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F1技術解説レビュー メルセデス:オフシーズンテストから積極的にアップデート。酷暑レース以外で驚異的な強さを発揮

2020年1月9日

 メルセデスの2019年型マシンW10は外見からも想像できるように、2014年から続く技術哲学を継承したものだった。その間にライバルたちの多くがコンセプトを変えて行く中、彼らは頑固にこれまでの路線を踏襲した。


 たとえば、サイドポンツーンである。2017年にフェラーリが先べんをつけた、サイドポンツーンの位置を高くする手法は、瞬く間にほぼ全チームがマネをした。しかしメルセデスは古典的な方法にこだわり、ただし開口部はさらに狭くして行った。ホイールベースも長いままだし、多くのマシンがレッドブル式にレーキ角を大きく付けても、彼らのマシンは地面とほぼ平行のままだった。


 一方で注目すべきは、ドラッグが大きくなるのは覚悟の上で、最大限のダウンフォースの発生を目指したことだ。その結果2019年型のW10は、低中速コーナーで無敵の速さを発揮した。対照的にストレートでは、(少なくともフェラーリと比較すれば)最高速で劣ることになった。


●オフシーズンから、まさかのアップデート


 絶え間ない改良を重ねなければ、F1の世界ではあっという間に王座から転落してしまう。にしてもメルセデスが早くもシーズン開幕から、W10に変更を加えたのには驚かされた。バルセロナウィンターテスト第1週では、フェラーリが圧倒的な速さを見せた。この時期のラップタイムは必ずしも、マシンの実力を正確に反映しない。


 しかしメルセデスはこの事実を深刻に受け止め、第2週にはまったく違う仕様を投入した。ノーズはより丸みを帯び、内側に湾曲していたフロントウイング翼端板も、逆に外側に曲がっていた(赤、黄矢印参照)。さらにバージボードやフロアの形状も見直され、サイドポンツーンやエンジンカウルはアグレッシブに絞られたことで、車体のシルエットは一新された。


 開幕戦オーストラリアGP後もメルセデスはアップデートの手を緩めず、第3戦中国GP、続いて第4戦アゼルバイジャンでフロントウイング自体にも改良を加えた。こうして開幕から連勝を続ける中、W10は第5戦スペインGPでさらに大きな変身を遂げた。


 フロントウイングのエレメントは、付け根部分の湾曲が浅くなり、新たに切り欠きが設けられた(青、黄矢印参照)。フロントタイヤが起こす乱流を外側に逃がす、いわゆるアウトウォッシュの効果をいっそう高める工夫だった。

メルセデスW10:ウイングレットの新旧
メルセデスW10:ウイングレットの新旧


 この部分の変更は、当然ながら車体後方への空気の流れに影響を及ぼす。そのためバージボードのウイングレットも2枚から3枚に増やされ、形状もより複雑になった(黄、赤色矢印参照)。これら空力パーツの区分化は、小さな渦流(ボーテックス)を起こすことが目的だった。ドラッグも増えるが、メルセデスの空力専門家たちはそれ以上にダウンフォース増大を重視したのだ。


 シーズンのその後の展開は、彼らの目論見が正しかったことを証明した。フェラーリの自滅もあったとはいえ、スペイン以降のメルセデスは5戦中4戦を制することになる。


●冷却の問題は、最初から覚悟していた!


 第9戦オーストリアGPは高い標高に加え、例外的な酷暑にも苦しめられた。しかしW10の冷却性能に問題があることは、すでに冬のテストの段階からメルセデスのエンジニアたちは承知していた。設計段階での計算ミスによって、必要以上にラジエターの容量が小さかったのである。そしてそのミスはサーキットで実走するまで、明らかにならなかった。


 しかしケガの功名というべきか、冷却があまり重要ではないサーキットでのメルセデスは、とんでもない強さを発揮した。一方で第2戦バーレーンGPやオーストリアGPなど、暑い開催地での週末は戦闘力が一気に落ちた。当初は空気の流量を増やす工夫をしていた開発陣だったが、最後にはラジエター自体の容量を大きくする必要に迫られた。

 その仕様が投入されたのが、第11戦ドイツGPだった。ここではサイドポンツーンの形状変化だけでなく、さらなるダウンフォース獲得のためにフロントウイングにも改良が加えられた。フェラーリやアルファロメオほどではないが、ウイングの翼端をかなり下げてきたのである。

 しかしその後のメルセデスは、期待したような大幅な性能向上は果たせなかった。夏休み明け以降、フェラーリが完全復活して勝利を重ねても、第17戦日本GPまで大きなアップデートは見送られたのである。「2020年以降の開発を優先させる」というのが、トト・ウォルフ代表の公式コメントだった。


 とはいえ鈴鹿に投入された大幅アップデートは、ホッケンハイムからの順調な進化を伺わせた。フロントウイング翼端板、前輪のブレーキダクト、サイドポンツーン周辺、そしてバージボードと、変更は多岐にわたった。そして終盤5戦中4勝と、王者の強さを見せつけた。


 下記表でも明らかなように、メルセデスW10はシーズンを通じて最速だった。もちろんタイトル独占には、車体だけでなくパワーユニット(PU/エンジン)も大きく貢献した。ただし2019年シーズンのメルセデス製PUは、かつてのような予選での絶対的な速さは影を潜めた。しかしその代わりレースでは、ライバルたちをはるかにしのぐアグレッシブな使い方が可能だった。これは高い信頼性もさることながら、燃費マネージメントの巧みさに負うところが大きいと考えられる。

各チームのマシン最速マシンからの平均速度差1周(80秒換算)辺りの差
1メルセデスW10+0.17%+0.13秒
2フェラーリSF90+0.33%+0.25秒
3レッドブル・ホンダRB15+0.65%+0.49秒
4マクラーレンMCL34+1.66%+1.24秒
5ルノーRS19+1.91%+1.43秒
6ハースVF-19+2.13%+1.59秒
7トロロッソ・ホンダSTR14+2.15%+1.61秒
8アルファロメオC38+2.21%+1.66秒
9レーシングポイントRP19+2.38%+1.78秒
10ウイリアムズFW42+4.3%+3.22秒

・メルセデスW10、2019年シーズン中のアップデート一覧
1)第2戦バーレーンGP=リヤウイング
2)第3戦中国GP、第4戦アゼルバイジャンGP=フロント、リヤウイング
3)第5戦スペインGP=フロントウイング、バージボード、バージパネル、リヤビューミラー
4)第7戦カナダGP=パワーユニット
5)第11戦ドイツGP=フロントウイング、前輪ブレーキダクト、バージボード、サイドポンツーン周りのデフレクター、フロア、リヤウイング
6)第12戦ハンガリーGP=パワーユニット
7)第14戦イタリアGP=リヤウイング
8)第15戦シンガポールGP=アンチダイブダンパー
9)第17戦日本GP=フロントウイング、フロントブレーキ、バージパネル、サイドポンツーン周りのデフレクター、バージボード
10)第21戦アブダビGP=フロントウイング



この記事は f1i.com 提供の情報をもとに作成しています



(翻訳・まとめ:Kunio Shibata)


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