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“冬の王者”フェラーリは精彩を欠く。FIAとの“合意”でアドバンテージ喪失との見方も/2020F1合同テスト総括(3)

2020年3月7日

 スペイン・バルセロナで行われた2回のプレシーズンテストを終え、いよいよ開幕まで秒読み段階に入った2020年のF1。計6日間のプレシーズンテストでは各チームの勢力図もおぼろげながら見えてきた。今回はシリーズに参戦する10チームからテストで気になったチームを複数ピックアップし、テストの結果を踏まえながらシーズンの展望を予測する。連載第3回は2019年シーズンに“最強”とも呼べるパワーユニットを投じたフェラーリだ。


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 1年前とは、まさしく正反対の状況だ。前年型のフェラーリは開幕前の新車テストで好タイムを連発。ロングランでも強力なペースを刻み、“冬の王者”と称された。


 しかし、王座争いの大本命として臨んだシーズンではメルセデスの逆襲にあい、レッドブルのマックス・フェルスタッペンにも後れをとって開幕戦から表彰台も外すスタートとなってしまう。


 第2戦のバーレーンではシャルル・ルクレールがレース終盤までリードする力走を見せたものの、パワーユニット(PU)のトラブルに見舞われて、無念の涙を飲む。


 この時点では開幕前の下馬評の高さもあって「すぐにでも勝てるさ」と楽観視する状況にあったが、実際に1勝目を手にしたのはシーズンがもう第13戦となってからだ。反撃としては遅すぎ、選手権争いの大勢はすでにメルセデスに決していた。


 つまり冬の王者となることは実際のシーズンには何の意味も成さないわけで、チーム代表のマッティア・ビノットは「われわれは(新車)テストへの取り組み方を変えた」としている。


 それにしても、だ。新車『SF1000』はこのオフシーズンの間、一度も輝きは放たなかった。特にテスト前半3日間の日程では、タイムは中団をうろうろしていた。


 この際に指摘されたのが、ペースが冴えないということだけでなく、最高速の遅さだ。前年型はタイヤの温度維持に課題を抱え、それで選手権争いの権利を手放したようなものだが、極めて優れたトップスピードの高さを有していた。


 この利点を失うことなく、ダウンフォース量を増すなどしてタイヤの課題を克服する、それがエンジニア出身のビノットが述べた新車発表時の開発コンセプトだ。


 メルセデスも同様だが、SF1000の外観に前年型からの大きな変更はなく、リヤ周りのコンパクト化が開発の主眼となっている。そのためにPU関連のレイアウトが見直され、ギヤボックス設計も一新された。


 こうしたリヤ周りの変更が、さほど最高速に影響をおよぼすとは考えられない。またよほどダウンフォースが増量してそれが高ドラッグ化を生んでいるとするなら、コーナリングスピードにきっちりと反映される。だが、ラップタイムの分析からは、そうした事象も出てこない。


 そして次にささやかれ始めたのが、フェラーリのPUには最強を誇った前年型ほどのアドバンテージがないとの説だ。折も折、冬のテストを終了するとまるでタイミングを図っていたかのように、FIA(国際自動車連盟)が前年型PUにかかっていた“疑惑”についてフェラーリとの当事者間合意を発表、その内容は明かさないとした。


 燃料流量に何らかの“トリック”があったとの疑惑だが、合意内容が明かされないことでひとつの推測も浮上する。つまり、不正はあったが過去は不問とし、今年からは取り締まるとのニュアンスだ。これがフェラーリPUのパフォーマンス低下につながっているのではないか――。


 真実はともあれ、最終となる2回目テストでもフェラーリがタイムシートのトップに立ったのは、2日目セバスチャン・ベッテルのみ。


 この日のベッテルは担当最後の日で予選シミュレーションとなるパフォーマンスランに臨んだはずだが、前日夜通しの雨でライン上のラバーが洗い流されたコンディションを考慮しても、2番目に軟らかいピレリ“C4”を履いての1分16秒841は翌最終日に同じタイヤスペックでフェルスタッペンにコンマ6秒近くも更新されている。

シャルル・ルクレールのドライブするフェラーリSF1000
シャルル・ルクレールのドライブするフェラーリSF1000


 同最終日のルクレールは1分16秒360で、約コンマ1秒の遅れだ。F1の世界において“コンマ1秒”は決して少ない差ではない。


「テストへの取り組みを変えた」。この言葉の真意は何を表すのか。フェラーリは今オフ、ただ爪を隠しただけなのか、それとも……。

シャルル・ルクレールのドライブするフェラーリSF1000
シャルル・ルクレールのドライブするフェラーリSF1000



(Shin Yasui)


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