ホンダ・レーシングのテクニカルディレクター、ジェフ・ウイリスは、現在進行中のF1のルール変更とコスト削減についての議論に関して、つじつま合わせのような対策が正しい結果を導くとは思えないと主張する人々に賛同する見方を示した。
チームの公式ウエブサイトに掲載されたインタビューの中でウイリスは、F1のルール変更は、長期にわたってルールブックに手を加えなかった場合に比べて、チームにとってはコストアップにつながることが多いと述べた。2006年から施行されるV8エンジンへのスイッチにせよ、議論の多いCDGウイングを含めた空力パッケージの変更にせよ、チームがライバルに対してより高い競争力を手に入れようとすれば、開発が可能な領域をさらに深く掘り下げていくしかない、というのがその理由だ。
「ルールが安定していることの大きな利点は、それによって競争力を維持するために必要な予算額を減らせることであり、そうなれば予算の少ないチームにもチャンスが生まれる」とウイリス。
「それは結果として上位と下位の差を縮めることになり、より接近したレースが見られるだろう。だからルールが安定しているのはF1にとっていいことだ。とはいえ、時にはルールの変更が大きな予算を持つチームの間の序列に変化をもたらすこともある。今年がそうだったようにね。ただ、全体のバランスから言えば、私はルールの安定の方を支持する」
「ルールを変更してもコストをコントロールできないことは、過去10年間の歴史が証明している。チームが使える資金が減らない限り、コストは下がらないんだ。過去のルール変更が私たちにもたらしたのは、結局のところ不必要な出費であり、おそらく私たちにとってはコストアップにしかならなかった。たとえばV10からV8への移行だけでも、それに要した資金の額は天文学的なものだし、今後数年間のテクノロジーの抑制によって、それに十分に見合うだけのコストダウンが図れるとは考えにくい」
「いったんビンから逃げ出してしまった‘精霊’は、もう戻って来ないのと同じだ。私たちが新しいテクノロジーを発見し、それがクルマのパフォーマンスにもたらす効果が確認されれば、そのテクノロジーを禁止しても誰も15年前のテクノロジーに戻ろうとはしない。その代わりに、改定されたレギュレーションの範囲内で新しい解決を探し出そうとして、結局は禁止されたテクノロジーに似た効果を持った別のものの開発に資金を費やすことになる。テクニカルレギュレーションによってコストをコントロールしようとしても、いわば最初から失敗するのが目に見えているんだ」
チームが行うテスト回数の削減は、FIAがしばしば持ち出す方法論であり、さらにFIAはワンメイクタイヤへの復帰によってその実現が可能になると主張している。ミシュランが2006年末でF1から撤退することを発表したため、F1は自動的にこのシナリオに従うことになりそうだが、ウイリスはそれにも長所と短所があると述べた。
「それに関しては、私も2つの方向のどちらへ進むべきなのか悩んでいる。まず第一に、F1はあらゆるレベルでの競争がその本質であり、その見方から言えば、複数のサプライヤーが競い合うのは絶対的に正しい。しかし、ワンメイクタイヤはクルマのパフォーマンスをコントロールするシンプルな方法のひとつであり、その観点からは確かに理屈に合っている。ここ何年かにわたるミシュランとの共同作業はとても満足のいくものだったし、彼らがF1から去ることになって残念だ。(ブリヂストンとの)そうした技術的な戦いがなくなると、F1の見所が減ってしまうのは間違いないだろう」