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【F1データ主義】なぜハミルトンは中古のインターミディエイトで50周を走り切れたのか?/F1トルコGP

2020年11月19日

 第14戦トルコGPの勝敗を分けたのは、ピットストップ作戦だった。多くのドライバーがフルウエットタイヤからインターミディエイトタイヤに交換した後、もう一度ピットインして、もう1セットのインターミディエイトタイヤに履き替えてチェッカーフラッグを目指したのに対して、ルイス・ハミルトン(メルセデス)は8周目にピットインしてインターミディエイトタイヤに交換すると、その後チェッカーフラッグまでの50周をこの1セットだけで乗り切った。しかも、そのインターミディエイトタイヤはレース前に数周使用した中古だった。


 なぜハミルトンは中古のインターミディエイトで50周を走り切ることができたのか?


 その答えは、レース後のトト・ウォルフ代表のコメントにあった。


「ライバルたちの多くが、交換した直後にプッシュしてタイヤにグレイニングを作って苦しみ、再びピットインして、新しいインターミディエイトに交換していた。ランス(ストロール/レーシングポイント)しかり、マックス(フェルスタッペン/レッドブル・ホンダ)しかりだ。もちろん、それが間違いだったというつもりはない。速く走れれば、そうしていただろう」


「でも我々は今週末、競争力がなかったから、コースにとどまるという選択を取らざるを得なかった。しかも、ルイスのラップタイムはほとんど落ちなかったので、我々は彼をピットインさせる理由がなかった」

ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2020年F1第14戦トルコGP レース後、パルクフェルメに止められたルイス・ハミルトン(メルセデス)のマシン。50周を走り切った右リヤタイヤは完全に溝がなくなっている


 そこでここでは、1回目のピットストップ直後のアウトラップからバーチャルセーフティカー(VSC)明けの18周目までのラップタイムを比較して、ウォルフのコメントが正しいのかどうかを検証してみたい。


 まず、基準となるハミルトンのラップタイムを出してみた。


【ルイス・ハミルトン(メルセデス)】
9周目 2分08秒857(アウトラップ)
10周目 1分45秒872
11周目 1分49秒209
12周目 1分50秒239
13周目 1分54秒471(VSC)
14周目 2分06秒654(VSC)
15周目 1分55秒353(レース再開)
16周目 1分47秒193
17周目 1分46秒044
18周目 1分45秒723


 続いて、序盤トップを走行していたストロールのラップタイムだ。カッコ内はハミルトンとの比較でマイナスは速く、プラスは遅いことを示す。また、VSCが出た13周目と解除された15周目は、コースのどこを走っていたかでラップタイムが異なるので比較はしない。


 こうしてみると、ストロールはアウトラップを除いて、ほとんどのラップでハミルトンを1秒以上上回るペースで走っていたことがわかる。それによって、本人が無線で伝えたようにフロントタイヤにグレイニング(ささくれ)を発生させてしまった。


【ランス・ストロール(レーシングポイント)】
10周目(アウトラップ)2分11秒349(+2.492秒)
11周目 1分47秒275(-1.934秒)
12周目 1分46秒571(-3.668秒)
13周目 1分49秒736(VSC)
14周目 2分11秒538(VSC)
15周目 1分51秒012(レース再開)
16周目 1分46秒317(-0.876秒)
17周目 1分44秒386(-1.658秒)
18周目 1分43秒951(-1.772秒)

ランス・ストロール(レーシングポイント)
2020年F1第14戦トルコGP ランス・ストロール(レーシングポイント)


 優勝候補と考えられたフェルスタッペンも、ほぼ1秒以上速いペースで第2スティントをスタートさせていることがわかる。したがって、スピンしていなくとも、もう一度ピットストップする必要が生じ、結果的にハミルトンの後塵を拝していた可能性が高い。


【マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)】
12周目(アウトラップ)2分07秒358(-1.499秒)
13周目 1分50秒639(VSC)
14周目 2分07秒347(VSC)
15周目 1分51秒995(レース再開)
16周目 1分45秒353(-1.84秒)
17周目 1分45秒189(-0.855秒)
18周目 2分00秒327(スピン&ピットイン)

2020年F1第14戦トルコGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
2020年F1第14戦トルコGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)


 フェルスタッペンがスピンした後、代わって3番手に浮上したアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)は、レース後に「優勝の可能性も見えていただけに、7位という結果は納得し難い」と語ったが、タイヤ交換直後のペースはハミルトンよりなんと2〜3秒も速く、ここでタイヤを大きく痛めてしまい、34周目にタイヤ交換した。


 速く走ることは悪くないのだが、VSC解除後にペースを上げてセルジオ・ペレス(レーシングポイント)に追いついたものの、結局最後まで抜くことはできなかった。だったら、タイヤをいたわって走る方が賢明だった。


【アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)】
13周目(アウトラップ)2分13秒494(VSC)
14周目 2分06秒329(VSC)
15周目 1分51秒892(レース再開)
16周目 1分45秒092(-2.101秒)
17周目 1分43秒350(-2.694秒)
18周目 1分42秒525(-3.198秒)

アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)
2020年F1第14戦トルコGP アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)


 ペレスはアウトラップ以外はハミルトンよりもいずれの周回も速いが、17周目以降はその差を1秒以内にとどめ、VSC解除後からはタイヤを労り始めていることがわかる。特にフェルスタッペンがスピンした18周目には前のラップよりもタイムが遅い。


 その直後の19周目のラップタイムが1分43秒531と1.8秒も速くなっているところをみると、レース再開後の18周目まではペレスはあえてペースを落としていた可能性がある。つまり、フェルスタッペンはペレスの罠にはまってしまったわけだ。


【セルジオ・ペレス(レーシングポイント)】
11周目(アウトラップ)2分11秒088(+2.231秒)
12周目 1分47秒380(-2.859秒)
13周目 1分48秒306(VSC)
14周目 2分08秒385(VSC)
15周目 1分54秒009(レース再開)
16周目 1分45秒323(-1.870秒)
17周目 1分45秒211(-0.833秒)
18周目 1分45秒370(-0.353秒)


 このように、総じてハミルトンのピットストップ直後と、VSC明けの数周はペースを落として走っていたというウォルフのコメントは紛れもない事実だったことが証明された。

セルジオ・ペレス(レーシングポイント)
2020年F1第14戦トルコGP セルジオ・ペレス(レーシングポイント)



(Masahiro Owari)


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