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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第15回】トラブル発生もパーツ交換の許可は下りず。悔しさと充実感のあった2日間

2020年11月12日

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。F1史上初めて2日間で開催された第13戦エミリア・ロマーニャGPは、新型コロナウイルスの影響で急きょ無観客レースとなった。トラブルに見舞われた状態で予選とレースを迎えたが、一体どれほど影響があったのだろうか。現場の事情を小松エンジニアがお届けします。


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2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP
#8 ロマン・グロージャン 予選16番手/決勝14位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝リタイア


 14年ぶりにイモラでのF1開催となりましたが、実は僕がF1で働き始めて最初に行ったレースがイモラでのサンマリノGP(2004年)でした。当時はB・A・Rホンダに所属していて、この年はジェンソン(バトン)が予選でポールポジションを獲得し、レースでは表彰台に乗りました。


 すごく懐かしいのですが、当時のことは結果以外あまり覚えていません。初めての仕事だったので、いっぱいいっぱいだったんだろうなと思います。今回イモラに行って、ほぼすべてが新鮮に感じられました。

2004年F1サンマリノGP
2004年F1サンマリノGP表彰式 ミハエル・シューマッハー(フェラーリ)、ジェンソン・バトン(B・A・Rホンダ)、ファン・パブロ・モントーヤ(ウイリアムズ・BMW)


 モンツァやムジェロもそうですが、イタリアのサーキットは景色がきれいです。イモラではアクア・ミネラリを立ち上がった右側に古い建物がそのまま残されていて、反対側には松の並木が広がっています。最後コーナーのリバッツァの外側では普通の家のベランダからレースを観ることもできます。そういうのも含めて、昔のサーキットには趣があるなと、思います。


 レースでは残念ながらケビンはギヤボックスに問題を抱えてリタイアすることになったのですが、問題はすでに予選で起こっていました。F1のクルマは最高の性能を発揮するためにいろいろなものがコンピューターで制御されていますが、ギヤボックスもそのひとつです。コンピューターで制御するためには、センサーで正確な状況を把握してコンピューターに送らなければいけません。そのセンサーのひとつに問題が出てしまったのです。


 通常ドライバーはアクセル全開のままステアリングに付いているギヤシフトパドルを操作してギヤを変えます。しかしセンサーに問題がある状態で(つまりギヤボックス内部の状態が正確にわからないまま)同じようにギヤを変えようとすると、上手くギアを噛み合わせることができずに壊してしまう場合があります。


 ですからセンサーに問題が出た場合は、ギヤを壊さないで安全にシフトアップできるような設定に自動的に変更されます。しかしこの場合、ギヤは安全に入りますが、一方で加速が鈍るのでタイムロスに繋がります。それがどれくらいの頻度で起こるのかによってロスの大きさは変わりますが、予選で起きたレベルだと1周で0.1〜0.2秒ほどです。特にあれだけ予選のタイム差が拮抗していたので、ケビンにとって申し訳なかったです。


 実はフリー走行でも、スタート練習の時と走行中に同じ問題が起きていました。でもトラブルが起きたと確認できる事象は走行中の1回だけだったので、ギヤボックスを管理しているフェラーリ側からは問題だとは言われていなかったのです。それが予選で悪化したので、予選後にセンサーを交換させてもらえるようにFIAに打診しました。


 ところが日曜日の朝にセンサーの交換は許可できないと言われ、そのままレースに臨むことになりました。パルクフェルメ規則下ではFIAの許可がないとパーツを交換できないのですが、もしレースであれだけ状況が悪化することが想定できていれば、ペナルティを受けてでも交換しておくべきでした。

2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

■オーバーテイクまであと一歩。見せつけられたパワーユニットの差

 今回はレース前の時点でソフトタイヤがあまり保たないだろうと予想していました。またイモラはピットレーンが長く、タイヤ交換時のロスタイムが27秒以上もあって、1ストップのレースになることが見えていたので、スタートではロマンとケビンのタイヤを同じミディアムタイヤにしました。


 ケビンは1周目にセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)と接触してスピンし、最後尾まで落ちたものの、マシンのバランスもラップタイムも悪くなかったので、そのまま走り続けることを決めました。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 一方ロマンはキミ・ライコネン(アルファロメオ)に詰まって抜けない状態だったので9周目にピットインさせて、ここでケビンと戦略を分けることに。予定通り後方のストロールの前の位置でコースに戻ることが出来ましたが、ロマンに反応して翌周以降にアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)やジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)、エステバン・オコン(ルノー)などがピットインしたので、結局その後はトラフィックに引っかかってしまいました。


 ふたりの戦略を分けたこと、そしてケビンのタイムはハードタイヤを履いて2秒後方を走っていたダニエル・リカルド(ルノー)とあまり変わらなかったこともあって、ケビンの方はできるだけ長く走らせようとしました。ところが19周目あたりからギヤボックスの問題が徐々に悪化。リカルドやシャルル・ルクレール(フェラーリ)に抜かれ、このままでは他のクルマにも抜かれるのが明らかだったので27周目にピットインしました。


 このトラブルのせいで、一番ひどい時で1周あたり0.4秒のロスがありました。それにギヤボックスを壊さないためにトルクがカットされた状態でシフトアップすると、かなりの振動があります。なんといってもギアを変える度に1Gの減速度がかかるのでドライバーは大変です。入賞圏内を走っているのであればそのまま走らせようと思いましたが、ケビンが頭痛を訴えていて順位も後方だったのでリタイアさせることにしました。


 ロマンの方は終盤にセーフティカーが出たところでソフトタイヤに履き替え、リスタートでの追い抜きに賭けました。前を走るニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)はハードタイヤを履いていたうえにピットインせず、ジョビナッツィも10周目から履いているミディアムだったので、この2台を抜いたら入賞という状況でした。


 リスタート後のヘアピンでロマンがラティフィよりもうまく加速して抜きかけていたのですが、一旦ラティフィがアクセルを開けるとメルセデスのパワーユニットの力を見せつけられ、追い抜くことはできませんでした。その後、2コーナーでも追い抜きをかけましたが、これも上手く行かず結局抜けないまま12位でのフィニッシュとなり残念でした(その後トラックリミット違反による5秒ペナルティで14位に。。。)。

2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP ロマン・グロージャン(ハース)


 今回はF1史上初の2日間開催でしたが、チームとしてはうまく対応できたと実感しています。1時間半のフリー走行でタイヤを3セット使い、予選とレースの準備をするなかで良い妥協点を見つけるためのプログラムを組みました。インスタレーションラップもなしで最初から走り続けてすごく忙しいセッションでしたけど、充実感があって楽しかったです。


 イモラはドライバーふたりが未経験のサーキットだったので、モナコと同じで走り込むことが必要なので、フリー走行でトラブルなしで予定どおりのプログラムをこなせたのは収穫でした。新型コロナウイルスの影響で急きょ無観客開催になってしまいましたが、もしそうではなかったとしたら、これは観客の方々にとってもいいことですよね。


 ウチはセッション序盤に軽めの燃料で、新タイヤを3セット使い、コースの習熟やクルマの基本的なバランスの確認を行いました。そして最後に燃料を多めに積んでレースを見据えたデータ収集をしました。多くのチームが同じやり方だったので、考えることはみんな一緒ですね。


 話は少し変わりますが、昨年までのように、たとえグランプリごとに持ち込むタイヤをチームがそれぞれ選んでも、FP2が終わった時点で基本的に皆ほぼ同じタイヤを残していました。何が言いたいかというと、走る機会があればあるほど、みんなしっかりとデータを採ってしっかりと解析しますから、どんどんと不確定要素が減っていくんです。


 そして結果的にみんな同じタイヤをレースに選び、似たような戦略をとるわけです。これは、ひょっとしたら見る人にとってレースをある意味つまらなくさせているかもしれません。


 ではどうやって不確定要素を残しておくかというと、たとえば今回のようにフリー走行を減らすこともひとつのアイデアです。おもしろかったのは、第11戦アイフェルGPですよね。ニュルブルクリンクでは金曜日にまったく走れず、どのチームもレースでハードタイヤが使えるかどうかがわからないまま日曜日を迎えました。結局、レースでハードを使ったのは4台のみ。ウチはそのハードを使って1ストップ作戦でポイントを獲ることができました。


 仮に金曜にドライでみんな走っていれば、ほとんどのチームがレースでもハードを恐れずに使っていたのではないでしょうか。そうするとクルマの差を埋めるために違った作戦をとってポイントを獲るということは難しくなります。そういう観点からはチーム側が判っている情報が少ない方が、レースは面白くなるかもしれませんね。


 次はこれも久しぶり(2011年以来)のトルコです。予報ではあまり温度が上がらず日曜は雨の可能性もあるようなので、またまたタイヤがカギになってくると思います。毎回厳しい戦いではありますが、常にチャンスを探して攻めていきたいです。

ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP ロマン・グロージャン(ハース)

ギュンター・シュタイナー(ハースF1 チーム代表)ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP ギュンター・シュタイナー(ハースF1 チーム代表)ケビン・マグヌッセン(ハース)



(Ayao Komatsu)


レース

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