ウォルフは技術面を統括しているわけではないが、チームを代表してメディア対応を行う存在。しかし、彼の言葉を聞いたF1関係者で「ウォルフの説明には疑問が残る」と語る者は少なくない。そのひとりがピレリの、あるエンジニアだ。
「金曜日のロングランのデータから、ソフトは最低でも25周、状況次第では28周あたりまで引っ張れると予測していた。したがって、あのタイミングでミディアムとソフトのどちらでも装着できる権利を有していたロズベルグにパフォーマンスが良いソフトを選択しなかった理由がわからない。予定のタイミングまで10周、20周残しているというのならまだしも、たった1周だよ。しかも逆転優勝できるチャンスがあったのに……」
もうひとりの関係者は、42周目のタイヤ交換よりも、ロズベルグが1回目のピットストップでミディアムを選択したことに疑問を投げかけた。
「ピレリがハンガロリンクに持ってきたソフトとミディアムは予選で1周約2秒、レースペースでも1周約1秒の差があった。もちろん、ソフトのほうが速い。したがってミディアムは完全に“ジョーカー”のタイヤで、いかに短く使うかがポイントだった。しかも土曜日の夜に大雨が降って路面のラバーが流されていたから、グリップ力に劣るミディアムは路面ができあがるレース後半に使いたい。そのような状況にもかかわらず、ロズベルグは第2スティントでミディアムを選んだ。もちろんライバルと異なる戦略を採るのは不思議なことではないが、それは2種類のタイヤの性能差が近いとき。あれだけ大きな差がある場合、奇をてらった作戦は通用しないはずなのに……」
メルセデスはモナコGPでもバーチャルセーフティカーから実際のセーフティカーが出勤するタイミングで、首位を走行していたハミルトンに無用なピットインをさせるという失態を犯した。最強のパワーユニット、最高のマシンを有しているメルセデスだが、決して無敵ではない。ベルギーGPからはスタートをドライバーが自力で行うよう規則が厳格化される予定となっており、ポールポジションから逃げ切って優勝というパターンは難しくなるはず。戦略面に、やや不安を抱えるメルセデスが「勝てない」レースが増えるかもしれない。
(尾張正博)