FIAのマックス・モズレー会長は、F1の全10チームが十分な合意に達しないならば、モズレー自身の提唱するF1の改革案を当初の予想よりも早く実施するつもりだと語った。
モズレーが、F1のあり方を大幅に変更することを最初に提案したのは、ヨーロッパラウンドが始まった4月のことだった。そして、その直後に、モナコで各チームの話し合いがもたれ、モズレーは心強く思っていたようだった。しかし、チームの代表らが、モナコでの会議では具体的な決定は何もなされていないと語ったため、モズレーは改革のタイムスケジュールを見直す気になったようだ。
英デイリー・テレグラフ紙の報道によると、モズレーは、10年前にアイルトン・セナの死亡事故の後に導入されたルールを、もう一度使用するつもりなのだという。改革というより安全性を理由とするため、いかなる変更をもチームに受け入れさせることになるかもしれない。最近のレースで起こった2つの重大事故によって、モズレーはいっそう強い立場を手に入れている。
「(フェリペ)マッサとラルフ・シューマッハーの事故によって、F1のスピードが危険なほど高いということが示された。F1の技術作業部会は、2年以上にわたって、エンジンパワーを縮小すべきだと言い続けている。私たちは今こそ行動しなくてはならない」
エンジン規定の変更は、いくつかある難問のうちのひとつに過ぎない。ラルフのエンジンサプライヤーであるBMWは、現行のV10レイアウトから2.4リッターV8への変更を拒否している。モズレーは、“安全性が問題になる場合にはFIAに拒否権が与えられる”というコンコルド協定の条項を、躊躇なく引き合いに出すつもりだと語った。
「意見の相違はあるだろうから、協定の7.5条が、プレッシャーをかけるのに役立つだろう。もし、各チームが必要な変更を提案できないなら、我々の方でやるよ」と、モズレーは述べた。
コンコルド協定は、モズレーの過激な改革案が合意を得られない理由の大きな部分を占めている。というのも、この協定によれば、変更の決定には全10チームの満場一致が必要だとされているからだ。コンコルド協定は、2008年シーズンを前に失効することになっており、もっと実用的なものに取って代わられることになりそうだが、モズレーは変更を実施するのをそんなに待つつもりはないと主張している。
各チームのモナコでの会議は、原則として、提案された変更の多くを2006年までに導入することで意見の一致を見た。しかしモズレーは、改革案の少なくとも一部については、来季からの実施をチーム側に認めさせることで、自身の不満と絶対的な権力を示したい意向だ。
各チームは来週の月曜にロンドンで会合を持つことになっている。報道によれば、各チームは、独自の提案をまとめるのに2カ月間の猶予を与えられ、それがまとまらなければ、モズレーが3つの選択肢を提示して、以後45日間のうちにチーム代表らに選択させることになるようだ。それでもまだ一致が得られなければ、FIAは必要なルール変更を2005年の初めから強制的に実施するという。
デイリー・テレグラフ紙によれば、寿命のより長いエンジンの導入、各チームの使用できるタイヤ数の制限、そして空力デバイスの影響の縮小といった変更が、検討の対象になるという。その目的は、パワーを落とすと同時に、開発にかかる金額を減らすことだ。
モズレーは次のように指摘した。「エンジン開発にあんなに金をかけても、誰も得をしないんだ。誰かが巨額の資金を使って、ピストンの重さを3g減らせたとしても、ものすごく特殊な合金で中空のコネクティング・ロッドを作ったとしても、非常に精巧な可動インレット・システムをあみ出したとしても、人には分からない」
「それにみんな、そんなことはどうでもいいと思うさ……」