パナソニック・トヨタ・レーシングは、2006年シーズンへといち早くスタートを切った。
1月14日(土)フランスのバランシエンヌにあるToyota Motor Manufacturing France S.A.S(TMMF)で、世界中のメディアに向けて、新型“トヨタTF106”の報道発表会が行われた。
TMMFは、トヨタの欧州での最多販車である「ヤリス」(日本名ヴィッツ)が生産されている最新鋭工場であり、トヨタのF1活動と自動車生産との密接な関係を示すために、新型“TF106”の報道発表会場として選ばれた。
パナソニック・トヨタ・レーシングは、2006年シーズンへ向けて、斬新なアプローチを採用した。それは、新型“TF106”のレースカーが、すでに、昨年の11月29日にスペイン・バルセロナのカタルニアサーキットでのF1合同テストから走行を開始し、走行距離を伸ばしていることで、実証された。
新しいV型8気筒エンジンの採用により、各チーム横一線になったチャレンジが始まり、また新たなタイヤ供給先となったブリヂストンとの協力関係の中で、2006年シーズンへ向けて、パナソニック・トヨタ・レーシングは、かつて、前例がないほどに早く新型“TF106”を投入した。
トヨタのアグレッシブな開発プログラムは、F1に明確な指針を与えた。
2005年シーズンの終盤2戦で、“TF105B”がポールポジションを獲得してから、たった6週間後に新型“TF106”は、ライバルチームの前に投入された。
「我々は、毎年の新型発表会だけのために、年初に新型を発表するのは、今や時代遅れといえる」とシャシー担当テクニカルディレクターのマイク・ガスコインは語る。
「我々は、ますます頻繁に、大事な要素をアップデートせねばならい。これを管理することは大変難しいが、常にF1カーを速くするということは、ただやみくもに既存のコンポーネントやデザインに変更を加えるのではなく、これまで使用してきた良い部分を最大限に活かすことが必要だ。従って、“TF105”から“TF105B”へ、そして、“TF106“のより早い完成へと、絶え間ない進化のプロセスを辿り、スムーズに移行してきた。そして、また、この進行中のプロセスは“TF106B”へと続き、今現在、2006年シーズン第7戦モナコGPには投入出来る見込みだ。
この、絶え間ない改良のプロセスは、F1プログラムの中でさえ、トヨタの企業理念であり哲学でもある「トヨタ・ウェイ」の基本となる「カイゼン」が活かされていることを示しており、トヨタ・モータースポーツ(有)(TMG)のドイツ・ケルンの工場においても、特に「トヨタ生産方式」(TPS)が役立っている。
TPSは、コンポジット部門やエンジン開発部門で効率を改善するために活かされている。
「TPSは、“トヨタ・ウェイ”の一部であり、絶え間ない改善を通して、無駄を排除、会社内すべてにおいて効率向上が可能だ」と冨田務TMG会長兼チーム代表は語る。
「TPSは、トヨタ自動車はもとより、TMGとF1活動にまで波及された。毎日、我々は、TPSがもたらす効果を実感出来ている」とTMG社長のジョン・ハウエットは語り、「我々は、ケルンで我々の会社のためのTPSグループを作った。それにより、施設全体で、無駄を無くし作業時間を短縮し、効率向上を図ることが出来た。とくに、CNC部門とコンポジット部門では顕著であった。改良には終わりはない。TPSの大事なところは、上司からの指示で実行するよりも、自らの行動で、より機能を発揮するという点である」
TPSの適用は、新型“TF106”をいち早く投入するためのチームの活動に、重要な役割を果たした。大事なことは、2005年シーズンを戦いながら熟成の進んだF1カーを使用して、一刻も早く、V型8気筒エンジンとブリヂストンタイヤをパッケージの一部として経験を蓄積することであった。
エンジン部門テクニカルディレクターのルカ・マルモリーニが説明する。
「2006年のV型10気筒からV型8気筒への移行という面において、“TF106”のパッケージで昨年11月と12月のテストを走らせられたことは、極めて有益であった。1月まで待つことになれば、その後、テストで対応し、準備に時間のかかるパーツを変更して開幕戦に間に合わせるのは難しい。我々は早くからテストを行ってきたことで、テストベンチ上で行ってきたことの確認など、全てにおいて最大限の時間を取ることが出来た。どのドライバーも、パフォーマンスと信頼性において積極的なフィードバックを与えてくれた。そして我々は既にレースを戦えるパッケージを用意出来た自信がある。とはいえ開発のペースを止めることはない」
昨年11月に新型“TF106”の心臓部がテストされている間に、基本的に“ボルトオン”出来るような空力とサスペンションのアップデートパーツが開発され、3月12日にバーレーンで行われる開幕戦までに間に合うように、全力で開発されている。
マイク・ガスコインが続ける。
「出来る限りぎりぎりまで遅らせる理由は、風洞での空力開発に最大の時間を取りたいからである。我々は、開幕戦バーレーンGPまでの期間に、出来る限り多くの時間走行することでメカニカルパッケージでの信頼性向上を進め、その間に風洞で開発した最新の空力パッケージを組み合わせたいと考えている。もし1月に新型が走り出すのであれば、昨年11月のブリヂストンとのテストで学んだことの多くを活かすことが出来なかっただろう。我々はテストから学んだことを心において、既に次の“TF106B”に対応、導入出来る状況にある」
パナソニック・トヨタ・レーシングの2人のドライバー、ラルフ・シューマッハーとヤルノ・トゥルーリによって、昨シーズン、2度の2位を含む5度の表彰台を獲得したあと、2006年のチームの新たな目標は優勝以外にはなくなった。しかし、チーム代表の冨田務は、その挑戦がどれだけ厳しいものか十分すぎるほど理解している。
「当然の事ながら、2006年の選手権における我々の目標は、表彰台の頂点に上がることである。非常にハードに努力を続けているが、我々が2006年に直面するであろう挑戦や、F1の難しさを過小評価はしていない。もし誰かが浮上すれば、他の誰かが順位を下げなくてはならなくなる。もし初優勝を遂げることが出来たとしても、そのポジションを守るために、よりハードな努力を続けなくてはならないだろう」
冨田務はライバルとどのレベルに位置するのか予想することは不可能だと認める。
「何が起こるか予測するのは非常に難しい。特に今シーズンは、新しいV型8気筒エンジン、そして新しいブリヂストンタイヤ、さらに変更された予選方式など、全てが変わってしまっている。目標は、ブリヂストンタイヤ装着チームでの最上位である。我々は昨年、表彰台獲得チームとなったが、ライバルチームも常により上を目指して開発を続けている。明らかにそれはコンスタントに表彰台に上れるチームということを意味しており、そうすれば、表彰台の一番高いところへと上ることも出来るだろう」