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「無意味」発言の意図。アルボンとガスリーの再交代がない理由はメンタリティの違いか

2020年9月30日

「最後の12周は行けるかなというか、行ってくれという思いでしたね。ここまできたら表彰台を獲ってくれ。そういう思いで見てました」


 アレクサンダー・アルボンが、待望の3位表彰台に上がった。昨シーズン中盤にピエール・ガスリーと入れ替わる形でレッドブル・ホンダに昇格して以来、2年越し18戦目のキャリア初表彰台だった。レース終盤のダニエル・リカルドとの攻防を見守った田辺豊治テクニカルディレクター(TD)は、そのときのいてもたってもいられない思いを、上述のように語っていた。


 ホンダにしてみれば、前戦モンツァに続いてのパワーユニットトラブルで、スタート直後にマックス・フェルスタッペンを失っている。トラブルの原因はこの時点では依然不明で、アルボンにも同じ不具合が起きる恐れもあった。それだけに文字どおり、祈るような思いだっただろう。


 田辺TDだけでなくレッドブルスタッフの全員も、同じ思いで戦況を見つめていたはずだ。そしてアルボンは彼らの期待に充分に応えた。この週末のアルボンは、スタートを立て続けに失敗していた。2度目の再スタートでもセルジオ・ペレスに1コーナーまでにあっさり先行され、5番手に後退してしまう。


 しかし、これで逆に「胸に火がついた」とアルボンはレース後語っている。3コーナー立ち上がりでアウト側から並ぶと、サイド・バイ・サイドから豪快に抜き返していった。


 3番手リカルドとの差は、この時点で1.5秒。だが勢いに乗るアルボンはあっという間にDRS圏内まで差を詰め、51周目のターン1でブレーキングをギリギリまで遅らせ、抜き去っていった。

F1第9戦トスカーナGPでダニエル・リカルドを抜き去り、3位表彰台を獲得したアレクサンダー・アルボン。
F1第9戦トスカーナGPでダニエル・リカルドを抜き去り、3位表彰台を獲得したアレクサンダー・アルボン。


 アルボンにとっては、待ちに待った表彰台だった。昨年8月のレッドブル移籍後は、初戦ベルギーGPでいきなり5位入賞を果たしたのを皮切りに、コンスタントに上位入賞を続けた。


 何より思い切りのいいオーバーテイクで順位を上げていくレースが多く、その部分でピエール・ガスリーに不満を感じることの多かったヘルムート・マルコ博士らを喜ばせた。終盤ブラジルGPでは表彰台をほぼ手中にしながら、ハミルトンにぶつけられて涙を呑んでいる。


 ところが、今季は持ち前のアグレッシブなドライビングがすっかり影を潜めてしまった。フェルスタッペンでさえ手こずるRB16のリヤの不安定さが、一番の理由だったことは間違いない。


 しかし、8月のイギリスGP前後からマシンの挙動が改善され、フェルスタッペンが2位表彰台や今季初優勝を勝ち獲っていったのと対照的に、アルボンは6位や8位が精いっぱいだった。


 予選一発の不振はさらに深刻で、レーシングポイントやマクラーレンの後塵を拝することが常態化していた。「フェルスタッペンはチームメイトの援護を受けられず、ひとりで戦っているに等しい」という声が上がり始めた。そして前戦イタリアGPは15位に終わり、ドライバーズ選手権も6位まで後退。


 ガスリーが奇跡の初優勝を遂げたのは、まさにそのイタリアGPだった。それまでもレッドブルよりはるかに戦闘力の劣るアルファタウリを駆り、中団グループの超接戦の戦いを勝ち抜いて、何度も予選トップ10の速さを披露。レースでも入賞を続け、ついに表彰台の真ん中に立った。低迷の続くアルボンと再度交代すべき、という声が出たのは当然と言えた。


 しかしクリスチャン・ホーナー代表は「再交代は無意味であり、ドライバーを入れ替えるよう我々からプッシュすることはない」と、イタリアGP直後の時点で明言している。もちろん、この発言が本音である保証はない。これまでのレッドブルの冷徹ともいえるドライバーへの仕打ちを見れば、なおさらである。


 だが僕の見る限り、彼らはガスリーを再びレッドブルに上げる気はないと思う。理由は単純で、フェルスタッペンの助けにならないし、ガスリーも真価を発揮できないからだ。


 ガスリーは多くのレーシングドライバーがそうであるように、お山の大将である。典型的なナンバー1体質と言ってもいい。自分が一番と心底思えて、初めて本来の実力を発揮できる。対照的にアルボンは、そこまで自己主張が強くない。「オレが、オレが」のフランス人と、控えめなタイ人のメンタリティの違いもある程度はあるかもしれない(半分はイギリス人だが)。


 いずれにしてもドライバーの人事権を握るヘルムート・マルコ博士を始めとしたレッドブル上層部も、じつはそこをよく分かっているのではないか。


 したがってアルボンがよほどの不調を続け、ナンバー2の役割を果たせないと判断するまでは、切るつもりはなかったと思う。今回のアルボンの3位表彰台と、何よりバトルで発揮されるアグレッシブなドライビングが復活したことに、彼らはかなり胸を撫で下ろしているはずである。


 折しもホーナー代表は、「アルファタウリとは今後、対等な姉妹関係を目指す」と発言した。車体の共同開発の領域を増やし、レッドブルと互角に戦えるまでチーム力を向上させたいという。そこでガスリーが活躍してくれれば、彼らとしては不満はない。しかしその実現は、順調に行っても4〜5年はかかりそうだ。はたしてガスリーが、そこまで待てるだろうか。



(Kunio Shibata)


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