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【F1チーム別技術レビュー:レッドブルRB18(1)】ポーパシングを予見したニューウェイがフロアに施した工夫

2023年1月12日

 F1技術レギュレーションが大幅に変更された2022年に主要チームが導入したマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが評価、それぞれの長所・短所、勝因・敗因について分析した。今回は、シーズンを席巻したチャンピオンマシン、レッドブルRB18の強さの秘密を探る(全2回)。


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 フェラーリF1-75の優美なサイドポンツーン、メルセデスW13の革新的ゼロポッド。そんな派手さこそないが、レッドブルRB18は2022年最高のF1マシンとなり、シーズンを通して力をつけていった。


 RB18が成功した理由としては、レッドブルの開発総責任者であるエイドリアン・ニューウェイがコンセプトの段階からデザインに関わったことが大きい。ニューウェイがそこまで新車開発に打ち込んだのは、2017年以来のことだった。F1にグランドエフェクトが復活した新たな技術的状況は、数年間アストンマーティンのスポーツカー、ヴァルキリーのプロジェクトに携わってきたニューウェイを、再びF1マシンの製図台に腰を下ろさせるほどの魅力があったということだ。

2022年F1エミリア・ロマーニャGP エイドリアン・ニューウェイ(レッドブル)

■ニューウェイは過去の経験からポーパシングを予見していた

 63歳のニューウェイはパドックで唯一、1980年代のグランドエフェクトF1マシンに携わったテクニカルディレクターである。この経験があったからこそ、ライバルたちにとっては想定外のポーパシング(高速時の激しい縦揺れ)現象を予期することができた。


「設計作業中、40年前の『ポーパシング現象』を思い出した」と、ニューウェイはドイツ『Auto Motor und Sport』誌に語っている。


「激しい縦揺れの可能性に驚きつつ、自分たちの置かれている状況を理解することができた。かつては誰もが、知っていたことだったからね。今回の技術規約に基いて作ったマシンなら、当然起こることが避けられないものだった。ただし風洞でその現象のシミュレーションを行うのは、非常に難しかった」


「具体的にいうと2022年マシンは、6Hzという周波数で跳ねることがわかった。そうすると、たとえばレーシングスピードの秒速60m(時速216km)の走行データを取ろうとした時、60%の風洞モデルだと周波数が高くなりすぎて、実車との相関関係が取れなくなってしまう。しかし私は過去の経験から、ポーパシングの程度が予測でき、対処法にたどり着けた。バーレーンテストが終わるころには、ほぼ邪魔にならない程度までコントロールできるようになったよ」

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2022年F1第14戦ベルギーGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 2022年のF1マシンは、フロア下で大きなダウンフォースを発生させる。しかし強大なダウンフォースによって路面とフロアが近づきすぎると、フロア下がほぼ真空状態になり、車高が瞬間的に上がる。すると空気の流れが解放され、再びダウンフォースが発生して車高が下がる。その繰り返しが激烈な形で起きるのがポーパシング現象だ。この現象を回避するためには、ダウンフォースの絶対値を上げるのではなく、数値的には劣っていても、安定したダウンフォースを発生させる必要がある。それをニューウェイはフロア形状とサスペンションのふたつの要素で成し遂げたのだった。

■ダウンフォースのバランスを重視して設計されたフロア

 RB18のフロア下を見ると、フラットボトムのセンターキールがフェラーリなどと比べても、均一な形状ではないことがわかる。ライバルたちのマシンがより滑らかなティアドロップ(しずく形状)に見えるのに対し、突起や膨らみで縁取られている。さらにふたつのベンチュリートンネルは、かなり高いところとそうでないところがあるようで、フロア下の容積変化に特に気を遣っていることがわかる。

レッドブルRB18とフェラーリF1-75のフロア
レッドブルRB18とフェラーリF1-75のフロア

 ミルトンキーンズの空力技術者たちは、ラフなキール形状とトンネル内のさまざまな高さを組み合わせることで、トンネルの長さに沿って容積を慎重にコントロールし、車体の高さが変わっても気流ができるだけ一定になるようにしたいと考えたようだ。


 風量をできるだけ一定にすれば、理論的にはフラットフロアが生み出す最大ダウンフォースは減少してしまう。実際、高速コーナーではフェラーリとメルセデスが絶対値でより多くの負荷を発生させていた。一方でRB18はポーパシングに悩まされることなく、どんな速度でも一定のダウンフォースを発生させることができた。


 新技術規約での主な基準は、これまでの常識とは逆に、車高が低くなる高速コーナーでフラットボトムが生み出すダウンフォースの大きさではなく、車高が高くなる低速コーナーで維持できるダウンフォースの大きさなのである。


 確かに2022年マシンのフロアは、高速区間で大きなダウンフォースを容易に発生することができる。しかしレッドブルの場合は、全速度域で安定してダウンフォースを発生させることが可能だ。そのため、低速から高速まで満遍なく配置されたスパ・フランコルシャンで、RB18は特に絶対的な速さを発揮したのだった。


※【F1チーム別技術レビュー:レッドブルRB18(2)】に続く



この記事は f1i.com 提供の情報をもとに作成しています



(翻訳・まとめ 柴田久仁夫)


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