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F1 Topic:【近年稀に見る2戦連続の赤旗中断であらためて考える規則の形】赤旗中のタイヤ交換によるメリットとデメリット

2020年9月18日

 第8戦イタリアGPと第9戦トスカーナGPでは、2戦連続で赤旗中断が提示される珍しい展開となった。近年のF1で赤旗が提示されるのは年に一度か二度あるか、ないかだろう。それゆえ、赤旗中断中の作業と赤旗後のレース再開方法については見ている側にも混乱が生じてしまう可能性がある。
 
 そこで、今後のレースで赤旗が出された場合に、混乱することなく、レースが楽しめるよう、赤旗にまつわるふたつの手順について解説していきたい。


 まず、最初は「いつから赤旗中断中にタイヤ交換が許されるようになったのか?」だ。


 これはかなり以前からスポーティングレギュレーション第41条4項に「車両が一旦赤旗ライン後方に停止したならば、またはピットに入ったならば作業を行うことができるが、この場合の作業がレースの再開の妨げとなってはならない」と記されている。


 ただし、ドライ路面でのレース中のタイヤ交換義務は2007年から開始され、赤旗によって、そのことが表面化したのは2011年のモナコGPが最初だった。このとき、各チームのチームマネージャーがFIAに「作業を行うことができる」項目のなかにタイヤが含まれていることを確認。


 これより、消耗したタイヤに苦しんでいたトップを走行していたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)がタイヤ交換することができ、フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)、ジェンソン・バトン(マクラーレン)を抑えて、そのまま逃げ切りに成功した。


 3位に終わったバトンが「赤旗が提示されたあと、すべてのチームが新しいタイヤに交換したため、僕のアドバンテージはなくなってしまった」と唇を噛んだが、2位のアロンソは「終盤にはベッテルを攻めていたのに、赤旗が提示されて、終わった。残念だけど、こういったことは起こり得ること」と受け入れていた。


 一方で、レース終盤のドラマを期待していたファンからは疑問の声が挙がった。またF1へのタイヤ供給を始めたばかりのピレリのポール・ヘンベリー(当時モータースポーツ部門ディレクター)も「このレギュレーションは見直されるべき」と語っていたが、その後もレギュレーションが改訂されることはなかった。


 その理由としては、安全性を第一に考えているからだろう。赤旗が出される状況では、コース上にデブリが散乱していることが考えられ、それを踏んだタイヤやデブリに当たって損傷したパーツは交換して当然という考えがあるのではないか。


 第8戦のイタリアGPではデブリはほとんどコース上に出ていなかったが、第9戦トスカーナGPの一度目の赤旗では、リスタート時のマルチクラッシュにより、ホームストレート上に大量のデブリが散乱していた。タイヤを交換せずにレースを再開していたら、リスタート後のレースで最高速の出るストレートでバースト、大クラッシュを喫するマシンが出ていたかもしれない。


 2017年のアゼルバイジャンGPでも今回のトスカーナGPと同じようにコース上に多くのデブリが散乱していて赤旗が提示されたことがある。このとき、タイヤ交換に対して不満を言うドライバーはいなかった。

2020年F1第9戦トスカーナGP クラッシュしたケビン・マグヌッセン(ハース)とカルロス・サインツJr.(マクラーレン)
2020年F1第9戦トスカーナGP クラッシュしたケビン・マグヌッセン(ハース)とカルロス・サインツJr.(マクラーレン)

■赤旗中断中のタイヤ交換可能ルールの必要性と安全性

 逆にこのとき問題になったのは、すでにレースを終えていたはずのドライバーが赤旗中断によって修理してレースを再開させたことだった。ただし、レギュレーションではその作業は定められた場所(コースうえまたはピットレーン)となっていたため、ガレージで修復作業したのちにレースを再開させたキミ・ライコネン(フェラーリ)とセルジオ・ペレス(フォース・インディア)にはペナルティが与えられた。


 さて、第8戦イタリアGPでは赤旗中断中にランス・ストロール(レーシングポイント)がタイヤ交換義務を赤旗中断中に消化したことに対して、ランド・ノリス(マクラーレン)が不満を語っていた。その気持ちは分かる。


 もし、赤旗中断中のタイヤ交換義務の消化が認めなければ、ストロールはレース再開後にもう一度ピットストップしなければならなず、ノリスが代わって表彰台に上がっていたかもしれないからだ。


 ただし、レースというのは多かれ少なかれ、起きたアクシデントによって、有利になることもあれば、不利を被ることもある。しかも、この第8戦ように、ドライコンディションでひとりだけがタイヤ交換をしていない状況で赤旗が出るというケースは、非常に稀で、そういう場合を想定してまでレギュレーションを変更する必要性はないように思える。


 レギュレーションというのは、公平性が重要であることが重要だ。もし、ノリスの主張を認め、赤旗中にタイヤ交換義務を認めないとなれば、ほかのドライバーたちもタイヤ交換は禁止にしなければならない。


 そうなれば、傷ついたタイヤを履いてレースを再開するドライバーも出てきて、さらなるアクシデントが発生する可能性もある。そう考えれば、この赤旗中断中にタイヤ交換を許可し、それによって2種類の交換義務のなかに入ることを認めることも、致し方ないところだろう。


 そもそも、レースを終えてから、レギュレーションに文句を言っても仕方がない。レギュレーションに不満があれば、それに異議を唱える権利は参加者にはある。そして、その主張にFIAと全チームが同意すれば、変更することはできる。ノリスとマクラーレンが今後、どのような主張を行うのか注目したい。



(Masahiro Owari)


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