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角田裕毅とローソンの異なるドライビングスタイル。フェルスタッペン仕様への適性【中野信治のF1分析/第2戦】
2025年3月29日
上海インターナショナル・サーキットを舞台に開催された2025年F1第2戦中国GPは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が初のポール・トゥ・ウインでキャリア通算3勝目を飾りました。
今回は中国GPにおけるレーシングブルズの戦略のほか、突然の移籍発表となった角田裕毅(レッドブル)、そしてリアム・ローソン(レーシングブルズ)について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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中国GPは2025年シーズン最初のスプリント開催となり、スプリントではルイス・ハミルトン(フェラーリ)がポール・トゥ・ウインを飾りました。スプリント予選の前にはフリー走行が1回しかないこともあり、スプリントは特に持ち込みセットアップが重要となります。だからこそ、現時点でのマシンポテンシャルが1番ではないフェラーリでも、持ち込みセットアップを合わせ込むことで活躍できました。
スプリントはレース形式ではありますが、このスプリントも利用して各チームは予選・決勝へ向けたマシン作りを進めます。そのため、本番ではマシンポテンシャルの差が如実に現れ、マクラーレンのピアストリがポール・トゥ・ウインかつ、2番手にランド・ノリスが続き、マクラーレンがワンツー・フィニッシュを飾りました。
まだ開幕から2戦、そのうち1戦は雨というなかですが、シーズン序盤からマクラーレン&ノリスがチャンピオンシップをリードするという展開は開幕前の予想どおりでしょうか。また、テストから抜群の安定性を見せており、個人的に楽しみな存在だったメルセデス勢もジョージ・ラッセルが3位、アンドレア・キミ・アントネッリはフェラーリ勢の失格もあり6位と、着々と得点を重ねて、コンストラクターズ2位につけています。
シーズン序盤のチャンピオンシップ争いの中心は、一発の速さを持つマクラーレンと、抜群の安定性を備えるメルセデスとなりそうです。2チームの走りには引き続き注視しておきたいですね。

■レーシングブルズのもったいない判断
さて、スプリントでは裕毅が今季初得点を手にすることができました。レーシングブルズの2025年型マシン『VCARB 02』は一発のスピードがあり、ベスト・オブ・ザ・レスト(上位4チームを除く中団勢のトップ)を獲りに行けるパフォーマンスがあります。タイヤのデグラデーション(性能劣化)も極端に大きいこともなく、総合的に戦闘力の高いクルマであることが、この中国GPでも確認できました。
2台揃って予選Q3進出も果たすことができたので、決勝で2ストップを選択しなければダブル入賞も難しくはなかったでしょう。戦略に関しては前回のコラムでも『(さらに上を目指すための積極的な)トライは今後もどんどんしてほしい』と、お話したとおりですが、今回はレーシングブルズ側の予測が少し甘かったのではないかと感じます。
今回の決勝、14番グリッドのランス・ストロール(アストンマーティン)を含む3台がハードタイヤでスタートを迎えていました。レース中盤までハードタイヤで引っ張るストロールのタイムの推移を見てみると、タイヤが予想以上に保つことは予想はできたと思います。

当然、走行中のドライバーからのコメント、フィードバックもあった上でチームは戦略を立てます。レーシングブルズが今回の戦略を選択した可能性としては、第1スティントの段階でドライバーからタイヤに対するポジティブなコメントがなく、それならば2ストップで行ったほうがいいとエンジニアが判断したのかもしれません。あのまま1ストップで走行を続けていたら、レーシングブルズの2台だけタイヤの崖(性能劣化に伴う極端なグリップダウン)を迎えていた可能性もあります。
ただ、今回の状況はレーシングブルズの予想とは真逆の展開となってしまいました。レースが進むにつれ燃料分の車重が軽くなりマシンバランスが好転、さらに路面にラバー(タイヤのゴム)が乗ることでラップタイムも落ちにくくなります。これで1ストップ勢はロングランにも関わらず、ラップタイムを極端に落とすことなく、2ストップ勢と遜色ない走りを見せました。
レーシングブルズが1ストップではなく、2台揃って2ストップを選択した判断の根幹に何があったのか。こればかりはチームにしかわからない部分となります。今年はマシンポテンシャルが高いだけに、余計もったいないなと感じた部分でした。
■角田裕毅とローソンの異なるスタイルと経験値
さて、そんな中国GPを終えて間もなく、裕毅のレッドブルへの移籍、そしてローソンのレーシングブルズ移籍が発表されました。これで次戦日本GPからは裕毅がチャンピオン経験も多いレッドブルで、前年のドライバーズチャンピオンであるマックス・フェルスタッペンのチームメイトとして、同じマシンに乗ることになります。
ドライバーにとって、レッドブルのような強豪チームに乗れることは光栄なことだと思いますし、チャレンジする価値もしっかりとあると思います。私自身、ドライバーとしてもしそのようなオファーを頂けたなら、モチベーションは爆上がりです(笑)。
一方で、ローソンにとってこの2戦は厳しい戦いとなり、今回のレーシングブルズへの移籍は苦しいものになりました。全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)での活躍や昨年までのF1での走りが示したように、ローソンはスピードを持ったドライバーです。

ただ、フル参戦初年度となり、オーストラリアも中国も初めて走るコース。さらにレッドブルのマシンは、ローソンとはドライビングスタイルが大きく異なるフェルスタッペンが主体となって開発された、ある意味で特殊なF1マシンです。
フェルスタッペンはフロントを軸に、リヤが不安定でもコーナーに飛び込んでいくドライバーです。一方のローソンはリヤグリップに安定感を欲するスタイルで、ふたりのドライビングスタイル、クルマに求める部分に大きな違いがありました。ローソンがSFで初戦から優勝を飾る走りができたのも、SFがF1よりもはるかにリヤに安定感があり、リヤを軸に使うクルマだったからだと考えています。
自分の経験で恐縮ですが、私は1996年のフォーミュラ・ニッポン(FN/現SF)を経て、1997年にF1にデビューをしました。当時乗っていた童夢F104i(編注:当時のFNはシャシー、エンジン、タイヤもマルチメイクだった)はリヤをしっかりと使うクルマで、私もリヤを軸にしたドライビングスタイルでした。
翌年F1に参戦することになり、リジェが開発したプロストJS45というクルマに乗りましたが、このクルマは超フロント重視で作られたクルマで、私は前半戦でかなり苦しむことになりました(編注:開幕戦は7位、初入賞は第7戦カナダGPの6位)。
そういった経験もあり、ローソンが苦しんだ理由も想像できます。結果的にローソンはレーシングブルズへ戻ることにはなりましたが、だからと言って遅いドライバーではありません。ローソンの置かれている状況がいかに厳しく、辛いものであるかを考えると、心からローソンにはレーシングブルズで頑張ってほしいという気持ちです。

そんななか、裕毅がレッドブルのマシンに乗ります。幸い、裕毅は比較的フロントに比重を置いて走ることができるドライバーだと私は考えています。つまり、ローソンよりはフェルスタッペンに近いドライビングスタイルですので、ローソンよりはレッドブルのクルマにアジャストしやすいのではないかと想像します。
それに、裕毅にはF1での4年以上の経験があります。一番脂の乗った時期であり、レッドブルRB21のステアリングを初めて握る場所は、勝手知ったる鈴鹿サーキットです。高速コーナーも多い鈴鹿はレッドブルにとって相性の悪くないコースですし、裕毅にとって突然の移籍とはなりましたが、タイミングとしては決して悪くはないと思います。
また、鈴鹿はローソンにとっても、SFで走り込んだ場所でもありますし、F1でも経験があるコースです。今年のレーシングブルズのクルマは、ローソン好みのスタイルだと思いますし、心機一転、ここから自らのスピードをまた見せつけてほしいと願ってます。
春開催2度目となる日本GP。楽しみなポイントはたくさんありますが、この突然の移籍劇の主役となってしまった裕毅、そしてローソンのふたりには特に注目したいと思います。それぞれ新たな環境で、いかに戦い抜くのか。決して忘れることのないグランプリになりそうな予感がしています。

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
- 公式HP:https://www.c-shinji.com/
- 公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
(Shinji Nakano まとめ:autosport web)
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1位 | ランド・ノリス | 44 |
2位 | マックス・フェルスタッペン | 36 |
3位 | ジョージ・ラッセル | 35 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 34 |
5位 | アンドレア・キミ・アントネッリ | 22 |
6位 | アレクサンダー・アルボン | 16 |
7位 | エステバン・オコン | 10 |
8位 | ランス・ストロール | 10 |
9位 | ルイス・ハミルトン | 9 |
10位 | シャルル・ルクレール | 8 |

1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 78 |
2位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 57 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 36 |
4位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
5位 | スクーデリア・フェラーリHP | 17 |
6位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 14 |
7位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 10 |
8位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 6 |
9位 | ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム | 3 |
10位 | BWTアルピーヌF1チーム | 0 |

