ホンダがパワーユニットを供給しているレッドブル、トロロッソの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レースごとに、週末のレッドブル、トロロッソのコース内外の活躍を批評します。2019年F1第3戦中国GPを甘口の視点でジャッジ。
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2019年シーズンが開幕して、3戦目にして初めて、ホンダはパワーユニット(PU/エンジン)にトラブルを発生させた。中国GPの初日のフリー走行1回目を終えて、ピットインしたダニール・クビアトのパワーユニットのセンサーにデータ的な異常が発見されたのだ。
トラブル自体は決して褒められるものではない。しかし、過去4年間、ホンダが起こしてきたさまざまなトラブルと比較すると、中国GPのトラブルはこれまでとは大きく異なっていた。
まず、ホンダのスタッフが非常に落ち着いて仕事をしていたことだ。中国GPのフリー走行1回目が終了した後、サーキットではFIAによる金曜会見が開かれていた。その会見にホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターが出席していた。田辺TDによれば、「私は記者会見に出ていたので、会見が終わったときにスタッフから『交換することにしました』という連絡を受けました」と言う。
つまり、パワーユニット交換を最終的に判断したのはトロロッソ側のチーフエンジニアを務める本橋正充だったと考えられる。今年からホンダはトロロッソだけでなく、レッドブルにもパワーユニットを供給するようになり、現場スタッフの数が約2倍に増えた。しかも、その頂点に立つ田辺TDはFIAの会見に出席しなければならない。しかし、ホンダの2チーム体制はしっかりと機能していた。
それはフリー走行2回目が始まって45分間、クビアトがガレージにとどまることになっても、田辺TDはレッドブルのガレージを離れることがなかったことでもわかる。
「今年はレッドブルと初めて組むので、『流れをつかむまでは、私はレッドブル側にいる』ということは、トロロッソ側にも伝えています。トロロッソからは『去年と同じ席を用意している』とは言われていて、トロロッソ側に何かあったから、私はいつでも行けますが、だからといって、必ずトロロッソへ行くというわけではありません」と田辺TDは語る。
2チーム体制はしっかりと機能していたことは、センサー異常を早期に発見したことにも表れている。クビアトは「まったく気がつかなかった」と言っていることから、発見したのはホンダのデータエンジニアだったと思われる。もし、このデータエンジニアがデータ異常を見逃していたら、トラブルはフリー走行2回目が開始された直後に発生していたかもしれない。そうなると、クビアトのフリー走行2回目は90分間、無駄になっていた。
「フリー走行2回目が始まって45分間走行できなかったことは、大変申し訳なかったのですが、トラブルが1回目のセッションの終了間際に発見されたことは、不幸中の幸いだったかもしれません」(田辺TD)
さらにパワーユニットに深刻なダメージを与えずに止めたことで、ダメージがなぜ発生したのかを探る手がかりが残され、原因究明に大きく役立てられる。
苦境に立たされているときこそ、その人の真価が問われるという言葉がある。5年目のホンダは、その部分でも大きく成長していた。
(Masahiro Owari)