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【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】モナコ編:初挑戦で見せた才能。プラクティスのミスさえなければ……

2021年6月3日

 2021年に7年ぶりに日本人F1ドライバーが登場した。アルファタウリ・ホンダからF1にデビューした角田裕毅だ。極めて高い評価を受け、大きな期待を担う角田を、海外の関係者はどう見ているのか。今は引退の身だが、モータースポーツ界で長年を過ごし、チームオーナーやコメンテーターを務めた経験もあるというエディ・エディントン(仮名)が、豊富な経験をもとに、忌憚のない意見をぶつける。


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 モナコといえば、パーティー、豪華なヨット、美しいモデルたちを思い出す。あの華やかな場所が懐かしい。スポンサーの船に乗って、最高級のシャンパンを飲み、極上の料理を味わい、有名俳優や歌手、スポーツ選手たちと一緒に時間を過ごした。「俺はこの世界の人間なんだ!」と感激したっけ。ああ、あの栄光の日々よ……。

2021年F1第5戦モナコGP
2021年F1第5戦モナコGP

 予選はスリル満点だが、日曜にシラフでサーキットに来て、ピットウォールに2時間座っているのは辛かった。追い抜きのないレースに興奮しているふりをしなければならなかったしね。物事にはいい面もあれば悪い面もあるってことだ。ニコール・キッドマンが登場した時の話はもうしたかな? え? 角田の話をしろ? せっかく面白い昔話がたくさんあるのに……。


 裕毅はモナコでポイント獲得には至らなかったが、いくつか貴重な教訓を学んだ。


 教訓その1。「最低限、予選の最後のラップを走り終わるまでは、ウォールにぶつからないこと」。プラクティスでマシンを壊すようなことがあれば、走行時間を失って、そこから悪循環が始まる。


 教訓その2。「ヘルムート・マルコから言われたとおりにすること」。そうしないと、際限なく小言を聞かされる羽目になる。裕毅がFP2でマシンを壊した後の様子が目に浮かぶようだ。木曜から土曜朝のプラクティスが始まるまでずっと、マルコから逃れられなかったはずだ。FP3でマシンに乗り込んでコースに出た時には、ほっとしたんじゃないかな。

2021年F1第5戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 今までモナコで1周もしたことがなかったことを考えれば、FP1に9番手に入ったというのは、ソフトタイヤではあっても、すごいことだった。やはり裕毅には才能がある。ピエール・ガスリーから0.8秒遅かったけれど、ガスリーは何度もモナコを走ったことがあるのだから、それは仕方がない。


 しかしFP2で角田はガードレールにヒットし、その後の週末を台無しにしてしまった。FP3の時点でまだ自信を持ってプッシュすることができず、クリーンラップも取れず、結果は19番手。彼のなかでプレッシャーがますます高まっていったことだろう。

■正しい方向に一歩踏み出した。モナコの経験をバクーで生かせ

 私がフランツ・トストなら、裕毅の肩を抱いて港を散歩しながら、「自分らしく走ればいいよ」「予選を楽しんでおいで」と優しく言っただろう。しかしオーストリア人のボスが仕切るこの育成スクールにおいては、そのような環境は用意されない。角田はエンジニアやフィジオの支えを得ながらも、自分で乗り切るしかなかったのではないか。

2021年F1第3戦ポルトガルGP 角田裕毅とフランツ・トスト代表(アルファタウリ・ホンダ)
角田裕毅とフランツ・トスト代表(アルファタウリ・ホンダ)

 角田は予選でフェルナンド・アロンソに勝ち、セバスチャン・ベッテルとは0.018秒差だった。Q1落ちとはいっても、ほんのわずかな差だったのだ。もしも木曜日にしっかり周回していれば、Q2に進んで、予選トップ10に近づけたのではないだろうか。そう思うと、あのミスのことは悔やんでも悔やみきれない。


 日曜の決勝には、これといった事件はなかった。1周目にポジションを落としてしまったこともあって、良い結果はつかめず。アルピーヌとウイリアムズのリヤサスペンションとギヤボックスの後ろを走り続けるレースだった。


 だが、冷静さを失わず、遅い車を追い越すために愚かな行動に出るということもなく、レース中のファステストラップではルイス・ハミルトンに続く2位だった。そこは褒められてしかるべきだろう。もちろん大喜びするようなリザルトではないが、77周をしっかり走り切ったことは、正しい方向への小さな一歩だ。その経験を次のアゼルバイジャンGPで活用して、さらに進歩しなければならない。裕毅、次は絶対にウォールにヒットしないでくれ。シーズンは長い。こつこつと小さなステップを積み重ねていくしかないんだ。君なら絶対にやれると、私は信じている。

2021年F1第5戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第5戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

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筆者エディ・エディントンについて


 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。


 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。


 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。


 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。



(Eddie Eddington)


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