しらけきって、シーンと静まり返るグランドスタンド。1台も通過しないフィニッシュラインに打ち振られるチェッカーフラッグ。これほど何も起きず、先が読めてしまい、つまらない予選が、かつてあっただろうか。セッション後のトップ3会見に出席したルイス・ハミルトンは「最初からこうなるのはわかっていた」と皮肉な笑顔を浮かべながら言及。早々にコクピットを降り、会見にはジーンズに着替えて出てきたセバスチャン・ベッテルも「冬のバルセロナテストで、絶対にやめたほうがいいと僕らは言っていたのにね」と、不満を隠さなかった。
それだけ事前に危惧する声がありながら、なぜ新予選フォーマットが通ってしまったのか。ニキ・ラウダは決定までの内幕を英国スカイTVのインタビューで、ぶちまけている。F1興行のボス、バーニー・エクレストンが「予選トップ10のドライバーは翌日のレースをリバースグリッドでスタートする」ことを提案したことが発端だというのだ。みんな最初は冗談だろうと聞き流していたが、本人は大まじめに、そして強硬に主張し続けた。これはまずいとFIAレースディレクターのチャーリー・ホワイティングが、ドタバタとまとめた案が新予選方式だったというのだ。
つまり、不備があることは最初からわかっていたが、バーニー案よりは「まし」ということで進められた。その後、バーニーも当案を了承したことから、もはや取り下げることもできずに進めることになったという。事実とすれば杜撰きわまりなく、F1の人気を左右しかねない重要な決断が、こんなふうに決められてしまったのかと唖然とする他ない。「史上最悪のルール変更だ」と非難するニキ・ラウダにしても、その席では賛成票を投じたのだから、責任は重い。
いったい今後どうするつもりなのか。マクラーレン・ホンダのレースディレクター、エリック・ブーリエは「F1コミッションのメンバーにメールかファックスを送り、同意が得られれば、数日間で変更は可能だ」と、早急に予選方式を変える可能性を示唆。しかし、十分に満足の行く代替案が短期間のうちに提案できるのか、はなはだ疑問である。いまやF1の舵取りをする人たちは、完全に航路を見失ってしまっているようである。
Text : Kunio Shibata