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「当たり前がそうではなくなった」新規則、カギはバッテリー管理。開幕戦へのマインドセット【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第1回】
2026年3月5日
2026年シーズンで11年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。2026年シーズンのF1は技術規則の大幅な変更により、これまでとはまったく異なる新しい時代を迎える。バルセロナで行われた非公開でのシェイクダウンと、バーレーンでの2回のプレシーズンテストを終えて、小松代表はハースの新車『VF-26』の素性は悪くないと語った。その一方で以前から懸念していたパワーユニット(PU)のバッテリーの問題には直面したものの、テストで話題になったスタート手順やターボについては、フェラーリ製PUに好感触だ。
今回のコラムでは、F1の新時代となる2026年シーズンを前に、シェイクダウンとプレシーズンテストを小松代表が振り返ります。
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■「常にバッテリーのことを考えている」ドライバーの負担も増加
スペインのバルセロナでのシェイクダウン、そしてバーレーンでの2回のプレシーズンテストが終了しました。ハースの2026年型車『VF-26』を走らせた率直な感想としては、悪くはないですよ。全体的に見て、いいベースのクルマができたなという感じです。
一部ではトップチームに対抗できるダークホースかもしれないと言われたそうですが、残念ながらそのレベルではありません。トップにはメルセデス、フェラーリ、レッドブル、マクラーレンの4チームがいて、そこから結構な差があって、ハース、アルピーヌ、アウディ、レーシングブルズという中団勢がいると思います。この中団4チームのなかで誰が上位にいるかというと、一応テストの最終段階ではハースが上位の方にいるとは考えています。ただ本当にトップどうかはわかりません。あとで詳しく触れますが、パワーユニット(PU)のパフォーマンスによっても、この4チームの序列はすぐに変わるでしょうね。
でも、滑り出しとしてはよかったです。僕たちは昨年VF-25の開発にかなりリソースを注ぎ込んでいて、VF-26の開発はそれと並行してやってきたので、もっとひどい状況も覚悟していました。実際は僕が覚悟していたよりもいいレベルで走れましたし、クルマの理解も進み、VF-26の素性も悪くないです。 2025年シーズンを完全に諦めて2026年のクルマに集中していたアルピーヌとも今のところ戦えていますし、これは自分のチームのことではありますが結構すごいことだと思っています。みんなの自信にもなりますしね。

さて、ここからはプレシーズンテストを振り返っていこうと思います。何が大変だったかといえば、PUです。今までは当たり前だったことが、そうではなくなってしまったという印象でした。たとえば、これまでは予選のアタックの準備を行うアウトラップでは、ドライバーは基本的にはタイヤをどう温めるか、またはブレーキ温度をどうすればいいかということに集中していれば問題ありませんでした(もちろんトラフィックなども考えなければならないのですが、それはドライバーだけの問題ではありません)。
ですがこの新しいPUになってからは、ドライバーはアウトラップで『バッテリーがきちんと充電された状態で、アタックラップを始められるようにすること』に集中しなければいけない状態に変わりました。というのも、アクセルを全開にした時にMGU-Kで回収した電気のエネルギーを使わなければならないという規則があるので、タイヤを温めるために全開で走るとバッテリーを使ってしまうことになります。ですが、アタックラップで直線速度を上げるためにバッテリーを使いたくはないので、アタック前は全開では走りたくないんです。
つまり、アタックラップにおいて、PUのシステムをきちんと準備するためにドライバーがやらなければいけないことがすごく増えたということです。予選アタックを1周やる時に、もしそのアウトラップできちんとバッテリーの状態を整えられなかったら、ターン1に到達する前に0.3〜0.4秒ロスすることになり、ターン1に到達する前に勝負が終わる可能性があるのです。

それから今年は予選でもリフト&コーストをしないといけないです。予選は、どこまでブレーキングを遅らせられるかというのもひとつの醍醐味でしたけど、それももうありません。
ギヤに関しても、これまではドライバーが一番使いたいギヤで走っていましたけど、今はできるだけ低いギヤで走った方がいいです。たとえば低速コーナーで、本当だったら2速が最適だけど、1速を使った方がエンジンの回転数が上がってパワーが出る、つまりMGU-Kの電気エネルギーをあまり使わなくて済むのなら、MGU-Kの方を温存することを選びます。どこでエネルギーを回収するのか、どこでエネルギーを使うのかということを考える比重が本当に大きくなりました。今までの基本的な考え方と全然違いますし、常にバッテリーのことを考えています。だから現状に満足していないドライバーもいるのです。
オーバーテイクも結構難しいですよ。僕たちは、前回のコラム(編注:クルマの小型化でバトルは増えるのか、メルセデスPUは本当に優位か。新規則にまつわる疑問を解説【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム】/2026年1月15日掲載)でも書いたように、高速道路の追い抜き車線を見ているかのようなオーバーテイクはやりたくないです。でもみんなが「リフト&コーストをしないとエネルギーをリカバリーできない」というような状態で、醍醐味のあるオーバーテイクができるのかという大きな疑問は残っています。
レースで実際にどうなるかは、レースが始まらないとわかりません。このコラムを書く前日にF1コミッションの特別ミーティングがあって、結局最初の数戦は規則を変えずに様子を見ることに決まりました。レースをする前に限られたデータで何かを変えてしまうのはよくないですし、問題全体が見えていない時に変更をするとまたさらに何かを変えなければいけないので、これはいい決定です。

■スタートを左右するターボ。フェラーリPUは現状問題なし
前回のコラムでは、メルセデス製のPUが優位なのではないかと考えていると書きましたが、2回のテストを終えた後もその印象は変わっていません。そもそもメルセデスはまだ全力を出していないと思います。冒頭で触れた通り、バーレーンテストを見る限りでは僕たちは今のところアルピーヌ、アウディ、レーシングブルズと戦っています。このなかではアルピーヌが今年からメルセデスPUを搭載していて、おそらくアルピーヌはまだ全開で走っていないと考えています。オーストラリアに行って、アルピーヌがレーススペックのPUを載せて全開で走った時にどれだけ速くなるかが怖いですね。
僕たち4チームより後ろに位置しているのがウイリアムズ、キャデラック、アストンマーティンだと思いますが、ウイリアムズもメルセデスPUを使っていて、彼らに対してもアルピーヌと同じように考えています。僕たちはメルセデス本家とは戦っていないので彼らはともかく、アルピーヌやウイリアムズが全開で走った時にどれだけ速くなるかというのが一番の懸念点ですが、そんなことは心配しても仕方ないので、自分たちのやれることに集中しています。
それから少しスタート手順の件にも触れておこうと思います。何が問題かというと、一般に言われているターボラグです。ターボは従来、エンジンから出る排気ガスのエネルギーで回しています。ですから、ドライバーのアクセル入力→エンジン回転→排気ガス→ターボ回転となるので、遅れ(ラグ)が出てしまいます。2025年まではMGU-Hというモーターがターボを回していたのでこの遅れはありませんでしたが、今年はそのMGU-Hが廃止されました。またスタート時にMGU-Kからアシストを受けられないと規則で決まっているので、ターボは従来の排気ガスのエネルギーに頼ることになります。
グリッドにつくと、エンジンの回転数をある程度のところまで上げて、スタートの準備をしますよね。それを僕たちはプレ・スタートレブと呼ぶのですが、今年は今までと同じように5個のレッドライトのシーケンスの間にそれをやっても、なかなかターボの回転数が上がりません。 これまでよりも長い時間それをやって、安定してターボがついてきたところでスタートすればうまくいくのですが、回転数が上がるまでにどれくらいの時間が必要かというのはターボの大きさやデザインによって変わります。フェラーリ製PUは、はっきり言って悪くないですね。それほど時間かけずに、きちんと反応してくれるターボだと評価しています。

総括すると、今のところVF-26のコンセプトが大きく間違っているということはありません。ただトップ4チームとの差は大きいですし、どのコンセプトが正解なのかはまだわかりません。いろいろなコンセプトで製造されたクルマがあるので、それらを勉強して、僕たちは何を間違えたのか、何を見落としたのかを謙虚に考えながら開発を進めていきます。
■「開幕戦は“基本”を最高レベルでやる」
このシーズンオフで一番大変だったのは、フィオラノでのシェイクダウンと、その後のバルセロナでのシェイクダウンです。VF-26の部品の到着が遅れたことで、久しぶりに修羅場を経験しました。
僕たちは当初、シェイクダウンをバルセロナでやる予定だったのですが、バルセロナで土曜の朝(1月24日)に走らせるということは、クルマを作っているダラーラのファクトリーをその2日前には出発しないといけません。でも4日前の時点でクルマの状態を見て、それはできないと僕が判断を下しました。それでフィオラノで走らせられないかとフェラーリに交渉して、許可をもらいました。ということは、当初の期限だった木曜とその翌日の金曜も作業ができるようになったということです。最悪の場合は、走行日の朝9時まで部品の到着を待てることになったのです。終わってから知ったのですが、土曜日にフィオラノで走れるようになると思っていた人は僕だけだったみたいで、走行後にはみんな「絶対に無理だと思った」と僕に打ち明けに来ました。
またバルセロナでのシェイクダウン初日(1月26日)に走るという計画も、本当に無理だとわかるまでは計画を変えたくなかったんです。フィオラノを出てバルセロナにクルマや人が着くのは前日25日の午後なので、1月26日の朝9時にバルセロナで走るということは、準備の時間はほぼ半日、数時間しかありません。普通だったら数日かかることを数時間でやり遂げることができました。そのおかげで、バルセロナの1日目は154周走れたのです。
もしフィオラノでシェイクダウンをしていなかったら、バルセロナの初日はおそらく30周くらいしか走れなかったと思います。ではどうしてフィオラノで走れたかというと、目的や達成しなければいけないこと(今回でいえば1月24日に走ること)があって、そのためには何をすべきかを逆算し、それをこなすために全力投球することだけを考えていたからです。ひとつひとつのマイルストーンをクリアしていくというのが非常に大事なことでした。

このチームいいところだなと思うのは、こういった修羅場になったときに、できないと思っていてもみんな文句を言わずにとにかく全力を尽くしてくれることです。僕の役割というのは『ターゲットを決めること』だと思っていて、何が目的なのか、そのためには何が最善の方法なのかを考えて、その目標を達成するのに邪魔になるバリアをなるべく取り除いて、あとは実行部隊に実現してもらう、という感じでここまで進めてきました。
多分こういう時の僕の強みは、今までずっとその実行部隊としてやってきたことです。タイヤエンジニアから始まって、ビークルパフォーマンスエンジニア、パフォーマンスエンジニア、レースエンジニア、チーフレースエンジニア、エンジニアリングディレクターと、いろんな立場で現場で経験を積んできました。技術的なことだけでなく、オペレーションのうえでどんな制約があるのか、何ができるのかというのを知っているので、あまり的外れなことは言っていないと思っています。その僕のバックグラウンドが、絵に描いた餅にならないような方針を決める助けになっているのではないでしょうか。すべてこれまでの積み重ねです。
今は開幕戦に向けて『基本を大事にすることが第一』とチームのみんなには伝えています。特に新レギュレーションが導入された直後なので、先ほど書いたスタートの話だけでなく、当たり前だったことが当たり前ではなくなって、いろいろなところでいろいろなことが起きるはずです。だから開幕からの数戦は、コンマ1秒のパフォーマンスを追いかけるのではなく、やるべきことを簡素化して、基本に忠実にやるということです。とにかく無駄なことはしない、 欲ばらない、基本に忠実に、でもその基本を最高のレベルでやりましょう、と。そうすれば結果はついてくると思っていて、 みんなにそういうマインドセットで開幕戦に臨んでもらえるようにすることを大事にしています。



(Text : Ayao Komatsu)
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| 1位 | ランド・ノリス | 423 |
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| 3位 | オスカー・ピアストリ | 410 |
| 4位 | ジョージ・ラッセル | 319 |
| 5位 | シャルル・ルクレール | 242 |
| 6位 | ルイス・ハミルトン | 156 |
| 7位 | アンドレア・キミ・アントネッリ | 150 |
| 8位 | アレクサンダー・アルボン | 73 |
| 9位 | カルロス・サインツ | 64 |
| 10位 | フェルナンド・アロンソ | 56 |
| 1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 833 |
| 2位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 469 |
| 3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 451 |
| 4位 | スクーデリア・フェラーリHP | 398 |
| 5位 | アトラシアン・ウイリアムズ・レーシング | 137 |
| 6位 | ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム | 92 |
| 7位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 89 |
| 8位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 79 |
| 9位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 70 |
| 10位 | BWTアルピーヌF1チーム | 22 |



