「フゥー! イエース! イエース! みんなありがとう。僕の番だ、僕の番だ!」
モナコGPの予選でポールポジションをつかみとった瞬間、ダニエル・リカルドは激しい雄叫びを上げた。放送禁止ワードまで交えて、感情を爆発させた。
「僕の番」という言葉は、スペインGPで自分が手にするはずだった勝利を、今度こそはという意味だ。そのくらい、リカルドにとっては2週間前の出来事が大きくのしかかっていたのだ。
「もちろん、がっかりしたよ。勝つチャンスがあったんだからね。マックス(フェルスタッペン)が成し遂げたことは純粋に素晴らしかったし、それを貶めるつもりはない。だけど、僕は自分の能力にも疑問は持っていないよ」
モナコでポールポジションを手にしたダニエル・リカルド
XPB Images
モナコにやって来たリカルドは、そう振り返った。もう吹っ切れたとは言うが、今回こそは自分の番だという思いは強かった。
スペインGPのチェッカー後、クリスチャン・ホーナー代表は無線でリカルドに、こう語りかけた。
「すまなかった、今日は戦略がうまく行かなかった。いまは辛いだろうけど、いずれ君の番もやってくるよ、大きな順番がね」
その言葉どおり、ルノーが1基だけ用意できた新型パワーユニットを、レッドブルはリカルドに与えた。20〜30馬力は向上したという新しいICEは、モナコでは0.2秒ほどのゲインを与えてくれる。レッドブルは「勝つとしたらモナコが最大のチャンス」(ホーナー)と位置づけ、当初から優勝を狙ってアグレッシブな戦略を採ってきたのだ。
そしてフェルスタッペンが功を焦るあまりかオーバードライブでクラッシュを繰り返すのを尻目に、リカルドはポールポジションを奪い取ったのだ。抜けないモナコでは、限りなく勝利に近い場所だ。
セーフティカー先導で始まった決勝、リカルドはレースが始まると、危なげなくリードを広げていった。
異変が起きたのは23周目にインターミディエイトに換えてからだ。リカルドはファステストを記録しながら後続を引き離していったが、ルイス・ハミルトンがピットインしようとしない。
「タイヤのフィーリングは、まだ良いよ」
ハミルトンの言葉を聞いたメルセデスは、ギャンブルを決断した。路面が乾くまでウエットタイヤのまま我慢して、ピットストップ1回分の時間を稼ぐのだ。