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【F1コラム:利権と闘争】クラッシュで起きたヒステリックな反応。ルール批判の裏側に利己心があってはならない

2026年4月9日

 F1での長いキャリアを経て、今は現場から離れた生活を送っているが、豊富な情報源を持つニック・リチャーズ氏のコラム。裏情報を知る彼が、F1の政治問題をテーマに、独自のシニカルな視点で時事に切り込む。


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「最近の若いものはなんとせっかちなんだ」と思わず口に出した途端、妻は自分に話しかけられたと受け取ったようで、近くの街での出来事についてまくし立て始めた。


「あの子たちときたら信じられないわ。電動自転車や、あのとんでもない電動スクーターで、道路も歩道もまるで自分のものみたいに走り回って、人を転ばせても助けるどころか、笑って侮辱するんだから……まったく、世も末ねえ……」


 突然の怒りのトークに驚いたが、私はうなずいて「そうだね、まったくひどい話だ」と答え、うまく対応した。彼女はその返答に満足したらしく、大切な花の世話をするため庭へと戻っていった。

■ベアマンのクラッシュと過剰反応

 何十年もの結婚生活を経た夫婦の気持ちがどれほど通じ合っているかといえば、この程度のものだ、と思い、私は思わず笑みを浮かべた。私が実際に考えていたのは、鈴鹿でのオリバー・ベアマンのクラッシュの後に、何人かのドライバーたちに見られた、ほとんどヒステリックとも言える反応のことだったのだ。

 はっきり言っておくが、私はどのドライバーにも怪我をしてほしくないし、大きなクラッシュを見るのも好きではない。この60年間、衝撃的な事故や悲痛な出来事を嫌というほど見てきた。だからこそ、スプーンカーブでハースが時速300km近い速度で芝生に飛び出し、コースとグラベルトラップを横断してバリアに突っ込む場面を見た時は、心底心配した。

 しかし幸い、ベアマンはすぐにマシンから降りてきた。長身の彼はコクピットで膝のどこかを打ったらしく、少し足を引きずっていた。しかしその日の午後の終わりに彼に会った人々によると、彼の関心はすでに、自分の犯したミス、失ったポイント、そしてマシンに与えてしまった損傷に集中していたという。

 一方で、他の何人かのドライバーたちは、現行レギュレーションによってコース上で危険が生じているだの、抜本的な対策が必要だのと声高に語っていた。それはさして驚くべきことではない。そうした発言をしていたのは主に、あまり速くないマシンに乗るドライバーたちであり、テストの段階からあれこれ不満を訴えていた面々である。彼らにとって今回の事故は、レギュレーションを批判する絶好の機会であり、転がり込んできたその好機を誰一人逃さなかった。

フランコ・コラピント(アルピーヌ)とオリバー・ベアマン(ハース)
2026年F1第3戦日本GP フランコ・コラピント(アルピーヌ)とオリバー・ベアマン(ハース)

■速度差が10秒を超えた時代もある

 バトルをしているマシン同士の間に大きな速度差が生じるのは確かだ。それは1ラップ全体でのタイム差が極端に大きいという意味ではなく、各マシンがコースの異なる区間でエネルギーの回収・放出を行っているため、ある区間で大幅に速いマシンは、別の区間では大幅に遅くなるという現象によるものである。


 50歳以上のファンであれば覚えているだろう。1977年から1985年、そして1987年から1988年には、ターボエンジン車と自然吸気エンジン車が共存しており、タイム差が非常に大きかった。当時の鈴鹿では、ポールポジションと最下位のタイム差は実に10.17秒もあったのだ。10秒以上というと驚くべき差だが、当時はごく普通のことだった。例えばウイリアムズ・ホンダがストレートで見せる速さは、AGS・フォード・コスワースに比べて圧倒的なものだったが、それでレースが危険だと文句を言う者は誰もいなかった。ドライバーは速度差を織り込んで動きを先読みし、安全に抜けるタイミングで遅いマシンをパスする。それだけのことだったのである。

■利己心からの批判も、拙速な変更も、あってはならない

 もちろん、今年の規則の中に不合理な点があることには私も同意する。たとえば予選でドライバーがラップを通して全開で走り続けることができない点だ。シャルル・ルクレールは今回も素晴らしいQ3ラップを走っていた。だが、スプーン出口でスライドし、それを抑えようとしてスロットルをわずかに戻したことで、パワーユニットがバッテリー出力を絞るタイミングだと判断した。その結果、彼は130Rまでの区間で0.6秒を失い、確実だったフロントロウを逃したのだ。それを見ていた時には、私も思わずこのレギュレーションを罵りたくなった。


 しかし、ベアマンの場合は本人も認めているとおり、原因の一部はドライバーのミスである。ごく小さなミスではあるが、重大な結果を招いた。それに対して性急に反応すべきではない。今は誰もが新しい世代のマシンでのレースを学んでいる最中なのだ。短絡的な反応は常に代償を伴う。次のグランプリまで1カ月以上あるのだから、冷静な判断が保たれ、“終末の預言者”たちが落ち着くことを願うばかりである。

 諸君、どうか慌てるな。感情ではなく理性で考えるべきだ。そして何より、自分の競争上の利益を得るために事故を利用するようなことは、断じてあってはならない。

2026年F1第3戦日本GP
2026年F1第3戦日本GP スタート

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■筆者ニック・リチャーズについて


 F1界に大勢いるミステリアスな存在のひとり。本人は認めたがらないが、かなり高齢で、F1界に最初に足を踏み入れたのは大昔のことだ。大勢のF1関係者にとって、金持ちの伯父さん的な存在であり、公では話さないようなことを彼には何でも話すという人間も多い。


 彼はドライバー、マネージャー、チームオーナー、エンジニア、ジャーナリストたちに対して、惜しみなくアドバイスを与える。大勢の人々が自分の言葉に敬意を払って耳を傾けることがうれしいのだ。


 1950年代には英国国防軍に所属して何度か地域紛争に出動、英国空軍を経て、諜報活動にも従事した。モータースポーツの世界に入るきっかけは定かではないが、1960年代には日本で暮らし、ホンダのアドバイザーのような役割も果たしていたというウワサや、アメリカの国家機関とのつながりから、グッドイヤーを通じてグランプリに関わるようになったという説もある。バーニー・エクレストンのブラバム買収、フランク・ウイリアムズのためのスポンサー契約、ロジャー・ペンスキーのF1挑戦などをサポートしていたという話も伝わっている。


 誰にでもフレンドリーだが実際には誰とも友人関係にはならないという距離感を保ちながら、彼は50年間にわたりパドックの住人としておなじみの存在だった。しかし、世界中を旅する生活に疲れ、今はイギリスの「海辺の美しくこじんまりとしたコテージ」に腰を落ち着けている。具体的な場所は誰にも公表していない。


 長年の人脈から、F1界で起きていることはすべて熟知している。今でも時にはモナコ、シルバーストン、モンツァに出かけることがあり、そんな時に彼が投げかける鋭い質問に人々は驚く。まるで今も毎戦パドックにいるように、豊富な情報を持っているからだ。



(Text : Nick Richards)


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