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毒舌パドック裏話 オーストラリアGP編:冗談が飛び交う会見中も真顔なライコネン

2018年4月1日

 ちょっと毒舌なF1ジャーナリストがお届けするF1の裏話。開幕戦オーストラリアGP編です。

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 いよいよ新学期の始まりだ。2018年のF1シーズンは、オーストラリアGPで幕を開けた。だが、以前に見たことのある映画を、もう一度見ているような感じは拭えない。

 予選ではルイス・ハミルトンが最速だったが、シーズン最初のレースはピットストップで首位に躍り出たセバスチャン・ベッテルが優勝をさらった。確か去年もそんな感じではなかったか……?

 ハミルトンとベッテルのバトルは、スタートよりもずっと前から始まっていた。土曜の予選後の記者会見で、彼らは嫌味と当てこすりの言い合いに終始したのだ。ただ、どちらも相手をやり込めようとはせず、舌戦はごくお上品なものにとどまった。

 自身の見事な予選ラップに関して、ハミルトンは「受け合ってもいい。パーティーモードなんてものはないんだ。僕はQ2からQ3の終わりまで、ずっと同じモードを使っていた。ここという時に押す特別なボタンなんてないよ」と語った。

 すると、ベッテルは「だったら、それまでは何をしてたわけ?」とたずねる。

 これにハミルトンは、「最後の最後にガッカリさせてやろうと思って、いいラップを決めるタイミングを見計らっていたのさ」と応じた。

 現場では、にわかに緊張感が高まるかに思えたが、ドライバーといえども大企業様のご機嫌を損ねるわけにはいかないこのご時世に、これ以上彼らをエキサイトさせることはできなかった。そして、ひとりのオーストラリア人ジャーナリストが、何とかいいネタを引き出そうと、ハミルトンのコメントについてベッテルに質問をしようとした矢先に、ルイスは「今の話は冗談だよ」と言ってそれを遮った。

「冗談だろうとは思いましたが、面白いコメントですし、なにせ私はタブロイド紙で働いていましてね。あなたが正直な話をしてくれると、こっちも正直に記事を書けるわけですよ」と、ヘラルド・サン紙所属の記者が答えると、会場にはこの日一番の大きな笑いが巻き起こった。

 沈黙は金なり。キミ・ライコネンは、これまでに何度となく、私たちにそう教えてくれた。この記者会見でも、彼はハミルトンとベッテルの「冗談」の応酬には一切口を挟まなかった。突然、自分のことが話題になろうともだ。

ベッテル:「(ハミルトンに)今晩はパーティーでも何でもすればいいよ。でも明日は、キミと僕とでパーティーをしようと思っているからね」

ハミルトン:「キミは、いつだってパーティーだと思うけど……」

 そう言って、ルイスはこのジョークへの反応を確かめようと、左側に座っていた男の方を見た。だが、ライコネンは、ただじっと天井を凝視していた。降りしきる雪か、さもなければウォッカの幻影でも見ていたのかもしれない。そして、みんながリアクションを待っているのを少しも意に介さず、彼はまっすぐに前を向いたかと思うと、完璧に真顔のまま沈黙を守った。こうして、キミはひと言も発することなく、ハミルトンを大笑いさせたのだ。

■ハロを宣伝材料に
XPB Images

 この記者会見が、多少なりともユーモアを提供してくれたのとは裏腹に、今年のF1における最大の変化と言うべき「ハロ」は、パドックの住人の多くにとって笑いごとではなかった。

 安全性という観点から言えば、このコックピット保護デバイスが、きわめて重要な役割を果すことは理解できる。しかし、そのルックスは耐えがたいほどに醜悪で、F1マシンのセクシーさや見た目の魅力を大きく損なっているからだ。

 だが、チームの広報担当はさすがに切れ者ぞろいで、すぐにハロをメディアにポジティブに取り上げてもらう方法を考えついた。試供品の無料配布である。

 いわばジャーナリストの習性として、私は無料で配られる品物が大好きだ。それは私たちのDNAに書き込まれているような気さえする。オーストラリアGPの週末、フォース・インディアとマクラーレンは、その習性をうまく利用した。

 マクラーレンは、ガンディーズというビーチサンダルのメーカーとのスポンサー契約を結び、ハロをその宣伝に使うことを発表した。ハロの形状が、ビーチサンダルのストラップに似ているという揶揄を逆手に取ったのだ。また、フォース・インディアもハワイアナスというサンダルメーカーと契約したが、メディアのカバーが分散するのを避けるため、彼らは発表を後ろへずらすことを余儀なくされた。

XPB Images
 そこでフォース・インディアは、発表が後手に回ってインパクトが薄れたのを挽回すべく、パドックでハワイアナスのサンダルを無料で配布するという話をメディアに流したのである。すると、負けじとばかりに、マクラーレンも同じ手を打った。グランプリの週末ごとに、2足のビーチサンダルがタダで手に入るのなら、私はよろこんでハロのファンになろうと思う。

 ファンと言えば、リバティ・メディアは若年層の新たなファンを獲得するための努力を続けている。その一環として、彼らはメルボルンのパドックに何人かの「インフルエンサー」を招いていた。インフルエンサーとは、ソーシャルメディア上で人気があり、その意見を聞きたがるフォロワーが大勢いる人物のことだ。

 私はF1に新しいものを持ち込むことについて、否定的な方ではないと思っている。できるだけ多くの、これまでF1を見たことがない人々に、このスポーツを見てもらおうとするのは決して悪いアイデアではない。しかし、ブレンドン・ハートレーと同じ国の出身というつながりだけで、メイクアップの分野のインフルエンサー(この人の女性向けメイクアップのレビューを、何百万という人が見ているそうだ)をパドックに招待したのには、さすがに違和感を覚えずにはいられなかった。私たちのような古い人間が、こうした新しいアプローチに慣れるには、まだしばらく時間がかかるだろう。

 実際のところ、これはもう「以前に見たことのある映画」ではないのかもしれない……。

(Translation:Kenji Mizugaki)

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