佐藤琢磨が語る角田裕毅のメンタルとトップチームで走る重圧。「彼らはお世辞を言ったりはしない」
2025年4月25日
レッドブル昇格3戦目、2025年F1第5戦サウジアラビアGPの決勝レースではオープニングラップのアクシデントによりリタイアに終わった角田裕毅だが、予選では連続Q3進出を果たしてここからのさらなる飛躍が期待される。そこで4月28日月曜発売のオートスポーツNo.1608では角田裕毅の成長を検証する企画を緊急特集。そのなかから佐藤琢磨が語る「角田のメンタル」を先出しでお伝えする。
BARホンダの快走により上昇気流を掴まえた琢磨は2004年アメリカGPで3位表彰台を獲得。F1のトップ争いに身を投じた自身の経験から角田がいま置かれている環境を説明していく。
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佐藤琢磨「自分の場合の状況は裕毅と違っていて、2003年はBARホンダのテストドライバーとしてマシン開発に集中し、最終戦の日本グランプリに緊急スポット参戦してからの2004年でした。F1フル参戦としては2年目で、BARでの1年目。自分のなかでチャレンジャーとしてのマインドセットがありましたから、結構楽しんで取り組むことができました」
琢磨「チーム自体も挑戦者の立場。『これが試せるなら、どんどんやろう』、そういう勢いがあったと思います。あの年はシーズン中に2回のテクニカルレギュレーション変更がありました。すべてBARが入れたアイテムに関係する規定(笑)。それくらい攻め込んでいた。チームの雰囲気もすごく良かった。自分の成績も含めて、ミハエル・シューマッハーとフロントロウに並んだり、表彰台に上がったりということで、そのポジションにいることを喜べる状態だったんです」
琢磨「逆に、常勝チームのメンタルからすると優勝は当たり前。先の日本GPではマックス(・フェルスタッペン)の優勝にレッドブルはお祭り騒ぎになっていましたけど、あれは開幕戦メルボルン、第2戦上海での苦戦があり、鈴鹿であの結果を想像できなかったから喜んだのであって、2023年の連戦連勝というなかでは優勝以外はあり得ないという状態だったはずです。勝利の喜びは常にあるとは思いますが、結果を出した安堵感が上回る。負けに対するプレッシャーがどんどん大きくなり、チーム内の緊張感がすごく高い状態になってしまう。レッドブルには過去の栄光があり、最近は『こんなはずではない』というレースが続いて、チーム自体が高いプレッシャーに包まれている状態なんだと思います」
琢磨「そうなるとマックスに頼らざるを得なくなるし、彼の要求に応えることに集中しなければならなくなる。結果、リアム(・ローソン)の準備が後回しになっていたとしても不思議ではありません。リアムはみなさんもご存じのとおり優秀なドライバー。でも、あまりにも準備不足で、初めてのコースで結果を出せなかった。チームには準備が整うのを待つ余裕はなく、パニックに陥ってドライバーを代えたように見える。裕毅を応援する側からすると喜ばしいことですが、かなり難しい状況に入っていったことは間違いありません」

琢磨「2004年、たしかにBARはコンストラクターズ選手権2位にはなりました。あの時点で優勝を知らないチームだったし、クオリティで言えばトップチームではない。フェラーリのひとり勝ちで、それ以外が拮抗していた。チームのメンタリティという意味では、2005年のBARがいまのレッドブルに近いかもしれません。前年選手権2位だからチームは引き締まるわけです。目標は優勝しかない。2位以下なんて考えられないというメンタル。でも、結果がまったく伴わず、焦りばかりが募っていく。余裕がなくなりました」
琢磨「裕毅を送り出したレーシングブルズの元はミナルディであり、トロロッソです。チーム構成の半分はイタリア人で、雰囲気は明るい。レッドブルやホンダからの技術支援もあるし、いい環境がある。優勝こそ何度か経験しているものの、トップチームではないことも自覚していて、その一角を崩せば勝利に等しい。日本GPでは、アイザック・ハジャーがいい走りをしたら、みんな優勝したように喜びましたよね」
琢磨「裕毅はピエール・ガスリーと組んでいた時(2021〜23年)、ドライバーとして大きく成長できましたが、ある意味凄まじいプレッシャーを受けたと思います。自分より速いヤツはいないと思ってやってきたのに、結果としては負け続けたから。でも、2024年にピエールがいなくなり、チームも安定して速くなった裕毅に頼るような状況になった。そこを彼自身が受け止め、成長を続けたから、チームのなかで圧倒的なリーダーシップを取れるようになり、そこからチームメイトに全勝してきた。その結果が彼の自信を作ってきたんです」
琢磨「いい走りをすればチームから称えられる。それに慣れている状態でレッドブルに移った。表面上は絶対にそんなところは見せないけど、彼自身はもっと期待していた部分があったはずです。日本GPについて言えば、FP1はこれ以上にないくらい順調な滑り出しでした。裕毅のほうが着実にタイムアップし、安定しているように見えました。マックスは『こんなクルマは運転できない』とガレージに戻ることも多く、最初はタイムチャートも下のほうにいたけど、最後は当然のようにタイムを出し、セッション終了時にはマックスが裕毅をコンマ1秒上回っていた」
琢磨「マックスの歴代チームメイトを見ても、1回のセッションでここまで近づけばさすがだと思いますし、想定以上だから、「もう抜いてしまうんじゃないか?」と周囲の期待値も上がります。本人も同じように考えていたと思う。でも、チームはそうは見ない。マックスが最後にはまとめ上げることを知っているから、コンマ1秒落ちで『よくやった』とは言わないんです。チームはもともとそういった雰囲気とは無縁だし、プライドの高い集団でもあるから、ピットに帰っても誰も褒めてくれない。裕毅が焦ったと言っていました。『誰も喜んでくれなくて、あれっ!? って感じだった』と」
琢磨「イギリス人はとにかくプライドが高いですからね。もちろん、コメディの『ミスター・ビーン』に見られるようにジョークは大好きだけど、イタリア人の底抜けの明るさとは違う。本当に素晴らしいものに称賛はするけど、お世辞を言ったりはしない。『オレらのマシンに乗っているんだから、P7くらいは当たり前でしょ。なんでいちいち喜ばなきゃいけないの?』という感じ。クールです。ピットに帰ってきた時、『ウェルダン』ぐらいのひとことはあっても、『よくやった! マックスにこんな近づいてすごいぞ』などはない」
琢磨「裕毅はいま、F1で5年目。自分の5年目はスーパーアグリでした。余裕が生まれて、チームをこう動かしていくという方向にシフトできた。だから、状況は違うかもしれないけど、裕毅のこの5年目というタイミングは良かった。もう、はしゃいだりするようなところは見せない。そして、この先もトッププロとしてやっていけるという姿勢をナチュラルに見せていく必要がある。自然と声のトーンも落ちるし、無線でもゆっくり話していますよね」

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このあと、話はセットアップとメンタルの関係に続いていく。インディ500を2度制覇したドライバーだからこそ語れるメンタルとセットアップの関係には非常に納得感があった。また、トップチームと中堅チームのセットアップに対するアプローチの違いも大きくみれば“メンタル”の持って行き方と関係しているようだ。
モータースポーツが果たしてスポーツなのか議論になることがあるが、“モーター”をどのようにしつけるのか、そこにメンタルが絡むとなれば、それこそがまさに“スポーツ”。自動車という複雑な道具を使うスポーツの真骨頂が佐藤琢磨の言葉から垣間見えた。
●auto sport No.1608
発売日:4月28日(月)
価格:1300円(税込)
三栄オンラインストア:https://shop.san-ei-corp.co.jp/shop/g/g0121172506/

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(Text:auto sport)
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1位 | オスカー・ピアストリ | 99 |
2位 | ランド・ノリス | 89 |
3位 | マックス・フェルスタッペン | 87 |
4位 | ジョージ・ラッセル | 73 |
5位 | シャルル・ルクレール | 47 |
6位 | アンドレア・キミ・アントネッリ | 38 |
7位 | ルイス・ハミルトン | 31 |
8位 | アレクサンダー・アルボン | 20 |
9位 | エステバン・オコン | 14 |
10位 | ランス・ストロール | 10 |

1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 188 |
2位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 111 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 89 |
4位 | スクーデリア・フェラーリHP | 78 |
5位 | ウイリアムズ・レーシング | 25 |
6位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 20 |
7位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 10 |
8位 | ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム | 8 |
9位 | BWTアルピーヌF1チーム | 6 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 6 |

