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【中野信治のF1分析/第4戦】低迷する7冠王者ハミルトンの苦悩。躍進角田の転換点とフェラーリの契約更新の目論み
2022年5月1日
新規定元年でマシンの見た目が大きく変わった2022年シーズンのF1がついに始まり、昨年までとは勢力図もレース展開も大きく変更。日本期待の角田裕毅の2年目の活躍とともに、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。今回は第4戦エミリア・ロマーニャGP。フェルスタッペンが今季2勝目を挙げたなかで、結果が出ずに苦しむハミルトン、そして大躍進した角田裕毅の姿が印象的でした。イモラ前に契約更新したサインツとフェラーリの裏読みも含めて今回、お届けします。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今シーズン初のスプリント方式で開催された2022年F1第4戦エミリア・ロマーニャGPですが、ドライとウェットの両方のコンディションが入り交じった週末になりました。まずドライコンディションでのレッドブルとフェラーリのクルマについてですが、見いていた感じとしてはフェラーリが意外にもスプリントレースの後半にタイヤのデグラデーションがレッドブルよりも大きくて、最後までタイヤが十分に持たないという結果になりました。
フェラーリはそれまでのフリー走行を含めて、クルマの動きを見ていても決して悪くはありませんでした。ですので、今回はフェラーリが悪かったというよりも、レッドブルのクルマがすごく良かったなという印象です。レッドブルは詳細は分かりませんがマシンのアップデートをしてきているので、それがポジティブに働いているという部分があるかもしれません。
それにイモラ・サーキットはそれこそオーストラリアに比べるとコーナーのRが大きくなく、ステアリングの舵角も少ないですし、ステアリングを切っている時間も短いこともレッドブルのマシンに向いているかなと思います。同じ低速のコーナーでも、Rの小さい、ブレーキングをして一気に向きを変えてコーナーに入っていく場所が多いコースになるとレッドブルの方が良いのかなと思いました。
第2戦のサウジアラビアでもそうでしたが、Rの小さなコースではレッドブルとフェラーリの差が縮まって互角に戦うイメージがあります。ステアリングを切っている時間を短くして走らせたいというマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の走らせ方もありますし、レッドブルのマシンコンセプトもそのような感じに見えるので、それが今回はピタッと合ったのだと思います。
レッドブルのアップデートにはマシンの軽量化が含まれているということでしたが、どこをどういじって軽量化したのかが分かりません。おそらく単純な軽量化、単にクルマが軽くなったから速くなるかと言われるとそうではないので、軽量化をする過程で何かをしているのだと思います。
その軽量化も今回有利に働いたということと、何よりコース特性がレッドブルに合っていたということ。それがここまでの4レースで違うタイプのサーキットを走行してきましたが、レッドブルとフェラーリのマシンの好き嫌いが何となく分かってきて腑に落ちました。イモラではアルファタウリも速さを見せていたので、レッドブルとアルファタウリは似たようなアプローチでマシンを作っているように思いました。
その一方で、そろそろ復活してくるだろうと思っていたメルセデスが今まで以上に苦戦していたのも今回の大きな出来事でした。ウエットコンディションで濡れている路面ではすごく乗りにくいということは初日から見て取れました。特にそういった状況下で、ルイス・ハミルトン(メルセデス)の走りの雰囲気や無線でのコメントを聞いていると『自分で何とかしよう』『この状況でクルマを乗りこなそう』というような意欲が、同じクルマに乗っているチームメイトのジョージ・ラッセルに比べると少し低いように感じました。もちろんメルセデスのマシンも良くないですが、モチベーションが下がっている雰囲気をハミルトンからは感じ取れました。
それはレース中の姿からも感じられました。後方から追い上げる展開で昔のハミルトンならもっとガツガツとオーバーテイクに行っていたと思いますが、今回は前のマシンをどかしてでも追い抜くという気迫は感じられませんでした。今の段階だけで評価することはできませんが、ハミルトンは自分の思いどおりにならない今年のクルマを頑張って良くしようとしていますが、開幕戦からの流れをみても、ラッセルが自分以上に良い走りを見せて全レースでポイントを獲得しています。ハミルトンは結果が出ないプレッシャーのなかで、ラッセルに勝てない言い訳、苛立ちみたいなものが走りにも出てしまっています。単にクルマがというよりも、ラッセルに対する見えないプレッシャーによってハミルトンは少し乱れている印象があります。
経験を積んだベテランになると周りが広く見える一方で、自分自分のモチベーションを維持することが難しくなります。ハミルトンは7度も世界チャンピオンに輝いて、どのドライバーよりも多くのものを手にしてきました。そのハミルトンが今は本当に厳しく、今回のレースでは去年タイトル争いでシノギを削ったフェルスタッペンに周回遅れにされてしまうという衝撃的なシーンも起きてしまいました。そういった状況のなかでこれまでと同じモチベーションを維持できるかと言うと、それは実際は難しいことだと思います。
クルマの方では、今回の予選で10年ぶりにメルセデスの2台がQ3に進出することができないという出来事がありました。予選に関してはアタックするタイミングなどいろいろな要因があるかと思いますが、メルセデスはポーパシング(バウンシング)が大きく、クルマのセットアップを柔らかめにするか硬めにするかということで迷っていたように見えました。ウエットであれだけ乗りにくそうだったので最終的に硬めでセットアップしたのだと思いますが、それが濡れた路面にイマイチ良い方向に行っていませんでした。
ウエットでの速さ/遅さはマシンのセットアップを硬めにしているか柔らかめにしているかで何となく見ることができます。ポーパシングに対する処理の仕方を、クルマ(のサスペンション/足まわり)を柔らかくすることで対処しているのか、クルマを硬くして対処しているのかですごく差が出ます。
今回のメルセデスはマシンが硬いので、ウエットの滑りやすい路面に対して神経質なマシンがさらに神経質になってしまい、アタックするタイミングも悪かったのだと思いますが、コース上に留まっているのがやっとな雰囲気で、本当にどうにもならないような感じでした。
メルセデスはアップデートも導入したいのだと思いますが、中途半端なアップデートを入れたところでマシンは大きくは変わらないということが見えているのでしょう。さらにバジェットキャップ(予算制限)もあるので、中途半端なアップデートはしたくない。今のメルセデスがフェラーリとレッドブルの上に行くとなると、少しのアップデートでは差を詰めることができません。ですのでクルマのアップデートというよりも、大げさに言うと一から作り変える必要があると思うので、大きくマシンコンセプトを変える決断をどのタイミングでするかを考えているのだと思います。
これまでも伝えてきましたが、今年のマシンはセットアップのスイートスポットが狭いので、どのマシンもサーキットによって合う/合わないということが起こります。オーストラリアではあれだけ速かったフェラーリが、今回のイモラではタイヤが保たないということもあるわけです。それだけシビアで難しい戦いですが、メルセデスはまだそのフェラーリやレッドブルと同じ段階まで来ていません。スイートスポット云々ではなく、その外側にいる、かなり厳しい状況です。
見ている側もチャンピオンチームがここまで苦戦を強いられると辛いものがあり、このまま行くとチャンピオンになる前の昔のハミルトンに戻ってしまうような気がします。いろいろと言いたいことを抑えつつ、レース後にもトト・ウォルフ代表から『クルマが悪くてごめん』という謝罪をされていることからも、すべてに苦しんでいることが伝わってきました。
●雨上がりで乾きはじめた路面での今年のレースのポイントと難しさ。角田裕毅の真骨頂
雨上がりとなった決勝レースですが、当然、コース上でのオーバーテイクは難しい状況になりました。イモラ・サーキットはもともとコース幅が狭くてラインがただでさえ少ないのに、さらに雨上がりということで乾き始めているラインが1本しかなく、オーバーテイクはほぼターン2〜3でしかチャンスがありませんでした。最終コーナーから本当にピタッと前車の後ろについていかないと追い抜くことができない状況でした。イモラ・サーキットは微妙に直線が短くて長さが足りないので、抜けそうで抜けないサーキットです。
さらにウエットからドライコンディションに変わるタイミングで早めにピットに入ったマシンのアドバンテージがすごく大きかったのもレースの大きなポイントになりました。タイヤウォーマーの温度が今年は70度に下げられているので、アウトラップが難しくなります。そういったことを含めて、路面が乾きはじめた状況で、『なんでピットに入らないの?』ということを見ている方は思いますが、実際にドライブしているドライバー、そしてチームを含めても判断は非常に難しいです。
ただ、あの場面で気になったのは、後方に沈んでいたハミルトンが早めにピットに入らなかったことです。チームにピットのことについて聞かれ『まだ早い』とハミルトンは無線で返答していて、その無線が実際にはどのタイミングのものかは分かりませんが、少しハミルトンが守りに入っている雰囲気に見えました。後方から順位を上げるためには多少のリスクを冒すしかありませんでしたが、あの場面でピットに入らなかったのはどうだったのかなと思いますね。
今回のハミルトンはすべてにおいてリスクを冒さない選択をしているように感じましたが、それはイコール、クルマへの自信がないということでもあります。難しい状況になったときにクルマをコントロールしてでも、何とか押さえつけて走るんだという自信が今のハミルトンにはないのでしょう。それに対してラッセルは素晴らしい走りを見せていたので、余計にハミルトンの難しい状況が目立ってしまいました。
【動画】2022年F1第4戦エミリア・ロマーニャGP ハイライト
そしてレース終盤にはシャルル・ルクレール(フェラーリ)もターン15の出口でスピンをしてウォールに少しヒットしてしまいました。ルクレールは3番手を走行していて、2番手のセルジオ・ペレス(レッドブル)を抜けなくてイライラしていた状況のなか、タイヤをソフトに交換しましたが、ソフトタイヤのフィーリングがルクレール的にしっくりと来なかったので、無線で『ミディアムの方が良かった』ということを言っていました。
実際にミディアムタイヤを履いたところでペースが上がるかと言うと決してそうではないと思いますが、僕はその無線を聞いたときにルクレールが少し焦っていることを感じました。ターン14〜15の縁石にはまた一段高くなってる縁石がありますが、僕も走ったことがあるので分かりますが、あのコーナーには登って下って進入するのでドライバーからはイン側の縁石が見えません。ドライバー目線だと本当に黄色の縁石のてっぺんが少し見えているだけなので、縁石へのクルマの乗せ具合がすごく難しい。ですが、ターン14〜15はできるだけ縁石をカットしていった方が速い。そのあたりの判断、焦り、集中力が乱れた結果のルクレールのスピンでした。
チャンピオン争いをするというのはそういったプレッシャーのなかで戦い続けることで、良いときほど確実にポイントを獲りに行かなければなりません。好調のフェラーリにとって地元のイモラは落とせない、勝って当たり前という雰囲気になっていたので、ルクレール的には3位は許されないという状況でした。そこで焦りが出てしまい、普段だったら絶対起こさないミスを犯してしまいました。
奇しくもあのコーナーは昨年のイモラの予選で角田裕毅(アルファタウリ)がクラッシュしたコーナーでもあります。少しでも速度や角度が違っただけでルクレールや角田のようになってしまう、本当に難しいコーナーです。
その角田ですが、今回の走り出しを見ると厳しい週末になるかなと感じましたが、走るたびに調子を上げてきました。本当に確実に、ベテランドライバーかというくらい、昨年までの角田とは本当に別人のように淡々と仕事をこなしている状況が見えました。細かいミスはしているかもしれませんが、外から見ている限りでは本当にミスを犯さずに自分がやるべきこと、チームが望むことをきちんとこなしながら、自分のレベルを引き上げていくという作業をレースウイークに入ってからきっちりと進め、レースでは昨年までの課題だったスタートをきっちりと決めるという、自分のミスが多かった部分をすべてクリアにしていきました。
●イモラ前で契約更新したサインツとフェラーリの目論み
展開としてはチームメイトのピエール・ガスリーとこれまでの立場が逆転しているようでしたね。ガスリーも決して悪い走りをしているわけではなかったですし、最後までハミルトンを抑えきったレースは素晴らしかったです。ただ、流れが角田にあるというのが実際のところで、今回に関しては全セッションで角田がガスリーを上回っていたので、どういったコンディションでもコンマ1秒でもガスリーの前に居続けるという、昨年の最終戦アブダビGPと同じ展開でした。
チームメイトのガスリーにとっては、このような展開は本当にボディブローのように自分に効いてきます。何をしても勝てない、全力で走っているのに勝てないということになると、どんどんとガスリーにプレッシャーがかかってきます。そうなると流れが一気に変わってきます。
決勝でもタイヤをそこまで守っているわけではないはずですが、後ろから迫られたときも決して無理せずにタイヤを労りながらきちんと走れていました。それが結果として、レースの後半は3位のランド・ノリス(マクラーレン)と遜色のない、時より速いペースを見せていました。ああいった走りを見ると、ピタッとクルマが合ったタイミングが来れば本当に表彰台が見えてくる期待を持たせてくれたレースでした。今回は決勝だけではなくレースウイークを通して角田の良いところが出ました。
次戦のマイアミGPは全ドライバーが未経験ということで角田にとってはチャンスかもしれません。ストリートサーキットでまたコース特性も全然違うでしょうし、それがどういった結果を各チームにもたらすかは今の段階ではまったく読めません。チームメイト争いも含めて面白い戦いが見られるかもしれません。角田とガスリー、ハミルトンとラッセル、ルクレールとカルロス・サインツの争いですが、このイモラの前のタイミングでフェラーリがサインツと契約を延長したのも見逃せません。
これは暗にルクレールにチャンピオンを獲らせるから『サインツは大人しく走ってね』という暗黙の了解だと思います。サインツは今年、不運のアクシデントなどいろいろなアクシデントが起きていますが、焦ってうまくいかないことが続くと無理をしてルクレールをやっつけて勝ちに来ようとします。それはフェラーリにとってあまりうれしくないことです。
もちろんサインツは決して遅いわけではないですが、フェラーリとしては今年は絶対にチャンピオンが欲しいのでポイントは取りこぼしたくないはずです。チームメイト同士でぶつかってポイントを逃すという万が一のことも防ぎたいので、サインツとの契約を早くに決めてしまったのだと僕は読みます。対するレッドブルはペレスがそういった意味では完璧な仕事をしているので、フェラーリがレッドブルに勝つにはチームメイト同士で争わずに着実にポイントを獲得していくことが今後重要になっていきます。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24
(Shinji Nakano まとめ:autosport web)
関連ニュース
1位 | マックス・フェルスタッペン | 362 |
2位 | ランド・ノリス | 315 |
3位 | シャルル・ルクレール | 291 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 251 |
5位 | カルロス・サインツ | 240 |
6位 | ルイス・ハミルトン | 189 |
7位 | ジョージ・ラッセル | 177 |
8位 | セルジオ・ペレス | 150 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 62 |
10位 | ニコ・ヒュルケンベルグ | 31 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 566 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 537 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 512 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 366 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 86 |
6位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 46 |
7位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 36 |
8位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
9位 | BWTアルピーヌF1チーム | 14 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
第19戦 | アメリカGP | 10/20 |
第20戦 | メキシコシティGP | 10/27 |
第21戦 | サンパウロGP | 11/3 |
第22戦 | ラスベガスGP | 11/23 |
第23戦 | カタールGP | 12/1 |