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もはやノンフィクション。角田裕毅の道しるべとなった『カペタ』作者、曽田正人との特別対談が実現

2021年3月11日

 それは2020年11月17日──自身のレース人生をかけた大一番、FIA-F2最終2連戦(バーレーン)が始まる10日前のこと。角田裕毅は自身のSNSに“あるイラスト”を投稿した。


「少し前のことですが、曽田先生がうれしい絵を送ってくださいました! 小さいころ『カペタ』を楽しく見させていただいたので感動しました。ありがとうございます。残り2ラウンド頑張ります!」


 描かれていたのはレッドブル・ジュニアチームのレーシングスーツを着た角田。その隣りには真っ赤なスーツをまとって角田を見つめる青年──平勝平太(たいらかっぺいた。愛称“カペタ”)の姿があった。


 2003年に『月刊少年マガジン』で連載が始まったレース漫画『capeta─カペタ─』は、瞬く間に爆発的な人気を呼び、第29回講談社漫画賞少年部門を受賞。連載開始から2年半後にはテレビアニメ化がなされるほど好評を博した。『シャカリキ!』『め組の大吾』『昴(スバル)』など数々の名作を生み出し、自ら「大のF1好き」と語る曽田正人先生が、入念な取材をもとに10年間という歳月を費やして描き上げた渾身の作品でもある。


 今季のF1開幕に向けて“丸ごと一冊 角田裕毅特集”を組んでいるオートスポーツ本誌3月12日発売号では、巻頭8ページにわたり『カペタ』作者である曽田先生と角田の対談を掲載している。今回の企画のために曽田先生によって特別に描き下ろされた“アルファタウリのスーツを着たカペタ”も必見。ここでは、その対談の一部を紹介しよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


──最初に角田選手が『カペタ』を知ったきっかけを教えてください。


角田裕毅(以下、角田):僕がまだカートで走っているころで、あれはたしか7、8歳のとき。それこそカペタの幼少期と同じくらいの時期に父親がDVDを買ってきてくれて、それで見たのが最初でした。


曽田正人(以下、曽田):いやぁ、うれしいですね。ありがとうございます。角田選手が『カペタ』を読んでくれていたことを昨年まで知らなかったんです。それまでの僕は勝手に絵を書いたりして、一方的に角田選手を応援していました(笑)。だから「角田選手が『カペタ』を見てくれていた」というのが本当にうれしくてね。僕が漫画でたどり着けなかったところまで行っている姿を見て「僕が描きたかったことを全部やってくれた!」という思いなんです。本当にありがとうございます。


角田:こちらこそ、ありがとうございます。


──いまは国内のレース界でも“カペタ世代”のドライバーが多くいますね。


角田:本当にそう思います。曽田先生が僕のことをツイートしてくださっているのを、SRS-F(鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラ)時代に同期だった大湯都史樹選手も見てくれていました。ツイッターでイラストを投稿したときも、僕の親が「え!? 曽田先生から?」とすごく驚いていました。


──『カペタ』は親の視点でも楽しめる作品ですからね。


角田:はい。親も『カペタ』が大好きで、それこそ一度だけでなく、何回も見て楽しませていただきました。大湯選手をはじめ、僕らは『カペタ』を見て、育ってきた世代のドライバーだと思います。ちなみに、僕は小さいころのキャラクターでいうとモナミ(鈴木茂波:カペタの幼なじみの女の子。男勝りの勝気な性格で、自称「チーム・カペタの監督」)がめちゃくちゃ面白くて好きでした(笑)。


曽田:ありがとうございます(笑)。


(中略)


曽田:僕が角田選手から受け取ったのは「遠い先のビジョンを見すぎないで、目の前のことに集中して戦う」という言葉です。スポーツ選手からは、あまり聞いたことがない言葉でしたので。次元は違うのですが、僕自身、遠くに置いていた目標に縛られすぎて、“いま”に対して疑問を抱く場面が最近何回かありました。角田選手のように現実の世界で結果を出している方が「“いま”に集中する」と言ってくれたことは、この半年の僕にとって原動力でした。メンタルトレーナーの指導によって、戦い方などが変わったのですか?


角田:そうですね。人によってさまざまだと思いますが、おそらくふたつに大別できるのだと思います。『遠い目標を置いてそれに向かっていく人』と『目標は目標としてあるけれど、より目の前のことに集中したほうがいい人』。それは性格によって違うので、僕はメンタルトレーナーから渡された問題用紙に答えて、自分を知るところから始めました。


 その結果、僕は『目の前に集中』したほうが、緊張やプレッシャーに強くなり、コースに入ったときに集中できると勧められて、試行錯誤しながらやってきました。最近、気付いたのですが、フリープラクティスから予選、決勝まで目の前のことに集中すると、それ自体がスムーズなだけでなく、いろいろな発見があるんです。それらをノートに記しておくと後々になって役に立つ。


 だから僕は『単に目の前の結果』を追い求めるのではなく『目の前に集中して反省すること、次に活かせることをひとつでも多く引き出す』ように心がけています。その積み重ねが経験値となって、勝手に結果がともなってくると。いまの僕は開幕前のテスト1本目のブレーキングをどこで踏むか、ウォームアップをどうするかということだけを考えています。


曽田:そうですか。分かりました。すごく勇気づけられます。僕もこの漫画のこのページのことだけを考えて漫画描きます。目の前のページをね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 オートスポーツ本誌3月12日発売号(No.1548)の本対談では、このほかに『ふたりの“接点”となったエピソード』をはじめ、角田がカペタのなかで『もっとも好きなシーン』『実際に真似をしていた走らせ方』『現在のレース活動でも役に立っていること』などについてもたっぷりと語られている。


 カペタの連載が始まったのはいまから18年前、テレビアニメ化されたのは16年も前のこと。かつて同作を見て/読んで育った子どもたちが“その意志”を継いで成長し、いまでは国内外の最高峰カテゴリーで活躍するようになってきた。そして、そのなかのひとりには今季、日本人として7年ぶりにF1に参戦することになった角田も含まれている。


 日本が世界に誇る『マンガ・アニメ文化』の底ヂカラを、あらためて痛感させられる対談でもあった。


<<プロフィール>>
曽田正人(そだ まさひと)

1968年6月18日生まれ。東京都文京区出身。
『ドカベン』『サーキットの狼』に影響をうけて、小学校2年より漫画を描き始める。
日本大学藝術学部デザイン学科インダストリアルデザインコースを中退後、アシスタントを経て、1990年に『マガジンSPECIAL』(講談社)に掲載の『GET ROCK!』でデビュー。以降『シャカリキ!』(1992〜1995年/週刊少年チャンピオン)、『め組の大吾』(1995〜1999年/週刊少年サンデー)、『昴─スバル─』(1999〜2002年/週刊ビッグコミックスピリッツ)、『capeta カペタ』(2003〜2013年/月刊少年マガジン)、『テンプリズム』(2014〜2017年/週刊ビッグコミックスピリッツ)、『Change!』(2017〜2019年/月刊少年マガジン)など数々の作品を世に送り出した。2020年11月からは新連載『め組の大吾 救国のオレンジ』(月刊少年マガジン)がスタート。4月16日にはその第1巻が発売予定。


本誌ページでは角田と曽田先生の対談の他にも、カペタのイラストも満載
本誌ページでは角田と曽田先生の対談の他にも、カペタのイラストも満載

角田裕毅を特集した3月12日発売のauto sport No.1548の詳細はこちらまで
角田裕毅を特集した3月12日発売のauto sport No.1548の詳細はこちらまで

【取材動画公開中!】

オンラインで行なった曽田先生と角田選手の対談取材の模様はYouTube『オートスポーツSUBチャンネル』(https://www.youtube.com/c/autosportSUBChannel/)でもご覧いただけます。



●auto sport No.1548の電子版はこちら



(Koji Tanaka / auto sport)


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