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F1初走行は「楽しくて仕方ない!」大成功のグッドウッド参加/富士テストの狙いと期待【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】

2025年7月24日

 2025年シーズンで10年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。F1イギリスGP終了後、ハースはチーム設立10周年を記念して初めてグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに参加した。チームの歴史を振り返るスペースやメッセージを書き込めるショーカーの展示、そして小松代表自身も参加したデモランなど、観客を巻き込むハースの取り組みは大成功に終わったという。


 またハースは、8月に日本で旧型車を用いたテストを行うことを発表した。リザーブドライバーの平川亮選手と、提携するTOYOTA GAZOO Racingからの要望により国内の選手権で2冠を達成した坪井翔選手が参加することも明らかになっており、日本のモータースポーツファンにとって楽しみな話題がひとつ増えた。そんな盛りだくさんの2週間を小松代表が振り返ります。

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■2025年F1第11戦オーストリアGP
No.31 エステバン・オコン 予選17番手/決勝10位
No.87 オリバー・ベアマン 予選15番手/決勝11位


■第12戦イギリスGP
No.31 エステバン・オコン 予選15番手/決勝13位
No.87 オリバー・ベアマン 予選8番手/決勝11位

■「乗ったらおもしろくて仕方ない」当初は参加しないはずだったデモラン

 F1第12戦イギリスGPの後、ハースF1チームとして初めてグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに参加しました。これまで何度かコラムにも書いているように、今年はチーム創設から10年という節目の年なので、それを記念して参加することを決めました。結論から言うと、イベントに参加して創設10周年を祝う試みは大成功でした!


 グッドウッドではエステバンとオリー(編注:オリバー・ベアマン)、チームオーナーのジーン・ハース、そして僕の4人がハースの歴代のクルマでデモランをしました。最初からイベントの週末にはエステバンとオリーを乗せようと決めていて、僕は乗らず、ドライバー以外ではジーンだけがデモランをする予定だったんです。ジーンに提案したら驚いていましたけど、「シートを作ってテストもして、安全に走れるようにするので乗りませんか」と説得したら、了承してくれました。


 僕は当初、もしジーンが当日乗れなくなったら代わりに走る予定だったので、イベントの数週間前にシルバーストンのショートコースで彼と一緒にテストをしました。F1をドライブするのはもちろんこれが初めてで、「乗ったらおもしろくて仕方ない」というのが率直な感想です。周りの人から「グッドウッドで乗らないのか」と言われて、一生に一度あるかないかのチャンスだからここで乗らないと後悔すると思い、デモランの参加を決めました。

小松礼雄代表(ハース)
ハースF1の旧型マシンでテスト走行を行った小松礼雄代表(ハース)

 そうして迎えた当日、あのような舞台でF1のクルマに乗るのは本当に光栄で、こういう機会があったことに感謝しています。いちファン・観客として何回も足を運んでいるグッドウッドでまさか自分が走るなんて思ってもみなかったことですからね。万が一クルマを壊したら困るのでスピードは出しませんでしたけど、それでもあの雰囲気のなかでグッドウッドのヒルクライムを走れるなんて、それだけで感激です。


 グッドウッドに備えて、ヘルメットもデザインしました。第3戦日本GPで桜のデザインを担当したクリエイティブディレクターと一緒に作り、会心の出来になりました。桜のデザインがうまくいったので、ヘルメットもあのデザインがいいと伝えて、ふたりで満足のいくデザインが完成しました。


 ベースはシューベルト製の黒いカーボン地のヘルメットで、桜をモチーフにして、ナンバーの書体も日本GPで使った筆のフォントにしました(ナンバーは入れない予定だったのですが、入れたほうがいいと言われて、個人的に思い入れのある『28』にしました)。カーボン地も残しつつ、白い部分は枯山水のように砂で水面を表したような模様が入っています。ちなみにジーンのヘルメットはアメリカっぽいデザインにしようかと考えていたら、本人から作ってほしいと依頼されたので、僕たちでデザインしました。とても喜んでくれましたよ。

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】
小松礼雄代表のヘルメット
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】
小松礼雄代表のヘルメット(左)と、チームオーナーのジーン・ハースのヘルメット(右)

 イベントではデモランだけでなく、アクティベーションスタンド(編注:ハースの歴代ドライバーのヘルメットやレーシングスーツを飾り、チームの歴史を辿れる展示を行うスペース)も用意しました。僕は最初からこのスペースを作ろうと思っていて、そこでうちの10周年のストーリーを伝えること、子供も大人も楽しめるようなアクティビティを取り入れることを目指しました。イベント初日だけで9800人が来てくださって、最終的に4日間で4万人もの来場がありました。グッドウッド自体の来場者数が20万人なので、単純計算でも5人にひとりが来てくれたのは嬉しいことです。


 今回のグッドウッド参加を通じて、思っていた以上に10周年を祝うことができたと感じています。チームのみんなが喜んでくれました。もちろんジーンも、エステバンもオリーも、提携しているTOYOTA GAZOO Racingもです。僕たちは、最初から何をやりたいという意図が明確でした。10年のストーリーを伝えよう、ファンを巻き込もうという意図があって、それをうまくやれたと思います。レースドライバーふたりが参加したのもうちだけで、デューク・リッチモンド公爵からも感謝されました。何かをやるなら全力で取り組み、中途半端ではダメだということが再確認できたイベントでした。

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】
VF-24でデモランを行ったハースの小松礼雄代表
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】
ハースの小松礼雄代表と、TOYOTA GAZOO Racing Europeの中嶋一貴副会長
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】
ドーナツターンを披露したオリバー・ベアマン(ハース)
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】
ハースのアクティベーションスタンド。歴代ドライバーのヘルメットやレーシングスーツなどが展示されている

■拍手が起こった元戦友ヒュルケンベルグの3位表彰台

 グッドウッド前のイギリスGPはうまくいきませんでしたが、反省点と、ニコ(・ヒュルケンベルグ/キック・ザウバー)のことを振り返ろうと思います。


 イギリスGPの決勝レースは、スタート前に雨は上がったものの路面は濡れている、という難しいコンディションで始まりました。僕たちは2台の戦略を分けて、14番手スタートのエステバンはインターミディエイトタイヤのままで、18番手スタートのオリーはフォーメーションラップ終了後にインターミディエイトからハードタイヤに履き替えて、それぞれスタートしました。

オリバー・ベアマン(ハース)
2025年F1第12戦イギリスGP オリバー・ベアマン(ハース)

 後から振り返ってみれば、スタート前にオリーのタイヤを変えたのは失敗でした。こういう戦略を採ることになったおおもとの原因はオリーのペナルティ(編注:フリー走行3回目の終盤に赤旗が掲出された際、減速しなかったうえにピットエントリーロードでクラッシュしたことなどにより、10グリッド降格ペナルティを受けた)で、彼もそれを認めています。予選の結果どおり8番手からスタートできていれば、こういう戦略は選びません。シルバーストンで投入したアップグレードがうまく機能し、クルマが速かったので、その速さを活かして順位を上げるためにリスクを取ってやったことが裏目に出ました。でも裏目に出たのは不運だったからではなく、チーム全体として、僕も含めて考え方が間違っていたからです。


 今回のように14番手、18番手という位置からなんとかしてトップ10に入ろうとすると、無理をすることになります。その考え方を少し変えなければいけないと感じました。僕がこれまで「ポイントを獲れないと意味がない」と言い続けてきたのは、言い過ぎだったと思って反省しています。少し結果に固執しすぎたのかもしれません。ミーティングでもみんなにそう伝えました。シルバーストンで速かったクルマが次も速いかどうかはまだわかりませんが、いい方向に進んでいると思うので、フリー走行からきちんと積み重ねていければ結果はついてくるはずです。

 では今回どうするのが正解だったかというと、それは3位に入賞したニコのレースを見れば明らかです。彼は常に自分にやれることをやっていましたから。最後尾からスタートし、1セット目のインターがダメになったところでニコは最初にピットに入りました。レース中は他チームの無線も聞いているのでニコの無線も確認しました。あれは素晴らしい判断で、もちろんニコが下したものです。


 その次の周に何台もピットに入っていき、そこで雨脚が強くなったので、ニコは一気に5台ほどアンダーカットできました。あの時僕たちもドライバーにタイヤはどうかと聞きくと、「まだ今のタイヤで走れる」と返ってきました。エステバンが第1スティントを伸ばしたのも、今やらなければいけないことをしたのではなく、なんとかポイントを獲るために無理をしたからです。


 ニコは昨年までハースに所属していましたし、彼の初表彰台は僕もすごく嬉しかったです。ニコがフィニッシュした瞬間、うちのガレージ内ではみんな拍手していましたからね。ニコは絶対に表彰台に乗るべきドライバーですし、昔は不必要なところでミスをしたこともありましたけど、今回はそういうのもなく最後までよく走ったと思います。結果として選手権ではキック・ザウバーに大きな差をつけられてしまったので、もちろんこれから逆転するために全力を尽くします。

■「SF王者がどこまでやれるか楽しみ」TPCはF1の身近に感じるチャンス

 7月14日に発表した通り、8月6日(水)と7日(木)に静岡県の富士スピードウェイでTPC(編注:Testing of Previous Cars/旧型車を使用したテスト)を行います。参加ドライバーは、ハースのリザーブドライバーの平川亮選手と、坪井翔選手(全日本スーパーフォーミュラ選手権、スーパーGT GT500クラスの2024年チャンピオン)です。


 坪井選手を起用する経緯としては、トヨタ側から彼を乗せたいという要望がありました。ハースとトヨタの提携において、日本人ドライバーにF1テストの機会を与えるというのも目的のひとつなので、トヨタには富士というサーキットもありますし、せっかくなら富士でやろうということになりました。


 先に書いたグッドウッドの件も含めて、イベントへの参加や他企業との提携について、僕たちはそれをモータースポーツの楽しさ・魅力を伝えられるようなものにしていきたいのです。日本でこういうことをするのも、いろいろな方面に対してすごくいいことだと捉えています。グッドウッドでも、シーズン開幕前の『F1 75』でも、ハースがどういうチームであるかというのを示してきたつもりですし、ファン無くしてモータースポーツは成り立たないので、やっぱりファンを増やしたいですよね。僕が子供の頃にF1をやりたいと思ったのは、「厳しい競争があって楽しそうな世界だな」と魅力を感じたからで、その魅力をどんどん伝えて裾野を広げたいという思いがあります。


 日本GPは鈴鹿で毎年1回ありますが、チケット代も決して安くありませんから本当にF1が好きじゃなければなかなか観に行かない・行けないかもしれません。でも、もう少し身近にF1があることを知ってほしいんです。「ちょっと興味があるから、チケット代も安いし、そんなに遠くないから行ってみようか」くらいの感じでテストを見に来てほしいんです。見て、感じて、それでおもしろそうだと思ってもらえたら嬉しいです。


 坪井選手については、僕は詳しいことは知らないので、昨年のシーズン終了後にアブダビテストで平川選手を起用した時と同じような状況ですね。平川選手は、乗せてみたら速くて一貫性があって、英語が上手で、フィードバック能力も高くていい驚きでした。今回は平川選手が6日にVF-23で走行してレファレンスを作り、坪井選手が7日に乗る予定です。スーパーフォーミュラはFIA F2よりもF1に近いと思いますし、そのスーパーフォーミュラのチャンピオンがF1初テストでどこまでやれるのか楽しみにしています。


(Text : Ayao Komatsu)


レース

7/25(金) フリー走行 結果 / レポート
スプリント予選 23:30〜24:14
7/26(土) スプリント 19:00〜20:00
予選 23:00〜
7/27(日) 決勝 22:00〜


ドライバーズランキング

※イギリスGP終了時点
1位オスカー・ピアストリ234
2位ランド・ノリス226
3位マックス・フェルスタッペン165
4位ジョージ・ラッセル147
5位シャルル・ルクレール119
6位ルイス・ハミルトン103
7位アンドレア・キミ・アントネッリ63
8位アレクサンダー・アルボン46
9位ニコ・ヒュルケンベルグ37
10位エステバン・オコン23

チームランキング

※イギリスGP終了時点
1位マクラーレン・フォーミュラ1チーム460
2位スクーデリア・フェラーリHP222
3位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム210
4位オラクル・レッドブル・レーシング172
5位ウイリアムズ・レーシング59
6位ステークF1チーム・キック・ザウバー41
7位ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム36
8位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム36
9位マネーグラム・ハースF1チーム29
10位BWTアルピーヌF1チーム19

レースカレンダー

2025年F1カレンダー
第13戦ベルギーGP 7/27
第14戦ハンガリーGP 8/3
第15戦オランダGP 8/31
第16戦イタリアGP 9/7
第17戦アゼルバイジャンGP 9/21
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    F速 2025年5月号 Vol.3 日本GP号