先日公開した、いすゞ製F1エンジン搭載のロータス102C走行映像。このテストが行われたのは、1991年8月のことだ。当時の日本はF1ブームの真っ最中。マクラーレン・ホンダには少年漫画誌のロゴが貼られ、その他のチームにもアパレルメーカー、運送業、家電メーカー、タバコブランド……などなど、多くの日本企業がスポンサードをしていた時代だった。
【独占動画】幻のいすゞF1走行映像
そんな中、ひっそりとテストされたのが、今回映像の存在が明らかになった、いすゞ製のF1エンジン、P799WEである。開発者によれば、“いすゞの技術力を確認するため”だけに作られたというP799WE。当初は実際に走行させる計画もなく、テストベンチでのみ火が入れられる予定だったそうだ。しかし、想像以上に高い性能を記録したために、実際にF1マシンに載せ、シルバーストンを走ることになったそうだ。今では考えられないような話だが、当時、レーシング・エンジンの製作が可能だったほとんどのメーカーは、このような“試験開発”を行っていたという。
このいすゞP799WEはロータス102の改造版シャシーに載せられ、ジョニー・ハーバートがステアリングを握り、8月6日と7日にテスト走行が敢行された。このテストはF1への参戦を目指したものではなく、あくまで“性能確認”が目的だったため、エンジンマウントなどは暫定搭載仕様になっていた部分も多々あったようだ。それでも、同日同所でテストしていたアイルトン・セナが駆るマクラーレン・ホンダや、マウリシオ・グージェルミンのレイトンハウスから、5〜6秒落ちのペースで走行することができたというから驚きだ。最高速にいたってはレイトンハウスのそれを凌ぎ、マクラーレン・ホンダと比較しても大きく劣ることはなかった。走行映像を見てもエンジン音は綺麗に吹き上がっており、「実際にF1を戦っていれば……もったいない」と、感じられた方も多いだろう。
ちなみにいすゞP799WEが搭載されたロータスのシャシーは、1991年シーズンに参戦していたロータス102Bを改良したもの。当時のロータスは資金不足に喘いでおり、1991年シーズン用に新しいシャシーを用意できなかった。そのため、前年のシャシーを改造して生まれたのがこの102Bなのだ。