNSX-GTも長年、ポーパシングの問題に向き合い続け、その都度、さまざまなアプローチで解決方法を探ってきた。ハコ車のGTマシンとF1では車体の形状も大きさも異なるが、話を聞くウチに両者の共通点が浮き彫りになってきた。


 徃西氏がGT500クラスのNSXの開発に関わるようになり、ポーパシングの問題に最初に向き合ったのは、2005年にホンダがわずか5台限定で販売した特別仕様車、NSX-R GTの頃だった。5000万円という、ぶっ飛んだ価格(新型NSXの車両価格は2370万円〜)で販売されたNSX-R GTの目的は、スーパーGTのホモロゲーション取得のためだった。ノーマルのNSX-Rから前後のオーバーハング部で全長で180mm、全副も90mm拡大されたNSX-R GTは大きなダウンフォースを狙ってGT500に投入されたが、そこで直面したのがポーパシングの問題だった。


「当時はまだスキッドブロックの規定がない床(フロア)の時で、市販車でNSXの特別仕様を出してもらって、顎が伸びてフロントのフロアがものすごく大きくなった年だったのですけど、その年のはじめはクルマがバタバタして、すごくポーパシングが起きました。当時もポーパシングという言葉はあったのですが、まだ一般的ではなくて、ドライバーは『なんかすごくクルマがピッチングする』という言い方をしてました」と徃西氏。

2005年ホンダNSX-R GT
2005年に5台限定で販売されたホンダNSX-R GT。価格は5000万円と破格。


 2005年のNSXは特別仕様を販売してまでシーズンに臨んだもののランキングは2位、結果的にチャンピオン獲得は2007年まで掛かってしまった。そこからポーパシングに対するノウハウは蓄積して来たが、実は現在のNSX-GTでも、ポーパシングの問題は完全になくなっているわけではない。


「床下でダウンフォースの絶対値を高く出せるようになると、やはり今でもポーパシングはしやすくなります。それに合わせて空力自体を直すなり、サスペンションのセッティングを変えるとかしないといけない。今のクルマでも富士のストレートエンドなどでは、車高が低すぎるとすぐにバタバタバタとポーパシングが起きる。これはウチだけでなくて(同じ規定で車体を製作している)他車さん(GR Supra、NissanZ)も同じようですね」


 そもそも、ポーパシングは車体のフロア下と路面の間に流れる空気の速度が速くなることで発生するグランドエフェクト(ダウンフォース)が要因となる。わずかでもフロア下と路面に隙間があればダウンフォースが発生するが、フロアと路面がくっついてしまうと、途端にダウンフォースがなくなる。車体を抑え付けているダウンフォースが急激に減ることで車体がリフト(浮く)して、そこでフロアと路面に隙間が空いたところでまたダウンフォースが発生して……の繰り返しで、マシンが上下に跳ねてポーパシングの現象となってしまう。


【ダウンフォースとリフトについては、ホンダ公式HPの四輪テクノロジー『風を操るプロフェッショナル』で分かりやすく説明されています】


 狭いところを流れる空気の速度が速ければ速いほどグランドエフェクト(ダウンフォース)の効果は大きくなる。レースではポーパシングだけでなく、サイド・バイ・サイドで2台が並んだ時に両者が急激に吸い寄せられて接触してしまうのも、この原理が関係している(もちろん、ドライバーの技術や経験でギリギリ接触を回避する方も多いが)


 では、GTマシンで経験してきたポーパシングの解決方法はどのようにアプローチをしてきたのだろう。


「車高を上げれば、解決にはなっていないですけど、ある程度のポーパシングは抑えられます。でも、いわゆる足(サスペンション)を硬くしたり、イニシャルのライドハイド(車高)ごと上げてしまうと、ブレーキングとかコーナリング中も含めて全体的に車高が高くなってしまい、ダウンフォースがほしいところが全部減ってしまうことになる。それに根本的に足回りを硬くしてしまうと、サスペンションとしての跳ねのしやすさが出てしまいます。空力の振動を抑えつつ、足を硬くというのはある程度、限度があります」と徃西氏。


 今回話を聞いた徃西氏は現在のF1マシン開発を直接見てきたわけではないが、現在のF1マシン、特にメルセデスに起きている現象をタラレバで解決するとしたら、どのような解決方法が考えられるのか。


「F1フロアのデザインをまだ自由にモディファイできるのであれば、地面に近づき過ぎたときに、そのロードクリアランスによって、増えるダウンフォースを増えすぎないようにするというか、空力特性を変えてポーパシングしにくくする手も考えられます。あとは車高を単純に上げたくはないので、何かサスペンションの方で、一定以上の車高に下がらないように止めてあげるとかですかね」


 F1の話をしていくなかで徃西氏が指摘したのは、メルセデスW13のサイドポンツーンにあるステーの役割だ。


「F1でもサイドポンツーンのフロアのところに何かステーみたいなのが追加されているのを記事や写真で読みましたが、やはり車速が上がって最大ダウンフォースになったときは、F1マシンはものすごい負圧が発生する。ダウンフォースでクルマ自体が沈むのですけど、ダウンフォースが多く出ているのは実際は床下のアンダーパネルで、そこでフロアのアンダーパネルは剛性的にどうしてもたわんでしまうんですよね」


「アンダーパネルがたわむと、サイドのシール効果(気密性)が高まり、ダウンフォースは出ると思います。でも、ストレートではダウンフォースは必要ないですよね。それなのにストレートで必要以上にアンダーパネルがたわんで、出してほしくないところで床下に負圧が出て、それで床下が近づきすぎて、ダウンフォースが抜けてしまう。(メルセデスが)他のクルマより早めにポーパシングが出始めるというのは、アンダーパネルが弱いことが考えられます。そのたわみを抑える対策としてステーをつけたりしているのだと思います」

2022年F1 メルセデスW13
エンジンカウルの中間あたりに左右のフロアを支えるステーが見えるメルセデスW13


 イモラで開催された第4戦エミリア・ロマーニャGPでは、バックストレートに入ってすぐにメルセデスのマシンにポーパシングが発生しているのが映像でもはっきりと見えた。フェラーリ、レッドブルにもポーパシングは起きているが、バックストレート終盤での発生で、メルセデスとはタイミングが明らかに違っていた。


 仮にフロアの剛性の低さがメルセデスの激しいポーパシングの原因のひとつだったとして、フロアの剛性を上げれば解決するかというと、そうも簡単なことではなさそうだ。


「剛性的に全然たわまない、ものすごく強固なアンダーパネルだったらクルマの車高変更とイコールでアンダーパネルも管理できるけど、重量が増しますし、やはりアンダーパネルも軽く作りたい。アンダーパネルがたわまないように重く作ったクルマは、ステーなんかつけなくてもしっかりしていると思いますね」


 メルセデスの開発力ならアンダーパネルの作り替えくらいは難しくないだろうが、今年の新規定のF1マシンは開幕直前の3月に急きょ、最低重量が3kg増加されたように軽量化が難しく、どのチームも例年以上に重量は増やしたくない状況。仮に剛性の高い重いアンダーパネルを導入したとしても、その変更に伴う前後の空力バランスや重量配分の変更、サスペンションのセットアップにタイヤへの荷重の掛かり方など、これまでのセットアップのほぼすべての項目を見直さなければいけなくなる。


 徃西氏はさらに、メルセデスが今季導入したゼロ・サイドポッド(サイドポンツーン)の影響も指摘する。


「もちろん、直接見たわけではないのですが、(今年のメルセデスW13は)剛性を意識したデザインをあんまりしていないように見えるんですよね。基本的に上に櫓(やぐら)を組んでいればフロアはしっかりするんですよ。昔ながらのサイドポンツーンの形があれば、フロアもたわまなくてすむと思いますが、今年のメルセデスは上屋がすごく細いですよね」


「あの形状ですと上屋の付け根からアンダーパネルの端までは何も支えられていなくて、あのアンダーパネル自体が頑張らないといけない。フロアのあの部分に負圧がかかると上からのサポートがない状態ですよね。でも、F1の空力開発者は当然、それもわかって設計して持ってきてるはずなので、走らせてみてその状態というのがちょっと解せないですね。そこのデザインのコンセプトの部分で、なにかミスマッチがあったのだと思います」


 アンダーパネルに加え、ゼロ・サイドポッドも変更するとなると、ほぼ車体は全面刷新となる。今年は新規定によってバジェットキャップ制で開発に制限が加えられ、さらにサードダンパー(イナーシャーダンパー)の使用ができなくなったことも、セットアップ、そしてマシンの改善を難しくしている要素ではあるが、その条件はどのチームも基本的には同じ。


 第6戦以降、メルセデスはどのようなアプローチで巻き返しを狙ってくるのか。マシンのアップデートの出来次第では、今年いまいち覇気の見られない7冠王者ルイス・ハミルトンの来年以降の去就にも関わってくる。ファンならなおさら、ファンではなくても、やはり覇気のないハミルトン&強くないメルセデスはつまらない。メルセデスとレッドブル、そしてフェラーリと三つ巴の戦いとなるためにも、メルセデスW13の早期の改善を切望したい。

2022年F1第5戦マイアミGP ジョージ・ラッセル(メルセデス)
今年メルセデスに移籍して勢いのあるジョージ・ラッセル。マシンのパフォーマンスが改善すれば優勝争いにも。


2022年スーパーGT第2戦富士スピードウェイ予選日
2022年スーパーGT第2戦富士で優勝を果たしたARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)


(Tomoyuki Mizuno / autosport web)




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