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【中野信治のF1分析第6戦】レッドブル・ホンダの現在地。フェルスタッペンにベッテル、無線で見える個性と心境

2020年8月22日

 7月から始まった2020年のF1シーズン。王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのか。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督、さらにはF1中継の解説を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第6戦スペインGPでは前回優勝を飾ったレッドブル・ホンダの真価の確認とともに、今年、特にクローズアップされてきた無線について、最近の傾向とF1チームでの背景を中野氏が解説する。


  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 前回2連戦のシルバーストンでは第4戦と第5戦でタイヤのコンパウンドが違って内圧の設定も変わるなどタイヤ関係でいろいろあったなか、第4戦で圧倒的だったメルセデスを第5戦ではレッドブルが上回るような形になりました。今回のF1第6戦スペインGP、まずはその2回のシルバーストンでのメルセデスのスピード、レッドブルのスピード、いったいどれが本当なんだというところを見てみたいと思っていました。


 そしてスペインGPを終えての感想としては、やはりメルセデスが強かったというのが僕の結論です。今回使用されたタイヤが固いコンパウンドだったというのがあると思いますけど、やはりスペインくらいタイヤへの入力が高いサーキットであれば、メルセデスはタイヤに対しての負荷のかかり方が優しい部分がアドバンテージになったのかなと思います。


 一方、前回の第5戦のシルバーストンですごくタイヤに優しそうに見えたレッドブルが今回は意外にキツそうだったので、コンパウンドの違い、そしてコースレイアウトによって向き不向きというのがこんなにチーム間で別れてくるのだなというのが、改めて「なるほど」と理解できましたね。


 今回のレースではスタートが大きなポイントになりましたね。3番手のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が2番手に上がって、5番グリッドのランス・ストロール(レーシングポイント)が絶妙なスタートで一気に3番手まで順位を上げましたよね。スタートの動きだしの善し悪しはドライバーの反応と多少クルマのセットアップの影響がありますし、スペインGPのカタロニア・サーキットは1コーナーまでが長いのでパワーユニット(PU)の性能も結構関係していたと思います。


 ストロールのスタートを見ていると反応が完璧にドンピシャだったので、ああいうスタートも何回かに1回はあるとは思います。あとは最近の流れを見ていると、スタートシグナルのブラックアウトの最後のランプが消えるタイミングが早めなので、ストロールはそこに上手く合わせ込んできましたよね。


 レースで目にとまった部分としては今回、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)がいい走りをしましたし、やはりフェルスタッペンの走りも秀逸でした。そしてルイス・ハミルトン(メルセデス)のタイヤマネジメントも抜群で、これでもかというくらい前半はペースを落としてタイヤをセーブして、最後までポジションを守りました。


 バルテリ・ボッタス(メルセデス)はスタートでポジションを落としてしまって、オーバーテイクするのにタイヤを使ってしまいましたので、チームメイトのハミルトンとは大きな差がついてしまいましたよね。


 盤石に見えるメルセデスですけど今回、ハミルトンがあれだけの強さで勝てた理由には、レッドブルに敗れた前回のシルバーストンから学んで、今回のスペインでどうすれば確実に勝てるのかとことをきっちり調べ尽くして実行に移したことですよね。クルマが速いだけでなく、ウイークポイントをすぐに修正してくる。そこがメルセデスとハミルトンのすごいなところだなと思いましたね。


 フェルスタッペンの走りもあの難しいクルマを最後まであのテンションで予選のようにコントロールして走り続けるというのは、チームメイトのアレクサンダー・アルボンとの差を見ていても一目瞭然ですけど、なかなか真似はできないことです。レース終盤には2番手でタイヤをキープして、追いかけてくる3番手のボッタスを諦めさせるくらいの走りでした。本当にハミルトンとフェルスタッペンに関してはちょっと違うレベルに行っているという印象です。


 あと、今回のスペインGPだけではないですが最近は無線もオープンに出してくれるので面白いですよね。今回のレースではタイヤマネジメントやピット戦略が重要になったこともあって、ドライバーやチーム側の心理や葛藤、レース中の感情のぶつかり合いが生で伝わってくるので、見てる側にはとても興味深いですよね。


 もともと、モータースポーツは見ている側にとってはドライバーやチームが何をしているのかがわかりにくいところがあるので、無線を通してチームやドライバーが「我々がこう感じてるんだ、こう考えてるんだ」と手にとるように見えてくるので、やはりF1は見せ方が上手いなと思います。


 今回の無線でも分かるように、ドライバーにとって無線の相手であるエンジニアはすごく大事な存在です。ドライバーにとってはエンジニアと相性が良くないといけないですし、信頼関係ができていないと良い結果は残せません。お互いがお互いに命を預けている相手なので、関係次第でいい結果を生み出せる/生み出せないが別れてきます。


 もちろん、レースは相手とのコンペティションがあって展開が早いスポーツなので、ドライバーにもエンジニアにもミスはあります。外から見てると「こうすればいいじゃん」と思うこともありますが、実際に現場のあの場所に立っていろんな状況見ながらやっていると、一見当たり前に見える答えでも当たり前ではなくなってくるんですよね。


 そういった意味でも、日本で言えば“阿吽の呼吸”みたいなものでしょうか、そういうのが生まれていないと結構難しいものがありますね。阿吽の呼吸がイコールで信頼関係なんですけど、そこがいかに大事で重要か。そこが合わないとドライバーが精神的に安定しなくなりますし、ドライビングにも乱れが出て安定しなくなります。ドライバーとエンジニアは役割が別々に見えるのですが、結果的に一体なんですよね。


 今回の中継のときにフェルスタッペンのエンジニアが素晴らしいと話しましたが、彼、ジャンピエロ・ランビアーゼはフェルスタッペンの性格を熟知していて、どうしたらフェルスタッペンから言葉を引き出せるかという引き出し方、そして話かけ方が絶妙なんですね。


 DAZNなどの中継では一部分しか無線の声は出てこないのですが、去年ベルギーGPとスペインGPに行った際、レッドブルのガレージに入れてもらって無線を全部聞かせてもらったのですが、セッション中だけでなくセッションが終わった後もエンジニアの伝え方が実に上手かったのを覚えています。


 フェルスタッペンって実は結構、言葉足らずみたいなところがあるので、だから無線ではエキサイトしちゃうんですよね。チーム側としては「計算上、ここで頑張らないと後半の勝負キツくなる」「今ピットに入るとアウトラップでトラフィックに引っかかる」といった計算がエンジニアにはあります。


 でも今回のフェルスタッペンは「タイヤが終わっているよ」と繰り返して早くピットに入りたくて、エンジニアの提案にも「コース上で抜けばいじゃん」って何度も無線で訴えていましたよね。


 もちろん、その考えも一理ありますが、何よりドライバーとエンジニアがああいった会話があるのが僕はいいと思うんですよ。フェルスタッペンのエンジニアもそういう無線に対して冷静に「繰り返してもらわなくて大丈夫だ、マックス」と、短いセンテンスでパパッと返していました。


 頭のいいエンジニアは、いなし方が上手いというか、どうしてもドライバーはあのスピードのなかでマシンを走らせ続けていて、ずっと冷静に走らせることはできなくてエキサイトするものですが、エンジニアもそれはわかっているので、軽く、上手くいなす術を知ってますよね。


 フェルスタッペンとエンジニアがいい関係だなと思う一方、今のフェラーリを象徴するようにベッテルとエンジニアの無線はなんだかちぐはぐしていました。

F1第6戦スペインGPのセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
レース中の無線でチームからの戦略変更に驚きながら、ミッションをコンプリートさせたベッテル


■変化のきっかけにしたいベッテルの無線。ボッタスのユーモアな無線にみる、レース中のリラックス効果


 ベッテルが「どれくらいのペースで走ればいい?」と聞いているのに、しばらく立ってから「このタイヤで最後まで行けるか?」とエンジニアが突然の戦略変更を伝えてきて、ベッテルが「ハハ! さっきこっちから聞いたよね?」と話していましたが、ドライバー心理的には同情してしまいますね(苦笑)。『だったらスティントの始めからそうやってペースを組み立てたのに』『早く言ってくれよ』と言いたくなります。


 今回のレースはピットタイミングが結構分かれて、いくつかの戦略が考えられる展開だったのでドライバー側としてはペース配分をどれくらいにすればいいのかわかりずらかったと思います。だからこそ、チームとのコミュニケーションは重要で、どういう作戦がほしいかなどなど、お互い考えてることを知っておきたい。


 それでも無線ではちぐはぐな感じでしたけど、今回のベッテルは最後まですごくいい粘りの走りを見せてくれて、最後の方では「僕たちは失うものがないからやってみよう」と、逆にベッテルは吹っ切れた感じがありましたね。あの『ハハ!』のひと言で、ベッテルにとって今回がいいきっかけになればいいなと思います。


 悪くなったら悪くなったでしょうがない。ベッテルにとってはある意味ノープレッシャーですよね。それがよかったのか、最近のプレッシャーを感じ続けていたベッテルには見られないような力強い走りを見せていました。ベッテルはプレッシャーが大きくなると乱れるタイプのドライバーでもあるので、今回はスランプというか、苦しんでるところから抜け出すためのヒントがあったのかなという風に見えました。


 あと、今回の無線ではボッタスが「クルマが黒いので暑いよ」とか話していましたよね(苦笑)。最近、そういうユーモア、普通は言わないよねということを結構ドライバーが自由に言い始めてますよね。前回のレースでもフェルスタッペンがチームに無線で「水分を取って、きちんと手を消毒しておいてね」と話していたり、ちょっとそういうユーモアがトレンドになってきてますね(笑)。


 でも、その無線の背景には、自分自身のマインドコントロールのためにチームを気遣うような軽口を叩くみたいな、ふと気が抜けた言葉を話すことで自分自身をリラックスさせるという効果を生み出しているのだと思いますね。


 人間、やはり集中してしまうといろんなことが目に入らなくなるので、集中していくと呼吸の回数がどんどん減ってきますよね。呼吸の回数が減ると脳に酸素が回らなくなって判断力が鈍ってくる。それをリラックスさせることで、見えてない部分に目がいくようになるとか、そういったテクニックというものが僕はあると思います。普通の会社員のミーティングでもひと言、馬鹿なことをわざと言って周りを盛り上げることで、自分自身が盛り上がってと、ドライバーに限らずそういう人はいますよね。


 今回注目されたドライバーとエンジニアの無線のやりとりですが、ヨーロッパでの無線の仕方は、基本は日本のレースでも同じです。F1では空力担当や戦略担当、タイヤ担当などそれぞれ何人かエンジニアがいるなかで、チーフエンジニアがすべてをまとめて無線を担当しています。


 日本でもトラックエンジニアの他にデータエンジニアとかサポートエンジニアがいる形なので、システムは非常に似てますね。ただ、ヨーロッパのエンジニアの方が無線で話す量は圧倒的に多いです。日本でもエンジニアにもよりますが、基本はあまり話さないですね。ですので、日本のドライバーは走っている時にそこまで話されることに慣れていないと思います。


 F1でも僕の頃はそこまで多くはなかったですが、最近、特に無線でのやりとりは多くなったと感じています。去年も無線を聞いてエンジニアが話しっぱなしでびっくりしたのを覚えています。「前にクルマが何秒先にいて、今はどれだけ我慢して」とか全部細かく伝えていましたね。


 それが今は当たり前になってるので、昔ならドライバーが「うるさい!」ってなったかもしれないですけど(苦笑)、今はドライバーもいい意味で聞き流しながら、情報として聞き入れて理解して、聞いた情報を自分のなかで組み立ててペースや走り方を工夫している。チームもそういうつもりで情報を伝えていると思います。


 ですので、今のドライバーはそういった頭での理解がなければ勝てません。ハミルトンの成長を見ればわかりますけど、本当に変わりましたからね。頭が良くなったという言い方は変ですが、“頭の使い方”が以前とは別人ですよね。彼はおそらくトレーナーから“コーチングしてもらって、自分自身で頭の使い方を変化させていって今はほぼ完成させつつありますよね。メンタル面がいかに重要なのかというのを証明していると思います。


 日本ではそういったメンタル面をまだそこまで重要視していないというか、「自分でやればいい」みたいな個人の役割になっていますよね。でも極限のところで戦っているスポーツですし、特に世界に出ていくためには、僕はサポート体制は絶対に必要になると思います。そのメンタル面での強化を上手くやれたら、それまで強かったドライバーがさらに強くなれる。ハミルトンはそのいい例ですね。


 さて、次はベルギーGPですが、レッドブル・ホンダにとっては、ちょっと厳しい戦いになるかもしれませんね。メルセデスもレーシングポイントも速いでしょうし、そのメルセデスPU勢を相手にレッドブルがどのような関係になるのか。ダウンフォースが少なくなるサーキットなので、ローダウンフォースのクルマでどういう動きをメルセデス、レッドブルが見せるのかが興味深いです。


 今季まだローダウンフォースのサーキットでは走っていませんから、新しいタイプのサーキットという意味では変化があるかもしれないので結構、面白くなるのかなと思います。普通に考えればメルセデスがPU面で若干リードしている感じなので、そこで若干ダウンフォースを付けることができる強さもありますが、特性が違うサーキットでは走り出してみるまで意外に分からない可能性もあると思います。


<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年スーパーGT Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督
Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの中野信治監督



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)


レース

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5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム94
6位BWTアルピーヌF1チーム65
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