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技術者の情熱が支えるホンダの開発。コントロールの歓びを味わえるスーパーワン【F1参戦メーカーのフラッグシップモデル】
2026年5月7日
2026年シーズンのFIA F1世界選手権には、11チームが参戦しており、技術規則が大きく変わった新時代のF1を戦っている。この11チームのなかには7つの自動車メーカーがおり、さらにパワーユニット(PU)の共同開発や供給を行うフォードとホンダ、タイトルパートナーを務めるトヨタを含めると、F1に携わる自動車メーカーは10にものぼる。
そこで今回は、国内外で様々な自動車の試乗会に参加した豊富な経験を持つ自動車ジャーナリストの大谷達也氏が、F1に関係する自動車メーカーのなかからひとつを選び、そのメーカーのフラッグシップモデルの解説やエピソードを紹介する。連載の第2回目は、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームにパワーユニット(PU)を供給するホンダだ。
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電気自動車(BEV)戦略の見直しで2兆5000億円もの損失を計上したり、アストンマーティンと組んで参戦した今シーズンのF1では振動の問題で開幕前のテストからまともに走行できなかったりと、ファンにとっては残念なニュースが続いているホンダ。もっとも、F1の振動問題はホンダの責任とは言い切れないことが徐々に明らかになってきた。そもそも、エンジンのボア×ストロークやVバンク角などがレギュレーションでこと細かに決められた現代のF1において、ホンダのエンジンだけがケタ違いに大きな振動を起こすとは考えにくい。また、振動がシャシーを伝わる過程で共振して増幅されているとすれば、それはシャシー側に問題があると考えるのが自然な流れ。そうした背景がありながら、あえてホンダがシャシー側の責任を公に追及しなかったのは、共同体ともいうべきアストンマーティンとの良好な関係を崩したくなかったからだろう。

ちなみにホンダ・レーシング(HRC)のF1パワーユニット開発陣は、各領域の責任者はF1経験者で固められていて、その配下で若手エンジニアが活躍するという構図がすでにできあがっている模様。したがって、右も左もわからない未経験者たちが問題を起こしているとの見方は的外れというべきだ。
いっぽうのBEV戦略の見直しで巨額の損失を計上した件は「三部(敏宏)社長がBEV推進を強引に推し進めたのが原因」と見る向きが少なくないが、なにもホンダはBEV開発を片っ端から止めると言っているわけではなく、現時点では『Honda 0 SUV』、『Honda 0 Saloon』、『Acura RSX』の開発と発売を中止すると発表したのみ。その主な理由は、これらモデルの主な市場と見込んでいたアメリカでの環境規制見直しが直接の原因であって、ホンダにとっては「もらい事故」同然といえなくもない。たしかに、リスク管理が不十分だったという側面はあったにせよ、各国の環境規制を尊重する姿勢自体が非難されるのはいかがなものかと思う。
そんなホンダが送り出したBEVの最新モデルが『スーパーワン』である。
スーパーワンは、軽規格BEVの『N-ONE e:』をベースに開発されたコンパクトスポーツカー。ただし、敢えて軽自動車ではなく小型自動車登録とすることで、外寸や最高出力に関する制約を取っ払い、クルマとして理想の姿を追い求めた点に特徴がある。

袖ヶ浦フォレストレースウェイでスーパーワンを走らせてまず印象に残ったのは、その“生っぽい”運転感覚。コーナリングでタイヤが軽くスライドするくらい追い込んでも、スタビリティコントロールなどの電子制御が介入することなく、あくまでもドライバーにコントロールを委ねてくれるのだ。
最近は、滑り出すか滑り出さないかのうちにスタビリティコントロールが介入し、自分でコントロールする歓びが味わえるクルマが少なくなっているなか、こうしたクルマ本来の特性が味わえるモデルは希少。それどころか、「最先端の自動車」とされるBEVのあり方とは正反対の方向性に軽い衝撃を受けたくらいだ。
しかも、スーパーワンはただ電子制御の介入を控えめにしただけではない。クルマとしての「素の性能」を磨き上げることで、スポーツドライビングの喜びをさらに高めているのだ。
たとえばフロントサスペンションのロワアームはアルミ鍛造製の専用品で、それ以外にもハブ剛性の強化、左右等剛性ドライブシャフトの採用、リヤアクスルビームの補強などを行うことにより、質の高いスポーツドライビングを可能にした。こちらはスーパーワンの専用設計ではないけれど、重心近くの低い位置にバッテリーを搭載することで低重心化とヨー慣性モーメントの低減を図ったことも、スーパーワンの素直なハンドリングに間違いなく貢献していると思う。
こうした、クルマの自然な振る舞いが楽しめるスポーツモデルとの位置づけは、これまでホンダが繰り返し説明してきたゼロ・シリーズの考え方とは大きく異なるもの。なにしろゼロ・シリーズは、3次元ジャイロセンサーを用いた高精度の姿勢推定と安定化制御を行うとしてきたのだ。これはホンダがアシモで培ったロボテクス技術を応用したもので、「様々な路面環境において安心で意のままのダイナミクスを実現します」と説明されていた。いずれにせよ、スーパーワンとは大きく路線が異なるといって間違いないだろう。

それにしても、同じホンダのBEVとして開発されていながら、ゼロ・シリーズとスーパーワンとでは、どうして技術の方向性が大きく異なったのか。
私は、ホンダの技術開発は技術者個人の情熱に支えられている部分が他社に比べて極端に大きいのではないかと捉えている。ひとりの技術者がこれまでにないアイデアを思いつき、それを仲間とともに製品化していく。こうした、ある種の個人主義が尊重されてきたからこそ、ホンダはこれまで独創的なモビリティを世に送り続けることができたのだ。
これを象徴するできごとは、1960年代の第一期F1時代に起きた。
ホンダF1チームを現場で率いる中村良夫は、前年に1勝を挙げたRA300の改良型“RA301”で1968年シーズンを戦うことを主張したが、社長の本田宗一郎はRA302の開発を指揮。この結果、同一シーズンの同一グランプリに、同一メーカーが作り出した水冷V12エンジンと空冷V8エンジンがともにグリッドに並ぶという異常事態が発生した。こんなこと、空前にして絶後だろう。
さすがにそこまで極端なことはいまでは起きないだろうが、ホンダにはいまもいい意味での個人主義が残っているように思う。そうした業務の取り組み方は、開発の効率化という面では不利だが、リスクヘッジという観点からいえば決して悪いことばかりではない。たとえば、三部社長が全面BEV化の方針を打ち出してからも、研究所内にはハイブリッドの可能性を信じる技術者たちがいて、彼らがハイブリッドの開発を続けてきたおかげで、急なBEV路線の見直しにもなんとか対応できたと見る向きがある。
そのような組織としての柔軟性というか粘り強さを発揮して、ホンダがこの窮地から立ち直ることを祈らずにはいられない。





(Text:Tatsuya Otani)
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| 2位 | ジョージ・ラッセル | 80 |
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| 4位 | ランド・ノリス | 51 |
| 5位 | ルイス・ハミルトン | 51 |
| 6位 | オスカー・ピアストリ | 43 |
| 7位 | マックス・フェルスタッペン | 26 |
| 8位 | オリバー・ベアマン | 17 |
| 9位 | ピエール・ガスリー | 16 |
| 10位 | リアム・ローソン | 10 |
| 1位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 180 |
| 2位 | スクーデリア・フェラーリHP | 110 |
| 3位 | マクラーレン・マスターカード・フォーミュラ1チーム | 94 |
| 4位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 30 |
| 5位 | BWTアルピーヌF1チーム | 23 |
| 6位 | TGRハースF1チーム | 18 |
| 7位 | ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム | 14 |
| 8位 | アトラシアン・ウイリアムズF1チーム | 5 |
| 9位 | アウディ・レボリュートF1チーム | 2 |
| 10位 | キャデラックF1チーム | 0 |


