最新記事
- ブラジルでF1の放映権争いが勃発。大手テレビ...
- 【全ドライバー独自採点&ベスト5/F1第20戦...
- アロンソ、ブラジルでもメディアデーを欠席。...
- ランキング3位に落ちたレッドブル。代表はシ...
- 角田裕毅に求められるマインドセット。戦い方...
- 【F1第20戦無線レビュー(2)】ふたつ目のペ...
- ローソンがペレスへの侮辱行為を謝罪。レッド...
- ドライビングガイドラインの方向性について「...
- 【F1第20戦無線レビュー(1)】母国レースの...
- フェルスタッペン、メキシコではレースペース...
- 2024年F1第21戦サンパウロGP TV放送&タイム...
- ホンダとアルピーヌ、F1コストキャップ規則手...
4年目にして見せた“逆境での強さ”。引かないドライビングで期待通りの活躍を続けたマグヌッセン/小松礼雄コラム番外編
2021年2月13日
2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。ケビン・マグヌッセンとロマン・グロージャンというペアで迎えた4年目のシーズンは、チーム再建に向けた第一歩ということもあって、非常に苦しいシーズンだった。
その2020年をもって、ケビン・マグヌッセンがチームを離れることに。グロージャンと一緒にハースの躍進を支えたマグヌッセンは、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権に戦いの場を移すことになった。強気なドライビングを活かして、IMSAでも変わらぬ活躍を見せてくれるだろう。
さてそんなマグヌッセンと一緒に4シーズンを過ごした小松エンジニアにとって、マグヌッセンはどんなドライバーだったのか。そしてチームにどれほどの貢献をしてくれたのだろうか。この4シーズンを、小松エンジニアが改めて振り返る。
────────────────────
ケビンとは、彼がハースに来る前は一緒に仕事をしたことがなかったのですが、ハードにレースをするドライバーだなという印象でした。ハース1年目はロマン(グロージャン)とエステバン・グティエレスというペアでしたが、エステバンはレースに弱くその弱みをライバルたちにも見透かされていました。そういう事情もあり、誰が相手でも引かずに、強気でレースができるドライバーが欲しかったので、そんなケビンのドライビングスタイルもチーム加入の決め手のひとつになりました。
ハースでの第一印象は、シャイだけどいいお兄ちゃんという感じです。でも、僕の前ではやはり猫をかぶっていますね。一度カマをかけてケビンの好きなアルコールなどの話をしたことがあるのですが、その時のケビンはかなり驚いて「なんで知ってるの? 誰から聞いたの?」とずいぶん気にしていました(笑)。誤解を恐れずに言えば、かわいいヤツです。
それに、ある意味すごくシンプルな人間です。たとえばロマンは料理本を出してみたりeスポーツのチーム運営をしたりと、レース以外にも様々なことをやっています。でもケビンはとにかく「レースに勝ちたい」と他のことには手を出さないでレースに取り組んでいます。
ちなみに、ケビンのフィジオやトレーナーはデンマーク人で、みんなよくお酒を飲むのですが、飲むとゲームを始めるんです。どのようなゲームかというと、相手の肩を思いっきり殴るだけ。なんで? と思いますが、そういうゲームのようです。ある時、このゲームに参加していたケビンのトレーナーが酔っ払って殴る箇所を間違えて、手を骨折してしまいました。するとその1カ月後くらいに、ケビンのフィジオも骨折していたのです。まさかと思って理由を聞くと、お酒を飲んで同じゲームをしていたとのこと。ぶっ飛んでいますよね。ケビンにもそういうところがありますが、僕の前ではだいたい静かに良い子のふりをしていました(笑)。
そんなケビンですが、レースでは1周目からアグレッシブにポジションを上げることができるドライバーです。闘争心という本能があるのでしょうね。だからといって他車とぶつかることもないし、そのあたりはロマンと逆です。それから、ひとりで淡々と走っている時はとにかくいいペースで、自分の“ゾーン”に入っている時はミスなく走ってくれました。
強気でレースができるドライバーなので、ロマンのこともプッシュしてくれました。彼のいいところは、金曜日にロマンより遅くても自信を失わないで、「自分は予選までにロマンと同じ速さで走れるようになる」という自信があったこと。だから予選でもレースでも、お互いプッシュし合ってくれたというところに感謝しています。タイプは違えど、プッシュし合えるふたりのドライバーがいないとチームは良くならないし、明確にナンバー1とナンバー2という状況になるとチームの士気も下がってしまいます。それに2019年は選手権でロマンに勝っていますし、そういう意味でもある程度、期待した通りのパフォーマンスを発揮してくれました。
反対に、あまりレースの全体像を掴めないタイプなので、自分の置かれた状況を正しく把握するのが難しいというのが短所でした。そして常に一発逆転を狙って賭けに出ようとするところがあります。こういうところは特に状況が刻々と変わる雨の予選やレースで出てきます。もしもう少しレースでの自分の位置をきちんと把握できていたら、ギャンブルに頼らずに冷静な判断ができたのではないかと思います。
それから、これまでのコラムでも何度か書いたことがあるのですが、ケビンは他のクルマに抜かれた後や、雨などの不可抗力があると一気にペースを崩す傾向があります。そうかと思えば2020年第14戦トルコGPのように、我々を驚かせてくれたりもします。この時はまったく参考になるデータがないうえに、初日から路面状況が酷くてグリップもありませんでした。そして土曜日以降は雨が降ったので、非常に不安定な難しい状況でした。しかし彼はFP1から速さを発揮して、どのサーキットでもすぐに速さを発揮できるタイプのロマンよりも良いペースで走りました。
この予選ではイエローフラッグのせいでケビンの頑張りが結果には繋がらず、決勝でもチームのピットストップミスによって入賞を逃してしまいましたが、あの時は本当によくやってくれました。参考になるデータなどがない状況でここまでの速さを見せたことは4年間なかったので、正直驚きました。
もうひとつ良かったレースを挙げるとすれば、第3戦ハンガリーGPです。路面が濡れた状態でドライタイヤを履くというのは必ずしも今までのケビンの得意な状況ではなかったものの、難しい場面を切り開いていくという強さが光りチームにポイントをもたらしてくれました。
またこれも以前コラムで触れたことですが、ケビンはハースに加入するまで、同じチームで2年以上F1に参戦した経験がありませんでした。1年しかチームにいられないという状況では、レースをしながら契約のことなどいろいろと考えていたようですが、ハースではレースに集中できていました。チームに慣れて、そしてチームのことを信用して居心地のいい場所だと感じてくれたのは大きいですね。そういう環境を与え、落ち着いて信用できる環境でレースをさせてあげることができてよかったと思います。
そんなケビンの今だから言える話ですが、2019年第10戦イギリスGPでロマンと同士討ちした後は大変でした。シルバーストンでは旧スペックのマシンと新スペックのマシンを走らせてデータを集めていたところだったので、接触したリタイアとなったことで、ギュンター(シュタイナー/チーム代表)は怒り心頭でした。
ギュンターはレース後も怒りが収まらず、怒鳴りたいだけ怒鳴ってドライバーの言い分をまったく聞きませんでした。結局、その後で僕がケビンと話をしに行くことに。まるで喧嘩の仲裁をしているような感じでしたけど、ケビンはギュンターがドライバーの言い分を聞かない状況で怒られたことに「フェアじゃない、納得できない」とかなり怒り震えていました。こんなに怒っているケビンは見たことがなかったですしその時は大変でしたが、今思えばこれもお互いが成長していく過程でぶつかり合ったことで、後には引きずりませんでした。
またこの4年間、実はケビンとロマンの仲は特に良くなかったのです。でもバーレーンでロマンがクラッシュした時、ケビンは心の底からロマンのことを心配していて、レース後に僕が病院行くと言ったら、ケビンも「絶対に僕も行く」と一緒に来てくれました。ロマンの顔を見て「お前が生きているのが信じられない」と本当に嬉しそうにしていました。
ロマンが退院した後は一緒に食事をしたりもして、その時の写真がSNSにも載っていました。ロマンも初めてケビンのことを友達だと言っていましたよ。今までお互いプッシュし合ってきて、性格も全然違うしあまり仲良くなかったけれど、あの一件を機に距離が縮まって、お互いを尊敬するようになったと思います。ロマンもケビンが本当はいい奴だと身に染みてわかったのでしょうね。こんなひどい事故がきっかけというのも皮肉ですけど、「今のロマンとケビンの関係はすごくいいよね」とケビンのマネージャーも次のレースの時に言っていました。
僕はケビンとサーキット以外の場所で会うことはあまりなかったのですが、最後にひとつ楽しかったエピソードをご紹介します。これもバーレーンでのことなのですが、チームのみんなでカート場に行きました。予選をやって、1レース目はケビンがポールポジションから優勝し、2位にはケビンのマネージャー(元ドライバーです)、僕が3位になりました。お互い真面目に勝負していたわけではなかったので、たとえばコースの外にわざと膨らんでから突っ込んで来たりと、最初はふざけていましたけど、残り5周くらいになって真面目に走ったら、やっぱりレンタルカートはいえ全然ついていけなかったです。
2レース目は優勝したケビンが最後尾からスタート、ケビンのマネージャーが最後尾から2番目、僕が最後尾から3番目とリバースグリッドでスタートしたのですが、シグナルがグリーンに変わった瞬間に、最後尾のケビンはなんと僕の真横にいました。もちろん彼は最初からジャンプスタートをするつもりだったようで、僕が「お前、すごい勢いでジャンプスタートしたな」と言ったら「当たり前だよ!」なんて言っていました(笑)。結果は結局1レース目と同じでした。
こうやってずるをして人を出し抜くことを考えているようなやんちゃな一面もあれば、実はいつもデンマークにいる母親のことを心配している一面もあります。そういう大人っぽい部分も兼ね備えた、本当にかわいくていいヤツです。これからの新しい挑戦で、また本当に大好きなレースを楽しんでもらいたいと思うし、勝ってくれることを願っています。
(Ayao Komatsu)
関連ニュース
1位 | マックス・フェルスタッペン | 362 |
2位 | ランド・ノリス | 315 |
3位 | シャルル・ルクレール | 291 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 251 |
5位 | カルロス・サインツ | 240 |
6位 | ルイス・ハミルトン | 189 |
7位 | ジョージ・ラッセル | 177 |
8位 | セルジオ・ペレス | 150 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 62 |
10位 | ニコ・ヒュルケンベルグ | 31 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 566 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 537 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 512 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 366 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 86 |
6位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 46 |
7位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 36 |
8位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
9位 | BWTアルピーヌF1チーム | 14 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
第19戦 | アメリカGP | 10/20 |
第20戦 | メキシコシティGP | 10/27 |
第21戦 | サンパウロGP | 11/3 |
第22戦 | ラスベガスGP | 11/23 |
第23戦 | カタールGP | 12/1 |