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【レースの焦点】圧倒的な熱狂、計算と度胸で決めた「ベスト・オーバーテイク」

2016年9月6日

 今宮雅子氏によるイタリアGPの焦点。表彰台に上がったフェラーリのドライバーには、何位だろうと勝者であるかのような喝采が贈られる。今年は、本当のウイナーであるニコ・ロズベルグが「いちばん好き」なイタリア語で、ティフォシの熱狂を煽った。高速のモンツァでは、もちろんパワーが重要。しかしオーバーテイクに必要なのは、それだけではないと証明するシーンもあった。

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 3人の姿は発煙筒の煙幕にかすみ、表彰台に届く背の高いフラッグが視界を遮り、地上にはフェラーリ・クラブの“国旗”が広がる。視界がクリアになると、ストレート上には見渡す限りの観客たち。赤いスーツのドライバーに贈られる怒涛のような祝福は、誰が勝ったのかわからないほど圧倒的だ。

「僕らフェラーリには、世界でいちばんのティフォシがついている。みんな、ありがとう。来てくれて、ありがとう!」

 セバスチャン・ベッテルがイタリア語で伝えると、ファンの歓声は最高潮に達した。でも、表彰台のインタビューは最後にもう一度、勝者に向けられる。普通なら、そこで歓声が静まってしまうところ……「あなたたちは世界でいちばんです、本当に!」とイタリア語でティフォシに賞賛を捧げたのは勝者ニコ・ロズベルグ。「信じられない。本当にありがとう。素晴らしすぎる」と讃えたあと「じゃあ、やってみよう!」と『Seven Nation Army』の大合唱を率いたのだから、モンツァの表彰台セレモニーはエディ・ジョーダンが考えも及ばなかったほど盛り上がった。

 マルチリンガルのロズベルグではあるけれど、彼がいちばん愛しているのはイタリア語。子供の頃から、友達と遊ぶときには、いつもイタリア語だった。その音や雰囲気が好き。「リラックスして、いちばん気持ち良く話せる言葉だから」と、選べるときには好んでイタリア語を使う。親友たちと交わす言語だから、感情が素直にあふれでた。

 初めての、イタリアGP勝利──。土曜の予選では指の先から離れていったチャンスを、スタートで取り戻した。
「すべては、スタートのおかげ」

スタートで首位を奪ったニコ・ロズベルグ、かたやルイス・ハミルトンは大きく遅れる
XPB Images



 半分は手にしたはずの勝利が、指の隙間からこぼれて消えてしまったのはルイス・ハミルトンだ。
「スタートで、すべてが決まった」
 いつもどおりの操作手順を行ったはずなのに、赤いランプが消灯した瞬間、なぜかマシンは前に進まなかった。

 2014年のイタリアGPでも、ポールポジションからスタートに失敗して4番手まで転落した。シーズンで最もダウンフォースが小さなマシンとタイヤの変化。モンツァでスタートを決めるのは容易ではないうえに、第1シケインまでの距離が長いぶん、ミスをすると失うものが大きい。
 シングルクラッチの規制は難易度を、さらに高くした。予選でロズベルグに0.5秒近い差をつけたハミルトンは、あっけなく、6番手までポジションを落としていた。

「あれだけロスしたら、2位まで追い上げるのが精一杯だった。F1でこれだけ走ってくれば、周回ごとに勝利のチャンスが小さくなっていくのはわかるよ。早い段階で、今日のレースを勝ちにつなげるのは不可能だと理解した」
 1ストップ作戦のメルセデスは、2ストップ作戦のフェラーリからポジションを取り戻し、ハミルトンは2位でゴールした。でも、バルテリ・ボッタスを抜きあぐねている10周の間に築かれたロズベルグとの差は、けっして乗り越えられるものではなかった。

聖地で、なんとか3位と4位を得たフェラーリ。名門の完全復活は、まだ遠い
Sutton



 ハミルトンの転落によって2位 - 3位のポジションを手に入れたフェラーリは、自分たちの2ストップ作戦がロズベルグだけでなくハミルトンに対しても有効ではないことに気づいていた。タイヤのスペックが何であろうと、フレッシュなタイヤを履いても対メルセデスで1ストップぶんのマージンを築くほどの速さが得られないのだ。

「レースになれば、予選ほどメルセデスとの差は開かない」という期待は、儚く消えていた。レースになっても、1ストップのメルセデスは2ストップのフェラーリと、さほど変わらないペースで走れてしまうのだ。2回目のピットインでハミルトンに先行されることはわかっていた。でも、2回目のピットを終えた時点でハミルトンとベッテルの間隔は18秒。プレッシャーを与えるほど迫ることは一度もなかった。

「それでも、今日はフェラーリにとって最高の1日。昨年に続いて表彰台に上がり、みんなに応えられたのは本当に幸福なことだと思う。僕らの使命は、まだ始まったばかりだ。もちろん、今日の結果は十分ではないし、絶対に勝ちたい。いつって約束することはできないけれど、ティフォシの声援にふさわしい勝利で応える日がくると、僕は確信している」

ウイリアムズを一撃で仕留めたダニエル・リカルド
LAT



 モンツァでの苦戦を予測してきたレッドブルにとっては、メルセデス、フェラーリに次ぐ5位がダメージ・リミテーションのターゲット。1000分の1秒差でボッタスに予選5位を奪われたダニエル・リカルドは、賢明で堅実な作戦を採用し、最後は度胸で攻略することに成功した。

 マックス・フェルスタッペンを迎えたことによって翻弄された感のあるチームで、きっとリカルドはロジカルに自分の主張を通す方法を見出したのだろう。オーストリアやイギリスで不可解なパフォーマンスに悩まされたあと、ハンガリー以降は自らの選択でフェルスタッペンとは異なる作戦を採用している──軟らかいコンパウンドとレッドブルのコーナー速度を組み合わせることによって最高のアドバンテージを得られるフェーズを編み出す方法を見出してきたのだ。だから、達成感は大きい。

 ボッタスの後ろ、6位からスタートしたリカルドにとって、今回はフェラーリも手の届かない存在。それでも、ストレート速度が重要なコースでも「スリップストリームとDRSと優れたブレーキングがあればオーバーテイクは可能」と主張した──ターゲットはウイリアムズ。メルセデス・パワーは手ごわくても、タイヤ管理が容易なマシンではない。

 だから第1スティントでも第2スティントでも、慎重にウイリアムズの後ろを走行して、その性能を見きわめた。前のマシンに近づいて走っても、メルセデスほどタイヤを傷めないのはレッドブルの長所なのだ。そうやって観察しながら「勝負できる」と判断し、無理にウイリアムズを攻めることなく、抑えて走行することによってタイヤの寿命を延ばした。

 第1スティントはボッタスより3周、第2スティントは4周長く走って合計7周の“マージン”を手にした。リカルドが最終スティントに入ったとき、ボッタスのタイヤは、すでに7周を走行した“古い”状態になっていたのである。さらに──。

「スーパーソフトを履こう。スーパーだよ。距離は第1スティントと同じだ」

 2度目のピットイン直前、エンジニアがリカルドに送った無線からは、彼らがどんなふうにレースに備えていたか垣間見えた。第1スティントのスーパーソフト、第2スティントのソフト、それぞれの性能と、第3スティントで走る残り周回数。それによって最後のタイヤを決めて、タイヤの“若さ”によるアドバンテージを補強しよう……その力がレッドブルのマシンに加われば、メルセデス・パワーユニットのウイリアムズだって絶対に抜ける。

 4.2秒だったウイリアムズとレッドブルの間隔が、7周で1秒以内まで縮まったのは45周目。46周目のパラボリカで0.5秒以内の距離にボッタスを捉えた時点で、リカルドは一気に攻撃に出るチャンスだと判断していたのだろう。DRSとスリップストリームでウイリアムズに迫り、第1シケインでボッタスの右に飛び込んだ。

「バルテリはフェアなドライバーだし、ミラーで確認していたから僕に向かってターンインしてくることはないと思った。だから『このラップだ』と。今夜は(モナコの)自宅まで3時間運転して帰るから、その間ずっと、トライしなかったことを後悔するなんて嫌だったし」

 アンダーカットだとかタイヤのスペックだとか、近視眼的な作戦ではない。レース距離をかけて自らのマシンを最も速くゴールに導く、地道な作業の結晶として実現した“度胸”のイタリアGPベストオーバーテイクだった。

 表彰台の下の大合唱は、パドックみんなの心にも届いたはず──全力を尽くした者に、モンツァの空はこんなに清々しい。大きく息を吸い込んで、ヨーロッパの夏が終わったことに気づかないふりをして、F1は熱帯の夜と苛酷なシーズン終盤に向かう。

(今宮雅子/Text:Masako Imamiya)




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