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【F1第10戦無線レビュー】突然のペナルティに冷静さを失うハミルトン「そんなことルールブックのどこに載ってんだよ!!」

2020年10月1日

 F1第10戦ロシアGP決勝は、スタート練習時の違反によってルイス・ハミルトンに10秒のペナルティが科され、いきなり優勝争いから脱落してしまった。そのときのメルセデスとハミルトンの無線のやりとりを振り返る。


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 第10戦ロシアGPは、スタート前のレコノサンスラップで交わされた、あるドライバーとチームの無線を巡って、FIAが審議の対象にしたことで波乱の幕開けとなった。その無線とは、ルイス・ハミルトン(メルセデス)と担当レースエンジニアのボノことピーター・ボニントンの無線だ。


ハミルトン:ここ(みんながスタート練習しているピットレーン出口)はタイヤのラバーが乗りすぎているから、もう少し前に出てもいい?


ボニントン:わかった、いいよ。


ハミルトン:ピットウォールの出口あたりまで、いい?


ボニントン:了解。他のマシンに気をつけてスタート練習してくれ


 レース後、トラックサイド・エンジニアリングディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは、今回このような事態を招いた理由を「あの時ルイスは、もう少し先に行ってもいいかとだけ尋ねた」と言い、ドライバーとチーム側との間のコミュニケーション不足にしている。


 しかし、無線でハミルトンはハッキリと「ピットウォールの出口あたりまで」と語っている。


 すると、ショブリンは「我々にはルイスの1回目のスタート練習は見えなかった」と弁解した。


 しかし、映像がなくとも、それがどこかはだいたいわかりそうなものだ。繰り返すが、ハミルトンは「ピットウォールの出口あたりまで」と語っていたからだ。


 ピットウォールというのは、本コースとピットレーンを分け隔てている壁のことで、通常のサーキットの場合、ピットレーン出口付近までしかない。ところが、ソチ・オートドロームはコースの形状を考慮して、ピットレーンから本コースに合流する地点を1コーナーを過ぎた後に設定しているため、ピットウォールもそこまで100m以上も伸ばされている。


 つまり、「ピットウォールの出口あたりまで」というのは、ちょっと先のことではなく、ピットレーンを出て、少なくとも100m走ったあたりだということは、現場にいるF1チームのスタッフなら、わかっていたはずだ。しかも、マシンにはGPSが搭載されている。


 にもかかわらず、ショブリンは「そして2度目に見た時に思った。彼ら(スチュワード)はよくは思わないだろうと」と言い、チーム側がハミルトンが2回目のスタート練習に対して、なんの注意も行っていなかったことを認めた。


 さらにショブリンはこう続ける。
「だが、そのことが危険だとは思わなかった」


 しかし、ハミルトンがスタート練習していた場所はマシンが全開で本コースに合流する直前の場所で、時速約200kmで走行している場所。危険だと思わないほうがどうかしている。


 こうしたチーム側の判断ミスの結果、ハミルトンは10秒ペナルティを科せられることになる。気になるのは、ペナルティを科せられたのは7周目だったが、それをハミルトンに無線で伝えたのが10周目だったことだ。3周の間、何をメルセデス陣営はためらっていたのか。


ボニントン:ルイス、スタートに関する違反で10秒のタイムペナルティを科せられた


ハミルトン:なんで?


ボニントン:…………


ハミルトン:なんでだって、聞いてんだよ?


ボニントン:ゴメン、ルイス。う〜ん、なんというか、そうだな、正しい位置でスタート練習しなかったことでの違反だ。それで5秒のペナルティを2回喰らってしまった


ハミルトン:*******


ハミルトン:そんなことルールブックのどこに載ってんだよ!!

■チームとハミルトンはレース戦略でも食い違い

 チームに確認して問題ないと言われたのに、ペナルティを受けたことで、ハミルトンの怒りはFIAだけでなく、チームにもその矛先が向けられていく。ピットインのタイミングが近くとハミルトンはこう無線で伝える。


ハミルトン:僕を早めにピットインさせないで、絶対に!!


 ハミルトンによれば、ソフトタイヤでスタートしていたため、当初のピットストップのタイミングは16周目だったが、セーフティカーが6周入ったことで20周目以降あたりまで延ばせると考えていたという。しかし、メルセデスはハミルトンを16周目にピットインさせた。

2020年F1第10戦ドイツGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2020年F1第10戦ドイツGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)


ハミルトン:馬鹿馬鹿しい


 さらに「早くピットインさせたないで」とお願いしたにもかかわらず、16周目にピットインさせたチームに対しても怒りをぶつける。


ハミルトン:なんでレース後に10秒加算しなかったの?


メルセデス:タイヤ交換時にやらなければならなかった。とにかく、いまはレースに集中して


ハミルトン:ポジションは?


メルセデス:P11


 10秒加算のペナルティを受けたとき、ハミルトンは「そんなことルールブックのどこに載ってんだよ!!」と言っていたが、5秒や10秒のタイムペナルティはピットストップ時に同時に消化しなければならないと書かれている。レース後に加算できるのは、ペナルティを受けた後にピットストップを行う予定がないときだけだ。


 つまり、ペナルティを受けた時点でピットストップを1度も行っていなかったハミルトンがピットストップ時にタイムペナルティを消化しなければならないこともまた、ルールブック、スポーティングレギュレーションの第38条3項に、明記されている。


 チーム側の対応の悪さとハミルトンがルールブックを把握していなかったため、両者の信頼関係は大きく崩れ、まだレース折り返し点前の24周目には状況はさらに悪化していく。


ハミルトン:早めにピットインしすぎだよ。たぶん、レース終盤にタイヤで苦しむことになるよ


ボニントン:フェルスタッペンは39.9秒だから


ハミルトン:ボノ、もう何も聞きたくないよ。何をやっても変わらないから


ボニントン:わかった、ルイス。しばらく会話はしないでおく


 ハミルトンがこれまで何度も素晴らしいドライビングで優勝をもぎ取ってきたことは間違いない。しかし、ハミルトンでさえ、ミスしたことは数え切れないほどある。そのときチームはハミルトンに最善策を講じ、絶妙の戦略で難局を乗り切ってきたものだ。今回、チーム側にミスがあったことは確かだ。だが、そのミスを責めるだけでは、ハミルトンに次の勝利のチャンスは訪れない。



(Masahiro Owari)


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