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【中野信治のF1分析/第1戦】魔法のようなフェルスタッペンの異次元ドライブ。RBの課題と角田裕毅に必要な狡猾さ

2024年3月5日

 バーレーン・インターナショナル・サーキットを舞台に行われた2024年第1戦バーレーンGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が他を圧倒、キャリア5度目のグランドスラム(予選でのポールポジション、決勝での優勝、ファステストラップ、全周回のラップリーダー)を記録しました。今回はフェルスタッペンとセルジオ・ペレス(レッドブル)に22秒差がついた要因、そしてRBの保守的なストラテジーが起因する角田裕毅とダニエル・リカルドの争いについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。


  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 2024年シーズンの開幕戦バーレーンGPはフェルスタッペンが2位のペレスに22秒というあまりにも大きなギャップを築き、通算55勝目、キャリア5度目のグランドスラムを記録する一戦となりました。


 レッドブルは2023年のバーレーンGPでも1-2フィニッシュでした。ただ、2台のチェッカー時のギャップは昨年の約11秒差から、今年は約22秒差にまで広がっています。だからといって2024年のレッドブルのマシン『RB20』は、フェルスタッペン専用マシンのような、極端にフェルスタッペン好みのクルマではないと思います。


 決勝のデータや映像を見ると、『RB20』はステアリングの舵角も大きく安定感があるマシンです。それだけに予選での一発では驚嘆するほどのタイムは出ず、このあたりは2023年の『RB19』に似ています。ただ、タイヤのデグラデーション(性能劣化)という部分を見てみると、特にフェルスタッペン車のタイヤデグラデーションの少なさは圧倒的でした。

2024年F1第1戦バーレーンGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)


 その理由は、『RB20』というクルマ自体の良さもありつつ、タイヤに負荷をかけない走り方をフェルスタッペンが掴んでいるから、という要素が大きいと感じています。また、『RB20』は『RB19』よりもダウンフォースが増えながらも、ドラッグ(空気抵抗)はそれほど増えていないようにも見えます。これらの要因から、フェルスタッペンは昨年よりも決勝を楽に進め、その結果が22秒差というギャップに繋がったという印象です。


 開幕戦では、ペレスがどこまでフェルスタッペンに近づけるかという部分が楽しみでした。『RB20』はペレスにとっても戦いやすいクルマになったとは思うのですが、それでもフェルスタッペンには及びませんでした。今のフェルスタッペンは乗れすぎていると言いますか、現在のF1マシンとピレリタイヤのポテンシャルを出し切るという部分で、魔法と表現したくなるほどの何かを掴んでいると感じます。

2024年F1第1戦バーレーンGP 優勝記念撮影後に“レッドブルシャワー”を浴びるマックス・フェルスタッペンとクリスチャン・ホーナー(レッドブル)


 さて、今回のバーレーンGPではアルピーヌが大苦戦していましたね。アルピーヌのクルマはそこまで極端に悪いわけではないと考えていますが、タイヤへの攻撃性が強い割には一発のタイムが出ない。ストレートスピードも高くなく、レースに特化した作りでもなく、このマシンの狙っている部分が理解できませんでした。


 周りのチームが正常進化した状況の中で、アルピーヌは進化が足りなかったという印象です。ここからどう浮上するか、まずは第2戦サウジアラビアGPでの走りを確認したいですね。

2024年F1第1戦バーレーンGP エステバン・オコンとピエール・ガスリー(アルピーヌ)

■角田裕毅には「貪欲さ、狡猾さを身につけてほしい」

 決勝ではフェラーリ同士のチームメイト対決も白熱しましたが、RBもまた違った意味でチームメイト同士の戦い、コース外を含めた戦いが注目を集めました。RBというチームは以前からピットストップのタイミングなど、疑問の残る戦略を幾度と選択してきました。


 もちろん、決勝の前にドライバーも含めてチーム内でミーティングを行なって、チームもドライバーも事前の作戦内容に納得した上でグリッドに並んでいると思います。とはいえ、(角田)裕毅の1回目のピットストップが、ランス・ストロール(アストンマーティン)や周冠宇(キック・ザウバー)にアンダーカットを許すタイミングだったのかは疑問ですね。


 当然、ストロールや周のように早いタイミングでピットストップを行うと、タイヤが保つかどうかという部分で多少のリスクを負うことになります。それでも、そのリスクを度外視し、一番早めにピットストップを終えてアンダーカットを狙う戦略は、タイヤに厳しいバーレーンのようなコースでは効果的ですから、裕毅もストロールや周のような戦略でもよかったのかなと思います。

角田裕毅(RB)
2024年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(RB)


 タイヤが保つかどうかというリスクもあるので、RBが瞬時に判断を下せないのは仕方がないことだとは思います。ですが、やはりRBで戦略を考え、判断するストラテジストは非常に保守的な人物だという印象です。何かアグレッシブな作戦を取ることができない理由があるのかは私にはわかりません。ただ、今後に向けたRBにとっての大きな課題のひとつではあると感じています。


 2度目のピットストップ後の第3スティントで、新品のソフトタイヤを残していたリカルドはソフト、新品ソフトを残していなかった裕毅はハードと、2台で戦略を分けること自体はおかしくはありません。ですが、2度目のタイヤ交換のタイミングで、第3スティントでソフトを履くリカルドを裕毅より先に入れたのは疑問です。


 今回のバーレーンGPでは、16〜17周でソフトタイヤとハードタイヤのパフォーマンスがクロスオーバーするタイミングを迎えていました。それは、リカルドが新品ソフトを履いてから16〜17周といえば、ちょうど裕毅がポジションを譲ったあたりでした。それゆえに、最終的にはリカルドが前にいても、裕毅が前にいても、2台のRBはケビン・マグヌッセン(ハース)を攻略する難しさに違いはなかったと思います。


 ただ、RBのストラテジストはソフトがもう少し保つ予想したのかもしれません。それゆえに、裕毅とリカルドのポジション入れ替えを指示したのでしょう。それでも、争っていた順位は13番手という位置でしたから、裕毅の気持ちとしては「なんで?」となる気持ちはもちろんわかります。当然、チームにとってもかなり難しい判断だったのでしょう。

2024年F1バーレーンテスト 角田裕毅とダニエル・リカルド(RB)


 裕毅もリカルドも、好成績を残した方が2025年のレッドブル入りの可能性が出てくるかもしれない、というものが頭の中にあるでしょうし、レッドブル入りの可能性を上げるためにはRBのチーム内で負けるわけにはいかない。そういった、絶対に負けられない戦いがそこにはあるということも想像できます。


 リカルドはレース後、記者に「角田がもっと早くポジションを譲れば、マグヌッセンを追い抜くチャンスが高まったと思うか?」と聞かれ、「間違いなくチャンスは高まっただろうね」と答えていましたが、リカルドの言うことも事実だと思います。


 バーレーン・インターナショナル・サーキットはタイヤに厳しい上に、高速コーナーもあります。こういったコースでは前方のクルマの背後に入ると、タイヤも含めマシン全体の温度が上がってしまいます。そうなると、タイヤも一気に使ってしまうので、ソフトタイヤの利点はすぐになくなってしまいます。

角田裕毅(RB)
2024年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(RB)


 もし、チームが最初に「ポジションを入れ替えてくれ」と裕毅に対し指示したタイミングでポジションを入れ替えていたら、リカルドのソフトタイヤもまだアドバンテージを残したままでしたでしょうから、マグヌッセンを攻略した上で、11番手の周まで届いた可能性もなくはないでしょう。周をパスできても11位なので結局はポイントには届かないのですけども、その可能性はゼロではなかったと思います。


 当然、入賞の可能性がほぼない状況だったら、ポジションを入れ替える必要はなかったという見方もできますし、裕毅のポジションだったら「この順位でなんで入れ替えるの?」と考えると思います。裕毅の戦いは続いていましたし、攻めていましたしね。

2024年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(RB)


 私も釈然としない部分はありますし、裕毅の気持ちはよくわかります。ですが、チームメイト同士がマシンを降りた後も戦うのは、対外的にもいいものではないとも思います。チーム内で不協和音が生じかねないですし、もう少し上手くやっていただきたいですね。ストラテジーはともかく、今年のRBのマシンにはパフォーマンスもあり、今後も入賞への期待がある状況ですから、少なくとも表面上はコース外での争いはやめておいた方が、裕毅にとっても絶対に得だと思いますし、自身の立場をより良くすることにも繋がると思います。


 今回はどうしても決勝終盤の出来事(順位のスワップ、チェッカー後に2台が超接近してリカルドが驚いたこと等)がフォーカスされてしまいますが、裕毅は予選も含めてクルマのパフォーマンスを引き出すいい走りを見せていました。予選でしっかりとリカルドの前を確保したことは、改めて裕毅の能力の高さを示す重要な指標になったと感じています。チームの戦略を含め、流れが裕毅の方に来なかったのが残念ですが、今後もマシンのパフォーマンスを100%引き出す走りを続けていればチャンスは来ると思います。


 あとは、チームが「バーレーンでは入れ替えたから、今度は裕毅の意思を優先しなければダメだよね」と考える方向に、チーム内の雰囲気を持っていってほしいですね。今回の出来事は裕毅にとってとても悔しいものです。であれば、逆にこの状況を利用してほしいですね。それほどの貪欲さ、狡猾さを裕毅には身につけてもらい、チームに目に見えないプレッシャーを与えられるようになることが、リカルドに勝ち続けるための重要な要素になるかもしれません。


【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)




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10位ランス・ストロール9

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2位スクーデリア・フェラーリ151
3位マクラーレン・フォーミュラ1チーム96
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム52
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム40
6位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム7
7位マネーグラム・ハースF1チーム5
8位ウイリアムズ・レーシング0
9位BWTアルピーヌF1チーム0
10位ステークF1チーム・キック・ザウバー0

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