トロロッソ・ホンダの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レースごとに、週末のトロロッソ・ホンダのコース内外の活躍を批評します。F1第18戦アメリカGP、F1第19戦メキシコGPを、甘口の視点でジャッジ。
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F1第17戦日本GPの後に行われたアメリカGP&メキシコGPの北米2連戦。この2レースにホンダは、日本GPとは異なるパワーユニット(PU/エンジン)を投入してきた。理由は日本GPで使用されたピエール・ガスリーのエンジンが、「スペック3で問題となっていたオシレーション(共振)を出さないようなセッティングで使った結果、想定していたよりもダメージが大きく、今後のレースで使えないレベルに達していたためだ」(田辺豊治F1テクニカルディレクター)。
さらにそのアメリカGPで使用したガスリーのパワーユニットは、組み立て品質上の懸念が栃木県のホンダ技術研究所であるHRD Sakuraで確認されたため、ブラジルGPとアブダビGP用に、メキシコGPのフリー走行1回目で再び新品のパワーユニットを使用することとなった。
スペック3に発生した相次ぐトラブルや不具合。これはホンダの技術力に不完全な部分が残っている証左である。ただし、技術の開発とは、トライ・アンド・エラーの連続である。スペック3で発生しているさまざまな問題は、メルセデスやフェラーリに追いつくためには通らなければならない試練だったのではないか。
アメリカGP後に再び不具合が発見されたスペック3に対して、「投入が時期尚早だったのでないか?」と質問された田辺TDは、こう答えた。
「キャリブレーション(セッティングの調整)に関していえば、正直、そうかもしれない。でも、(スペック3投入そのものが)時期尚早だったとは簡単に言えない。なぜなら、もしこれ(スペック3)を温存して、来年出していたら、いまと同じことを来年やっていたかもしれなかったわけですから」
スペック3で遭遇した主な問題は、オシレーションだ。ホンダは新しいスペックを実戦投入する前、HRD Sakuraのギヤボックス付きのベンチでオシレーションを確認してからグランプリに投入する。これは、スペック3に限らず、ほかのパワーユニットも同様で、スペック1とスペック2では問題になる挙動は出ていなかったが、最新のスペックではそれが出た。どんなにシミュレーション技術が発達しても、100%実戦と同様のテストを行うことは不可能だ。今回、ホンダが遭遇した問題は、そのひとつだった。
問題が出ている状況に関して、田辺TDは「アマチュアだと言われても仕方がない」と自戒したが、この経験によって、ホンダの技術力がいままで経験していなかったステージに上がったことは間違いない。
「エンジンをギヤボックス付きのダイナモのテストするという車両シミュレーションでの確認方法において、まだ見切れていなかったところがあったのかもしれない。またひとつ学びました」(田辺TD)
トラブルによって技術は一時停滞するが、それは新たな前進を開始するきっかけにもなる。そのことを感じさせた2連戦だった。
(Masahiro Owari)