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クルマの小型化でバトルは増えるのか、メルセデスPUは本当に優位か。新規則にまつわる疑問を解説【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム】

2026年1月15日

 2026年、F1の技術規則は大きく変わり、シャシー、タイヤ、パワーユニット(PU)とすべてが2025年とは異なるものになる。TGRハースF1チームの小松礼雄代表は、そんな史上最大規模の規則変更を前に、「チーム史上最も厳しいチャレンジになる」と考えシーズンを戦う準備を進めている。


 そこで今回は、メルセデスの優位が噂されるPU事情、エネルギーの使い方やドライバーの負担、さらにはそれらに付随して懸念されるショーとしての質、そしてクルマの小型化がオーバーテイクの機会に及ぼす影響など、新規則に関するいくつかの疑問を小松代表が解説します。

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 あけましておめでとうございます。みなさんはいいクリスマスとお正月を過ごすことができたでしょうか? 今年は久しぶりにお正月を日本で過ごして、初詣にも行ったりと楽しいオフになりました。2026年はF1史上稀にみる大きな変革のシーズンになります。また新チームや新PUマニュファクチャラーの参戦などでF1がもっともっと活気づいてくると思います。様々なチャレンジが予想されますが、それもF1です。もっともっといいレースができるように励みますので、どうぞ今シーズンもよろしくお願いいたします。

■ダウンフォース減のミュールカーで走行

 2026年は、F1の技術規則が大きく変わります。大まかに説明すると、まず車体は俊敏性を追求するために小型化、軽量化されます。具体的には、シャシーの幅は2000mmから1900mmに、最低重量は2025年までよりも30kg軽い768kgへと変更されました。タイヤは18インチのままですが、前後ともに幅が狭くなります。フロントは25mm縮小されて280mに、リヤは30mm狭い375mmです。


 また、2025年シーズンまで使用されたDRS(ドラッグ・リダクション・システム)は廃止され、新たに『アクティブエアロダイナミクス』という可動式のフロントウイング、リヤウイングを導入します。これはオーバーテイクや接近戦を促進し、グリップとスピードを得られるようにすることを目的としたものです。


 パワーユニット(PU)については、内燃機関(ICE)と電気モーターによる出力比率が、これまでは8:2だったのが、2026年からは5:5となり、電気モーターの出力が約3倍になります。またPUメーカーのコスト負担の大きかったMGU-H(熱エネルギー回生システム)が廃止され、燃料はカーボンニュートラル燃料(CNF)を使用することになります。


 僕としては、これほど大きく変わる規則に合わせてクルマを開発して戦うことは、ハース史上最も厳しいチャレンジになると思っています。


 まずは2025年の最終戦アブダビGP後に、この新しい規則に合わせたミュールカーをタイヤテストで走らせました。ミュールカーをドライブしたのはハースのレギュラードライバーであるエステバン・オコンとオリバー・ベアマンで、エステバンが走行する時にトラブルが出てしまったので、彼はほとんど走れておらず、チームとして得られた情報量もそれほど多くありません。ミュールカーは新規則に合わせてダウンフォースを減らしているので、2025年のクルマに慣れた状態からだとすぐに対応できるものではなく、大変だったと聞いています。

オリバー・ベアマン(ハース)
2025年F1アブダビテスト オリバー・ベアマン(ハース)

 このテストには、メルセデスがチューブのついた実験版の可動式フロントウイングを持ち込んでいました。ミュールカーは実際の2026年型のクルマではないので、あれを見て特に何かリアクションをするということはなかったですが、自分たちが規則に沿った正しいクルマを開発できているのかどうか、何が正解なのかは2026年シーズンが始まってみないとわかりません。みんなそれぞれ蓋を開けるまでは不安だと思います。少なくともうちは新規則の導入を楽しみにしていると言っている余裕はないです。

2025年F1アブダビテスト アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)
2025年F1アブダビテスト アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)のマシンには、チューブのついた実験版の可動式フロントウイングが搭載された

■エネルギーの回収とディプロイメントがよりいっそう重要に

 PUに関していうと、メルセデスが優位なのではないかという報道がありますが、僕も含めて多くの人がそう考えていると思います。それはやはりメルセデスが、1.6リッターV6ターボ・ハイブリッドPUが導入された2014年に成功したからです。彼らには計画性があって、組織的に動き、長期的にものを開発できる能力があるということが証明されましたよね。やられた側の僕ら(編注:当時はルノーF1でロマン・グロージャンのエンジニアを担当)はメルセデスとの違いを目の当たりにしたことを忘れていないので、2026年もメルセデスがベンチマークになると個人的には予想しています。


 フォードやアウディといった新しいPUメーカーが最初から上位に来るというのはちょっと考えにくいですし、ホンダがどの位置にいるかもわかりません。フェラーリがメルセデスの位置につけるかというと、それもまたわからないですしね。


 ただ、2014年のような“一強状態”にならないようにするために、『ADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities)』という救済措置が用意されました。これは、各メーカーのPUのパワー出力を見て、もしどこかのメーカーが大幅に劣っていたら、そのメーカーにはコスト上限外で追加の開発が許されるというものです。6レースに1回見直されるので、2026年シーズン中には3回の措置が認められます。


 PU規則が変わるので、当然ですがすべてフェラーリ任せというわけにはいきません。特にエネルギーマネージメントはうちのドライバーやエンジニアと、フェラーリのエンジニアが協力して取り組むべきものです。2026年は現場でオペレーションに携わる人をふたり増やしていいということなったので、これから何が一番大きな問題なのかを見極めて、追加できるふたりをどこに配置するか決めることになると思います。

ラウラ・ミュラー&エステバン・オコン(ハース)
担当レースエンジニアのラウラ・ミュラーとエステバン・オコン(ハース)
オリバー・ベアマン(ハース)
2025年F1アブダビテスト オリバー・ベアマン(ハース)

 それから、ドライバーの負担もかなり増えます。2025年までのクルマよりもダウンフォースが減少するので、2026年は新しいクルマに慣れなければいけないという課題もあります。これに慣れるのは、乱暴な言い方をしてしまえば普段コース上でグリップの低い状況に適応するのとあまり変わらないので、それほど時間はかからないはずです。


 それよりも重要なのは、エネルギーの回収とディプロイメントです。回収できる電気エネルギーというのは限られているので、回収できる時にそれをしていなかったり、エネルギーを使わなくていいところで無駄に使ったりすると、必要な時にエネルギーが足りない状態になって直線で簡単に追い抜かれてしまいます。回収とディプロイメントはシミュレーターで練習できますが、ソフトウェアにどこまでこの仕組みが反映されているかにもよります。シミュレーターの使い方もすごく重要で、今まで以上にドライバーがトレーニングをする場が必要です。


 今使われているターボエンジンは、電気エネルギーを使ってターボを回さないと、ターボラグ(スロットルを踏んだ瞬間ではなく、若干遅れてパワーが出る症状)が発生します。このラグが起きると、自分の思ったのとは違うタイミングでパワーが出るので、それをなくすためにも電気エネルギーを使うのです。ということは、たとえば低速コーナーの出口でアクセルを必要以上に踏んでしまうと、ガソリンだけでなく電気エネルギーも無駄に使うことになります。そうなると、長い直線で必要なエネルギーを、まったくオーバーテイクのできないところで使うことになってしまいます。こういった仕組みを理解して、エネルギーの回収とディプロイメント正確にやらないといけないので、ドライバーの負担が増えるのです。

■ドラッグとダウンフォースの比率の正解を探る『アクティブエアロダイナミクス』

 2026年のF1でもうひとつ大きな変更として、アクティブエアロダイナミクスの採用があります。アクティブエアロダイナミクスというのは、冒頭でも書いた通り可動式のフロントウイング、リヤウイングで、コース上でドラッグとダウンフォースのレベルを調整するためのものです。これの開発は、現在進行形で大変です!


 2025年までのF1では、たとえば超ハイダウンフォース仕様のクルマが必要なモナコ、反対に超ローダウンフォース仕様のクルマが必要なイタリア(モンツァ)では、すごく単純に言うと、リヤウイングでダウンフォースのレベルを調整していました。モナコでは大きなリヤウイングを搭載してダウンフォースを稼いで、モンツァでは薄いウイングでドラッグを削っていたのです。それが2026年からは、可動式の前後のウイングを使って調整することになります。ストレートを走ったら、フロントウイングが下がって、リアウイングが開くというもので、ドライバーのコントロールによるものではありません。

2026年F1新世代マシン(イメージ)
F1が発表した2026年F1新世代マシンの最新レンダリング画像(フロント)
2026年F1新世代マシン(イメージ)
F1が発表した2026年F1新世代マシンの最新レンダリング画像(リヤ)

 ドラッグとダウンフォースの比率をどうするのが正解なのかを見極めるのは難しいですし、正解はやっぱり蓋を開けてみないとわかりません。自分たちの考え方が合っているかどうかというのが最も肝心なことで、正解を見つけてうまくやれるチームもあれば、たとえ見つけたとしても失敗するチームもあります。2025年までのグラウンドエフェクトカーの規則でも、最初は様々な考え方がありましたが、それが数年かけて集約するわけですよね。その結果、差も縮まります。そのなかでもうまくやっていたのがマクラーレンやレッドブルということです。


 規則が変わる時というのは、間違った考え方でクルマを開発するチームも絶対に出てきます。それがハースでないことを願っていますけど、そんなのはわかりません。自分たちの本当の立ち位置がわかるのは、開幕前の最後のバーレーンテストか開幕戦でしょうね。


 それから大きな規則変更に際していうと、まだそれを実行する各チームの能力が追いついていないことがあります。そういう場合の1年目のシーズンというのは、ある意味犠牲のような年になりかねないです。ただ、F1の誇れる点は、開発の早さだと思っています。2014年の経験がある人もいるので、最初のうちはどんなに酷くても、すごいスピードでみんな改善していくはずです。だから最初の数レースがどれほど酷くても、そこから先をぜひ見てほしいです。


 最近F1を見始めたファンの方々に、エネルギーの回収やディプロイメント、アクティブエアロなどを説明するのは難しいものです。「なんでこういうことが起きるのか?」という疑問に対して、どれだけわかりやすく説明できるかというのも、僕たちが頭を悩ませているところで、ファンに対して、今何が起きているのか、なぜこうなるのかというのを簡単に説明できなければ、ファンは離れていってしまいますよね。いくら舞台裏で難しい開発をやっていても、それをどれだけ簡単にわかりやすく説明できるかがすごく大事です。だからこそ用語も変わり、当初アクティブエアロのシステムはXモード、Zモードという名前だったのが、『オーバーテイク・モード』、『ブースト・モード』となりました。こうした意識改革は、リバティ・メディアをはじめF1全体で過去の反省を活かして一生懸命取り組んでいることです。


 少し話は逸れましたが、結論として、2026年のクルマは2025年のものより遅くなると思います。そして過去の規則変更でもそうだったように、徐々にクルマは速くなっていくはずです。

■“見かけ上のオーバーテイク”が増える懸念

 先に書いた通り、2026年のクルマは小型化、軽量化します。ただし、これでオーバーテイクがしやすくなったり機会が増えるのかというと、状況はほとんど変わらないと僕は考えています。僕が20年前にルノーで働いていた時、すでにモナコでのオーバーテイクは難しかったですし、近年はあれからさらにクルマが大きくなって追い抜きはより難しくなりました。


 もちろん、クルマの小型化や軽量化には賛成です。やっぱり今のF1を見ているとクルマがあまりにも大きく、そして重くなりすぎて、たとえば低速コーナーでは本当にシングルシーターかと思うくらいクルマの反応も遅いです。でも、クルマの幅を多少縮小したからといってオーバーテイクの難易度や機会に差が生まれるかというと、そんなことはないと思います。

エステバン・オコン(ハース)
2025年F1第8戦モナコGP エステバン・オコン(ハース)

 僕はそれよりも、先ほど触れたエネルギーの問題を懸念しています。つまり、エネルギーの有無がオーバーテイクを大きく左右してしまうのです。もしエネルギーの回収とディプロイメントに失敗すると、コース上で1台はエネルギーがまったくない状態になり、もう1台はエネルギーを使える状態でオーバーテイクをすることになります。見かけ上はオーバーテイクになりますが、僕はこれでは本当のレースではないと感じています。 僕らの育ってきた年代というのは、度胸のあるドライバーがギリギリのところでリスクをとって飛び込んでいくというのがオーバーテイクであり、そういうことをできるのがすごいドライバーだという認識でした。でもエネルギーの有無でオーバーテイクが生まれるなら、それは高速道路の追い抜き車線を見るのと変わらないと感じてしまいます。


 もちろん、サーキットでレースを見ているお客さんの目の前でクルマの順位が入れ替わるというひとつの“アクション”が起きること自体は、ポジティブに捉えています。その舞台裏で僕たちが、度胸のあるドライバーがリスクを背負って飛び込んでいけるような、そういった従来のオーバーテイクができるようにしていかなければなりません。


 NetflixではF1のドキュメンタリー番組が配信され、2025年にはF1の映画も公開されて、今F1の人気は高まっていますけど、僕らが一番怖いのは、レースの質が落ちてみんなが一気にしらけてしまうことです。かつて2005年のアメリカGPでは、ミシュランのタイヤを使うチームが安全性を理由に決勝レースを棄権し、6台のブリヂストン勢だけがレースを走るということがありました。当然現場はしらけて、ブーイングも起こりました。その記憶もあるから、もしショーが本当に酷いものになってしまったら、またああやってしらけてしまうかもしれないという危機感があるのです。せっかく今これだけみんながF1に期待してくれて、チケットが完売するグランプリも多いので、やっぱりそれに見合ったレースをしないといけないですし、だからこそADUOもできたわけです。


 以上の通り、2026年は僕たちにとって厳しいチャレンジになると思います。大きく規則が変わる時は、基本的にはスタッフの数が多くて、設備の整っているチームの方が強くなります。でも400人にも満たないハースというチームが2024年、2025年にあれだけ戦えたということは、チームが一丸となって戦えたということです。どれだけ酷い状況になったとしても、一丸となってやっていけば問題を解決できることを自分たちなりに証明してきているので、チームワークがハースの強みになると思っています。

小松礼雄代表、エステバン・オコン、オリバー・ベアマン(ハース)
2025年F1第22戦ラスベガスGP 左から小松礼雄代表、エステバン・オコン、オリバー・ベアマン(ハース)


(Text : Ayao Komatsu)


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