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起こるべくして起きたマクラーレンの同士討ち。映画『F1』の高すぎる没入度と初体験の字幕監修【中野信治のF1分析/第10戦】

2025年6月21日

 ジル・ビルヌーブ・サーキットを舞台に開催された2025年F1第10戦カナダGPは、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポール・トゥ・ウインで今季初/自身通算4勝目を飾りました。


 今回は、ついに起きてしまったマクラーレンの同士討ち、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)の初表彰台登壇、そして映画『F1/エフワン』日本語版字幕の監修を担当したことについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。


  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 予選でミディアムタイヤ(イエロー/C5)を履いてポールポジションを獲得したラッセルが首位を守ったまま今季初優勝を飾ったカナダGPは、レース終盤に起きたマクラーレンのランド・ノリスによるオスカー・ピアストリへの追突が大きなトピックスとなりました。


 私はあのアクシデントについては起こるべくして起きたという印象です。終盤ノリスは4番手ピアストリの背後に迫ると、66周目のヘアピン(ターン10)でピアストリのインに飛び込み前に出ました。ただ、ピアストリはラインをクロスさせて、続く緩やかな右コーナーのターン11で前に出ますが、バックストレートではトウ(スリップストリーム)を使ったノリスがわずかに前に出ていました(編註:2台の前にアントネッリがいたため、2台ともにDRSを使えた)。


 そうして、左側にノリス、右側にピアストリという位置取りでシケイン(ターン13〜14)へのブレーキング勝負を迎えると、ピアストリが素晴らしいブレーキングでノリスの行手を阻みました。シケインひとつめのターン13は右コーナーですので、右側にいるピアストリは不利なポジションでした。ブレーキングを遅らせて、本当に減速仕切れるのかと思うほどでしたが、ピアストリはしっかりと減速しきり、タイトなラインながらターン14の出口できっちりとトラクションをかけて立ち上がりも加速してポジションを守りました。


 ピアストリのターン14の立ち上がりの加速が鈍ければ、ノリスがラインをクロスさせてホームストレートで再び前に出ていたと思います。ただ、ピアストリはシケインのターンインも立ち上がりも完璧にまとめ、対するノリスはピアストリに比べればベストなレコードラインを走れたのにも関わらず、ターン14の立ち上がりでミスがあり、理想的な立ち上がり加速ではありませんでした。


 ただターン14からホームストレートもDRS区間なので、ノリスはピアストリのトウを使いつつ、加速を伸ばすことはできました。それが結果的に同士討ちというアクシデントに繋がります。ノリスはピアストリとのバトルの最中、冷静さを失っていましたね。ピアストリが見せた完璧なターン13でのブレーキングは、ノリスのイライラが最高潮に達する要因としては十分だったのかもしれません。冷静な考えを持っていれば、あのようなアクシデントは起きません。

 ジル・ビルヌーブ・サーキットのホームストレートは途中から右に曲がって、左コーナーのターン1を迎えるというレイアウトです。そのため、アクシデントが起きる寸前に先行するピアストリがわずかに右に動くそぶりがありました。それに対しノリスが『左が開くかな?』と楽観視した結果、左側にスペースは残されておらず。ノリスのフロントウイングがピアストリのリヤと接触し、ノリスはそのままウォールにヒットしてレースを終えることになりました。


 シンプルに、ノリスが冷静であれば避けることができたアクシデントでした。それはノリス本人が痛いほどわかっていることでもあるでしょう。だからこそ、ノリスはメディアペンで取材を受けているピアストリに直接謝罪しています(メディアペン:表彰式登壇ドライバー以外が決勝を終えてパルクフェルメを出た直後、メディアの取材に応える場所/メディアミックスゾーンと呼ぶレースカテゴリーもある)。それに、もし謝罪しなければノリスは自分の立場を追い込んでしまうことにも繋がりますから、すぐにピアストリ、そしてチームに対し自分の非を認めたノリスのアクションは正しかったと思います。

 この経験を経て、ノリスには吹っ切れてくれたらいいなと私は思います。今回のアクシデントはノリスにとって、恥ずかしい出来事ではあったと思います。ただ、これくらい大きな出来事がなければ人間は変わることができません。今回のアクシデントが、今後ノリスが激しい戦いのなかでも冷静さを保ち続けるように変わるきっかけとなれば、鋼のメンタルの持ち主であるピアストリとのチャンピオンシップ争いはもっと面白くなると思います。

■ピアストリに似て、メンタル面で波がないアントネッリ

 そして、今回のカナダGPではアントネッリがF1初表彰台獲得となる3位に入賞しました。4番グリッドスタートから序盤にピアストリをオーバーテイク。その後もピアストリを背後に従えて、大きなプレッシャーを受け続けながらもミスなく、3位を守り切る大仕事を成し遂げました。


 スピードの部分でチームメイトのラッセルに届かない部分は残るものの、彼はまだ18歳。それにアントネッリはピアストリに似ていてメンタル面で波がなく、そういうドライバーは絶対的に強くなります。この初表彰台をきっかけに、更なる成長も大いに期待できるので、今後も楽しみですね。あと、高校の卒業試験を無事終えることができたのかな、という点は個人的に気になっています(笑)。


 そして角田裕毅(レッドブル)は土曜日からマックス・フェルスタッペン(レッドブル)と同じフロアを装着できましたが、フリー走行3回目はトラブルでほとんど満足に走れず、ぶっつけ気味に迎えた予選で12番手は仕方がないことだと思いますし、むしろあの状況下でよくやったなと思います。決勝はペナルティで18番グリッドからのスタートになり、後方からの追い上げに挑みましたが、抜けそうで抜けないジル・ビルヌーブ・サーキットだけに厳しい戦いでした。


 裕毅はエミリア・ロマーニャGP予選での自身のクラッシュがきっかけで、ここまでフェルスタッペンとは違うマシンでの戦いが続いてしまいましたが、次戦オーストリアGPはFP1から同じマシンとなります。レッドブルの2025年型マシン『RB21』は決して簡単なクルマではなく、裕毅にとっても引き続き学びながらの戦いとなると思います。その学びが実を結ぶことを待ちたいなと思いますね。

3位初表彰台を獲得したアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)
2025年F1第10戦カナダGP 3位初表彰台を獲得したアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)

■映画『F1/エフワン』日本語版字幕監修で追求したバランス



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)


レース

6/14(土) フリー走行1回目 結果 / レポート
フリー走行2回目 結果 / レポート
6/15(日) フリー走行3回目 結果 / レポート
予選 結果 / レポート
6/16(月) 決勝 結果 / レポート


ドライバーズランキング

※カナダGP終了時点
1位オスカー・ピアストリ198
2位ランド・ノリス176
3位マックス・フェルスタッペン155
4位ジョージ・ラッセル136
5位シャルル・ルクレール104
6位ルイス・ハミルトン79
7位アンドレア・キミ・アントネッリ63
8位アレクサンダー・アルボン42
9位エステバン・オコン22
10位アイザック・ハジャー21

チームランキング

※カナダGP終了時点
1位マクラーレン・フォーミュラ1チーム374
2位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム199
3位スクーデリア・フェラーリHP183
4位オラクル・レッドブル・レーシング162
5位ウイリアムズ・レーシング55
6位マネーグラム・ハースF1チーム28
7位ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム28
8位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム22
9位ステークF1チーム・キック・ザウバー20
10位BWTアルピーヌF1チーム11

レースカレンダー

2025年F1カレンダー
第10戦カナダGP 6/15
第11戦オーストリアGP 6/29
第12戦イギリスGP 7/6
第13戦ベルギーGP 7/27
第14戦ハンガリーGP 8/3
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