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【F1コラム】F1特有の世界で『キャデラック・フェラーリ』が誕生。F1参入目指すGMパワーユニット会社が置かれた難しい立場

2025年12月23日

 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、2026年からF1に参入するキャデラックチームのエンジン事情についてまとめた。

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 2026年1月に初めてキャデラックF1がトラックに姿を現す際、そのマシンにはフェラーリ製エンジンが搭載される。


 F1以外の世界では、キャデラック・フェラーリという組み合わせは理解しがたい。キャデラックはゼネラルモーターズグループの一員であり、フェラーリは、FIATとの関係があり、したがってステランティスコンソーシアムとの繋がりを持つ独立企業だ。しかし、エンジン契約に関しては、F1は特有の世界であり、アストンマーティン・ホンダやアルピーヌ・メルセデスという組み合わせも実現する。

■フェラーリエンジン以外に現実的な選択肢はなかった

スクーデリア・フェラーリ
フェラーリのロゴ

 キャデラックにとって、2026年に参戦するためのエンジンの現実的な選択肢は、フェラーリのみだった。彼らが正式にグリッドへの参加枠を割り当てられたのは2025年の3月初旬であり、マシンを準備するだけでも十分に難しい状況だった。このような短期間でエンジンを準備することは不可能だ。


 キャデラックF1プロジェクトを立ち上げたアンドレッティ・モータースポーツは、ルノーと予備的なエンジン契約を結んでいたが、FIAとF1組織がプロジェクトに正式な承認を与えるはるか前に、その契約は失効していた。その後、ルノーはF1エンジン部門の閉鎖を決定し、F1の他のエンジンサプライヤーはキャデラックにとって現実的ではなかった。


 ホンダは2026年からアストンマーティンと独占契約を結んでおり、メルセデスはすでに3つのカスタマーチームを抱え、アウディは自社のファクトリーチームに注力しており、レッドブルに協力するフォードは、ゼネラルモーターズの宿敵だ。


 一方で、フェラーリには供給する余力があった。なぜなら、彼らのカスタマーチームのひとつで、16年にわたりフェラーリエンジンを使用してきたザウバーが、2026年にはアウディのファクトリーチームになるからである。

■2031年規則がおよぼす独自エンジン開発への影響

2025年F1第16戦イタリアGP
2025年F1第16戦イタリアGP 決勝スタート

 待望の参戦枠を獲得するために、ゼネラルモーターズは数年以内に独自のF1エンジンを準備することを約束しなければならなかった。キャデラックは当初、2028年からゼネラルモーターズ製エンジンを搭載する準備を整えることを目標としていたが、FIA会長のモハメド・ビン・スライエムが2029年という早い時期に自然吸気V8という新しいエンジン規則の計画を提示したため、キャデラックのプランは1年延期された。しかし、ビン・スライエムの構想はすぐに撤回され、今のところ、2026年のエンジン規則は2030年まで継続されることになっている。2031年以降の規則はまだ定められていないが、それまで使用されるV6ターボ・ハイブリッドエンジンとは大きく異なるものになると予想されている。


 2031年の規則に関する不確実性は、キャデラックを難しい状況に置いている。2029年までに新エンジンを準備するという約束を果たすとすれば、2031年に次の新しいエンジン規則が導入される前に、わずか2シーズンしか使用できないことになる。新しいF1エンジンがわずか2年で競争力を持つようになる可能性は低く、同時に、わずか2シーズンで償却されるエンジンを開発することは経済的に意味をなさない。


 したがって、すべての状況が、キャデラックは2030年までフェラーリエンジンを使い続けなければならないことを示している。2026年に導入されるエンジンで絶望的に遅れをとる代わりに、キャデラックは競合他社と同時に2031年用エンジンの開発を始めることができる。

■アメリカ製F1エンジンという挑戦

キャデラックF1チーム
キャデラックF1チームのロゴ

 キャデラックは、アダム・ベイカーをF1エンジン部門の責任者として採用した。51歳のベイカーは、2002年にコスワースでF1キャリアをスタートさせ、2005年にBMWのF1チームに移籍した。2018年からはFIAの安全責任者として働いた後、2021年にアウディによってヘッドハンティングされ、F1プロジェクトの責任者となった。


 ベイカーはノイブルク・アン・デア・ドナウで、アウディのための堅実なF1エンジン部門を構築した。しかし彼は2025年の春に経営陣が交代した際にチームを離れ、以前フェラーリのエンジン部門とチーム全体の責任者を務めていたマッティア・ビノットが、アウディF1の新しいCOOとなった。


 ゼネラルモーターズの新しいF1エンジン部門は、ノースカロライナ州シャーロットに本部を置くことになる。これはベイカーにとって問題となる可能性がある。なぜなら、50年以上にわたり、すべてのF1エンジンは英国、イタリア、フランス、または日本のいずれかで製造されてきたため、F1エンジンを製造するためのインフラと人材は、これらの国にのみ存在するのだ。


 米国で製造された最後のF1エンジンは、1971年にロータスが実験的に使用したプラット・アンド・ホイットニーのガスタービンエンジンだ。米国製の他のF1エンジンは、1960年にデンマーク系アメリカ人のランス・レベントローが自身のスカラブカーのために製造した直列4気筒エンジンだけである。


 アダム・ベイカーは、キャデラックF1チームにおける多くの新規採用者のひとりに過ぎない。マイアミGPの運営組織から来たタイラー・エップが商業戦略責任者として採用され、アストンマーティンF1チームの広報責任者エイドリアン・アトキンソンは、キャデラックで同様の役職に就いた。


 キャデラックのレギュラードライバーは、ベテランのバルテリ・ボッタスとセルジオ・ペレス。公式テストドライバーをコルトン・ハータが務め、3人の新しいシミュレータードライバーが彼をサポートする。元インディカードライバーで優勝経験もあるシモン・パジェノー、コルベットGTドライバーのチャーリー・イーストウッド、そして2019年からハースF1チームのリザーブドライバーを務めてきたピエトロ・フィッティパルディである。


 フェラーリは、エンジンパートナーシップの一環として、キャデラックが事前に現場の手順に慣れることができるよう、2年前のF1マシンをテストに提供、11月にペレスがイモラでテストを行っている。

キャデラックF1チームがバルテリ・ボッタスとセルジオ・ペレスと契約
キャデラックF1チームの代表グレアム・ロードン、ドライバーのバルテリ・ボッタスとセルジオ・ペレス


(Text : Peter Nygaard)


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