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【中野信治のF1分析/第1戦後編】『やっぱりモノが違う』角田裕毅の可能性と課題。予選で見えたガスリーとの違い

2021年4月8日

 いよいよ始まった2021年F1シーズン。ホンダF1の最終年、そして日本のレース界の至宝、角田裕毅のF1デビューシーズン、メルセデス&ルイス・ハミルトンの連覇を止めるのはどのチームなのか……とにかく話題と期待の高い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が解説。ドライバー、そしてチーム監督、そしてレース解説者としてのファン視点と、さまざまな角度からF1の魅力をお届けします。前回のマックス・フェルスタッペンとハミルトンのトップ争いに続いて、後編ではいよいよ、デビュー戦で9位入賞を果たした角田裕毅の開幕戦について語り尽くします。


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 F1開幕戦、優勝争いに続いてやはり注目されたのが角田裕毅選手です。まずは予選、Q1の最初のアタックで2番手タイムを記録した時には、なんかもう解説をしていても、さすがに言葉が出なかったですね。僕の性格もあるのですが、驚くというよりも『おぉ…』という、うなり声しか上がりませんでした(苦笑)。ビックリというよりもワクワクさせられましたね。


 予選から、本当にこのドライバーは開幕戦で何かをやってくれそうだな、という感じでした。全然それくらいの成績を出せると思っていますが、ただ開幕からというね。僕もデビューレースというのを経験していますが、やっぱり多少は緊張すると思います。


 角田選手自身は特に何も気にしていないようですが、とはいえデビュー戦ですので多少のプレッシャーは感じていると思いますし、緊張もしていたと思います。そういう状況のなかでもQ1の最初のアタックで2番手タイムをドカンと出してきたことに、僕的にはインプレッシブ(印象的)だったし、時代は変わったなと思いました。日本からこういうドライバーが本当の意味でようやく出てきてくれたなと感慨深かったです。


 もともと走り始めから速いということは角田選手の得意技でもあり、マシンの限界を見極めるのが早いので、そういう意味で驚きはないのですが、日本からこういうタイプのドライバーが出てきてくれたというのは本当に感慨深いです。ドライバー育成をしている身にとっては、ようやく出てきてくれたなという想いで、今まで高い壁だったところを崩してくれるんじゃないかなという期待を持たせてくれる存在です。

角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)


 角田選手の前にアタックしたチームメイトのピエール・ガスリーも上位タイムで速かったので、アルファタウリ・ホンダのマシンが良いとは思っていたのですが、そのガスリーのタイムも角田選手は見事に超えてきた。それだけでなく、ドライビングスタイルとして、僕は角田選手のほうが最終的に速く走ることができると思っています。


 ガスリー選手も経験豊富で能力も高いのですが、ガスリーよりも角田のほうが、マシンのリヤが軽い(安定しない)状況でも走れてしまうドライバーです。そういうタイプのほうが最後の最後にタイムに詰めていったとき、さらに速いタイムを出すことができると思います。


 ただ、逆にフロントが入っていかないアンダーステア傾向のマシンになると、ガスリーのほうが得意なんじゃないかなという気がします。ちょっとしたクルマのバランスや路面の上がり幅などで、たとえばQ1からQ2でマシンの挙動が大幅に変わってしまうことも起こりえます。バーレーンGPの予選では角田はQ1をソフト、Q2をミディアムでアタックしました。そのタイヤの差やミディアムでのバランスが、角田が思っている以上にアンダーステア気味になってしまったのではないでしょうか。


 それとも、もともとガスリーのクルマの方がアンダーステア気味のセットアップを施していたのか、それとも自分の力でアンダー気味のマシンを上手く乗りこなしたのか、そこはチームしか知り得ないことですが、何かの違いがあったのだと思います。ソフトでガスリーに勝ったけれどミディアムで負けたということは、セットアップなのかドライビングなのか、さらにドライビングのクセの差なのか、本人たちは原因が分かっているはずです。データを解析して、マシンのセットアップ、タイヤの内圧なども含めて見ていけば分からないことはないです。


 そこはひと言で言えば『経験の差』ということもありますが、それも僕らの想像でしかありません。タイヤの個体差が原因ではという報道もあるようですが、同じタイヤを履いたのに、両者それぞれクルマのバランスが変わってしまうというとはF1ではあまり考えづらいと思うので、僕はタイヤの個体差ではないと思います。ガスリーと角田のタイヤの使い方やドライビング、そして、アンダー傾向かそうではない方向か、もともとのマシンのセットアップの部分が要因だと思います。


 レースでの角田選手は追い上げやオーバーテイクが見事でしたが、スタンディングスタートやセーフティカー後のローリングスタートではポジションを下げてしまいました。そのあたり、もともと角田選手にはスタートが良い、上手いという印象がそこまでないです(苦笑)。昨年のFIA-F2でもそうでしたが、どちらといえばスタートで順位を落としつつ、その後に上手くタイヤをマネジメントして、ほかのドライバーが弱ってきているとこをズバッと追い抜いていくスタイルでしたが、現時点ではスタートが課題なのかなとも思います。


 F2ではスタートで出遅れることが、逆にポジティブに出ていたのですが、F1でそれはどうなのかなという部分もあります。ですがデビューレースですからね。スタートでポジションを落としても別に普通だと思いますし、世間の要求が高すぎる感もあります(苦笑)。僕的にはデビューレースであれだけ活躍すれば十分だと思います。


 角田選手はデビューレースで見事な走りをしましたが、デビューレースはどのドライバーにとっても、何がなんだか訳がわからなく通常の精神状態ではいられなくなります。僕もF1デビュー戦では(7位完走)そうでした。そのなかで、角田選手はあれだけ冷静にマシンを最後までコントロールして、オーバーテイクに関してはパワーユニットの差もありますが、20歳のドライバーのデビューレースであれだけの冷静な走りがよくできたなと思います。


 しかも、レースではオーバーテイクが見事でしたね。特にジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)を9〜10コーナーでラインをクロスさせて追い抜いたときにそう感じました。どのドライバーもストレートでトウやDRS(ドラッグ・リダクションシステム)を使用してコーナー進入の縦のブレーキングで追い抜くことはできますが、そうではなくブレーキングから連続するコーナリングのラインで相手の動きを読んで、そして次のコーナーへのアプローチを考えて、ライン取りでオーバーテイクしていたシーンがとても印象に残りましたね。『やっぱりモノが違うな』と感じました。

2021年F1第1戦バーレーンGP角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
後方から追い上げ、ウイリアムズのラッセルとのバトルを制した角田裕毅


 開幕戦では他にもベテランの(フェルナンド)アロンソや(セバスチャン)ベッテル、そしてマクラーレンやフェラーリの走りなど、いろいろ話題も多かったのですが、このあたりはまた第2戦以降に触れましょうか。いずれにしても、今年のF1の勢力図的には、開幕戦バーレーンのレースでなんとなく見えてきた感じがしますね。
 
 そして第2戦、次のイモラ・サーキットでもレッドブル・ホンダとフェルスタッペン、角田選手がすごく楽しみですね。開幕戦からこんな走りを見せつけられると期待しないわけにはいかないというか(笑)、ホンダパワーユニットも今シーズンは好調ですし、ドライバビリティも良さそうなので、イモラみたいなストップ&ゴータイプのコースにも結構合っているんじゃないかと思います。レッドブル・ホンダのマシンも速そうですし、アルファタウリ・ホンダのマシンもフロントが入る方向に持っていければ、うまくいけば表彰台を争えるポジションまでいくんじゃないかなと思います。


 開幕戦を見てもアルファタウリ・ホンダのマシンはフェラーリなどとは本当に互角ですし、戦えると思います。あとはトップ争いがどういう動きになるか。メルセデスとレッドブル・ホンダだけではなく、どこかのチームが絡んでくるかもしれない。それがマクラーレンなのかフェラーリなのかアルファタウリ・ホンダかはわからないですが、そういった楽しみもあるので期待したいですね。


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<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24




(Shinji Nakano / まとめ:autosport web)


レース

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