「まだ戻ってきたマシンに搭載されているパワーユニットを開けてないので、詳しいことはわかりませんが、パワーユニットのトラブルであることは間違いないです」
長谷川祐介総責任者は、そう言って唇をかみしめた。F1バーレーンGPでジェンソン・バトンはスタートダッシュを決め、チームメイトの新人ストフェル・バンドーンを逆転して、14番手から10番手までポジションを上げた。1周目を13番手で通過したバンドーンが10位入賞したことを考えれば、ウイリアムズのフェリペ・マッサと8位の座を賭けて戦っていたかもしれない。
しかし、7周目に入ったところで、突然異変が発生。10コーナーでバトンはマシンを止めた。
「ソフト的なものなのかハード面のトラブルか、まだわかりませんが、ソフト面で突然パワーユニットが止まるということは考えにくいので、ハード的なものかもしれません」と語る長谷川総責任者。幸いだったのは、バトンのパワーユニットから白煙が上がったり、炎を吹くなどという致命的な症状には至っていないことである。今後そのパワーユニットを再び使用できるかどうかという問題だけではなく、たとえ二度とレースに使用できなくなっても、完全に壊れてしまってはトラブルの原因が特定しにくくなるからである。
とはいえ、トラブルはトラブル。失ったポイントは返ってこない。
「バルセロナ・テストの2回目から、ずっとトラブルらしいトラブルはなかっただけに残念。本当にガッカリです。バトンが走り続けていれば、問題なくポイントは獲得していたはず。よりによって、このタイミングで起きるとは……」
フェルナンド・アロンソが欠場し、バトンがリタイアしたホンダを救ったのは、リザーブドライバーのバンドーンだった。デビュー戦とは思えない冷静な走りで、見事10位入賞。
「ストフェルは本当に素晴らしかった。もちろん、速いことはわかっていましたが、複雑になっている現在のF1マシンを、ほとんどミスなく、しっかりと操っていました。今年は無線が厳しく規制されて、燃費の管理に関する指示なども出せなくなったわけですが、自分自身でしっかりと行っていました」
昨年、7年ぶりにF1復帰したホンダのシーズン初入賞は6戦目のモナコGPだった。今年は2戦目でポイントを獲得した。
「10位で満足してはいけないんでしょうが、きちんと走り切れば、ポイントをかけて戦えるとわかったことは、昨年からの大きな進歩です。ただし、そのためにも信頼性は、しっかりと確立しておかなければならない。今回その問題が出たことは返す返すも残念です」と、長谷川総責任者。
トラブルに見舞われたバトンのパワーユニットは、HRDさくらへ送り返されて、くわしい解析が行われる。
(Text : Masahiro Owari)