6度目のタイトル獲得は、決して簡単なものではなかったとルイス・ハミルトンは言った。外から見れば順調に映った2019年シーズン。しかし人生論を交えながら「いつも見た目どおりってわけじゃない」と、説明した。
「シーズンが開幕する時には、自分たちは(ライバルに対して)遅れていると感じていた。そしてシーズン半ばには本当に遅れていて、シーズン後半は大きなチャレンジになった。フェラーリやレッドブルが強くなったことを歓迎しながらも、チームとして、最も厳しいシーズン後半を戦ったと思う。
精神面でも、ニキ(ラウダ)を失ったショックは大きかった。僕がこのチームに来たのはニキのおかげだし、彼を失ったことの打撃は自分自身で想像できなかったほど大きなものだった。今も、彼の不在が辛くてたまらない。このチームに来るよう彼が電話をくれた時のこと、マクラーレンのギヤボックスが壊れた(2012年の)シンガポール、彼とホテルで話したこと……いろいろ思い出しては、ニキのことがこんな大好きだったんだと痛感する。チームの中枢となる人間だったから、チームが受けた衝撃も大きかった。
そして、スパで若手ドライバーが命を落とした時、僕はテレビ映像でその様子を見ていた。ああいう経験をすると“そろそろ引き時じゃないか”“いや、続けるべきだ”って考えが頭のなかで交錯する。この間のメキシコには“ボノ”(ピーター・ボニントン)が来られなかった。マーカス(ダドリー)は素晴らしい仕事をしてくれたけど、簡単な状況ではなかったよ。
シーズンは毎年、違った様相を見せるし、僕らは毎年ローラーコースターに乗ったように浮き沈みを経験する。でも今シーズンは僕にとってもチームにとっても、エモーショナルな意味でも、決して容易なシーズンじゃなかった」
そんな、乱れそうになる心を抱えながら、ドライバーとしてはこれまでで最高の力を発揮できたと感じている。“予選ではおそらく昨年ほど華やかなポールポジションを得てはいなかったと思う”。でも、安定していた。そして今年の本当の強みは、タイヤを労わって走る技──これまでも、タイヤをうまく管理することはできていた。しかし、そういう走り方ができる“クルマを仕上げる”という点に関しては、毎年、進歩を続けてきた結果、“今シーズンが最高の出来”と言えるレベルに到達した。
XPB Images
他より早いタイヤ交換でアンダーカットを成功させたメキシコGPに続いて、アメリカGPもそんなハミルトンの進化を証明するグランプリになった。
アメリカGPで5番手という不本意な結果に終わった予選は、久しぶりに経験した『最悪』のもの。単純に、1ラップをきれいにまとめることができなかった。それでも必要以上に落ちこまない、勝利を諦めない姿勢が今日のハミルトンの強さを築いている──精神力やドライビング技術だけでなく、いくつもの成功体験によって構築されてきた強さだ。だから“一緒に築いてきた”ボノの存在が、こんなに大切なのだ。