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【特別インタビュー】トロロッソ技術責任者ジェームス・キー(1)ホンダとの開発作業、最初のミーティングでの驚き

2018年3月17日

 ホンダにとって新しいパートナーチームとなるトロロッソ。その技術部門のトップでテクニカル・ディレクターを務めるのがジェームス・キーだ。現場レベルでのホンダとの開発作業はどのように進んでいるのか。お互いのアプローチについて聞いた。


──自分たちが手を加えられないパワーユニット/エンジンを搭載するカスタマーチームとしてではなく、ワークスとしてエンジンパートナーと仕事にあたるのは、トロロッソとあなたにとって初めてのことです。プロジェクト全体を進めていくうえで、このことがどれだけの違いを生み出すと思いますか?


「間違いなく大きな違いとなる。カスタマーチームであれば当然エンジンサプライヤーと話し合いをし、相手から得られるものを得る。関係性上、それは普通のことだ。しかし根本的には、マシンに搭載するエンジンを手に入れるだけのことであり、そのエンジンは共通の目標を定めて作られたものではない。真のパートナーと協力して仕事ができるということは、シャシーにパワーユニットを搭載するという作業でベストなアプローチをができるようになるということ。共同での開発、共同で同じ目標に向かうことが可能になる」


「それだけではなく、パワーユニットそのものについても、ホンダが優先するのはどういった部分なのかを分かったうえで、パッケージとして最適な解決策に取り組むことができる。これはカスタマーチームではできないことであり、大きな違いとなる」


「さらにはチームとパワーユニット部門との間で、より多くのデータフローを得られるようになるので、パワーユニットについて必要な情報をホンダから多く受け取れるようになる。彼らもまた、シャシーに関して必要な情報の多くを私たちから得られる。こうした作業をほとんど自由に行うことができるから、設計サイドでも非常に大きな違いが出てくると思う」


「オペレーションの面も同様だ。私たちもホンダも、パーツのダイナモテストができる。そのことがパワーユニットをシャシーに組み込むという過程において、互いに興味深い結果を生み出すだろうし、それぞれにとって利益になる。繰り返しになるが、こうした作業はカスタマーチームでは適切に進めていくことができないので、ホンダとの協力体制によって、カスタマーチームとはかけ離れた状態になっている」

トロロッソ・ホンダ、車体側テクニカルディレクターのジェームス・キー

──テクニカルディレクターとしては夢が叶った状態だと思いますが、このパートナーシップによって、あなたの仕事の仕方がどれほど変わりましたか?


「大きな変化といえば、ホンダと仕事をしていくことによって得られる大きな利益のひとつに、彼らに共同で仕事に臨むという熱意が、私たちと同じだけあるという部分だ。2018年のマシンですべてをカバーするには短い時間では限度があるが、2019年のマシンならば、最初から自分たちの好みやフォーカスしている部分について協議していけるだろう。たとえば空力プロジェクトは、パワーユニットがどう使われるか、どのように搭載されているかという部分に依存するところがあるからね」


「同様に、ホンダにもエンジンの面でどういった方向性を追求したいかという思いが強くあるだろうし、それはシャシーにも影響してくる。これについては非常に早い段階から協議をすることができており、全員を満足させうる解決策にたどり着くことができた。これができれば、カスタマーチームであったときよりも遥かに良い形でパッケージ全体を最適化することができる。そして私たちはすでに、2019年のアプローチがどういったものになるかということについての話し合いも行っているのだ」


「一方で、私たちはホンダの手を借りながら、シャシーの強みであると感じている要素についての追求ができる。つまり、あなたが言ったように、夢が叶ったというところだ。ホンダのおかげで、これまでにやりたいと思っていたことのすべてことに手をつけることができた。そして彼らもまた、同じ見返りを求めることができる」


──トロロッソとホンダは共通のゴールに向かって取り組みを進めています。けれどもシャシーデザイナーは常に空力性能を向上させるために、たとえば可能な限り小さなラジエターを要求したりします。一方でエンジンマニュファクチャラーはエンジンパフォーマンス向上の手助けになるよう、できる限りの冷却性能を求めます。パートナー同士で意見が相反した場合、判断をするうえで決定打となる要素は何ですか?


「可能なときにはデータを優先させるべきだと思っている。私たちが達成したい目標に対しては、知識や経験、そしてわずかな直感が決め手となることもある。それでも結局はホンダのものであろうとトロロッソのものであろうと、得られたデータに目を向けなければならない」


「そしてまた、両者がこのプロジェクトに対して強い願いを持っていることも常に念頭に置かなければならない。ラジエターの例について言えば、空力性能を改善するために、私たちはいつだって最小のラジエターを使用し、エンジンの温度はできるだけ適切な状態にしておきたい。しかし、それがホンダのエンジン部門の妨げになるのであれば、まったく良いことではなくなるだろう」


「だから私たちはすべての課題について話し合いをしなければならない。オープンに話し合い、全体として最高のパッケージを作り上げるために必要な妥協点に取り組むのだ。ケースバイケースの話し合いになるが、深い理解と、データに基づいたやり方になる。この部分に関してはミスコミュニケーションは非常に少なく、すべては可視化されている。私たちはただ賢く判断を下すだけだ」


──最初のミーティングの直後、トロロッソがホンダのリクエストに答えたり全データをシェアしたので、チームが非常にオープンな姿勢であることに日本サイドは驚いたそうです。ホンダもトロロッソに対して、同じようにオープンでしょうか? 


「そうだ。私たちにとって絶対に必要なものすべてを、ホンダは先を見据えたうえでとても多く与えてくれる。透明性が極めて高いし、私たちと同じようにオープンだ。私たちのアプローチに彼らが喜んでくれていることが分かったので、彼らが(トロロッソがオープンだと)言ってくれたことは嬉しいね」


「だけど正直に言うと、私たちがホンダの姿勢に習ったんだ。彼らのエンジンはどの程度の位置にいて、問題だと感じているのはどんな部分で、長期的な目標はどんなことなのかといった部分で、彼らがどれだけオープンで高い透明性を維持しているかを目にした。彼らのその最初のアプローチを受けて、私たちは同じことを返しただけなんだ」


──2000年代初頭、ジョーダンでF1でのキャリアを始めた際に、あなたはすでにホンダと仕事をしたことがありますね。日本人の精神性を理解しつつ、異なるタイムゾーンにいるパートナーの人々と仕事にあたることを、どう捉えていますか?


「そこに言語と文化の違いも付け加えておいてくれ。つまり、どちらにとっても多くの挑戦すべきことがあるわけだが、何かがSTR(スクーデリア・トロロッソ)に問題をもたらしたことはないと信じている。きっとホンダにとっても同じだろう。8時間の時差があるということは、私たちがミーティングや電話会議を早朝に行なっている場合、彼らは夕方に行なっているということになる。違いはそのくらいのものだ。私たちが目を覚ますためにコーヒーを飲んでいるとき、彼らは眠くならないようにコーヒーを飲んでいる(笑)。多くの場合、ミーティングはビデオ会議で行われるので影響は何もないし、時差は大きな問題にはならない」


「言語の違いも問題にならないと思う。トロロッソのスタッフの大多数はイタリア人で、彼らはとても上手く英語を話す。日本での相方であるホンダのスタッフも英語が上手だ。私はイギリス人で英語を話すのに努力しなくてもいいから、とても運が良かったね(笑)。大まかに言って、コミュニケーションはどちらにとっても第二言語である英語で行なわれているが、大きく取り乱すようなことや、間違い、ミスコミュニケーションは生じていない。もしもなにか問題があったとしても、疑問点を打ち出すことにお互い透明性が高いので確実に解決することができる。そうしたことは難しいことではない」


「文化の違いに関しても、正直それほど大きな違いはない。もちろんあるにはあるのだが、理解しがたいようなものではないし、ホンダの取り組み方を尊重しているし、彼らも私たちに対して同じように接してくれる。STRは基本的にはイタリアのチームであり、イタリアのルーツを持っているが、実際にはふたつの国から成り立っている組織だと思っている。私たちはイギリスにも空力設計部門や、製造も可能な拠点を持っているので、もともと、多くの電話会議を通じて、国をまたいで異なる言語を使いながらオペレーションをすることには慣れているのだ。私たちはそのやり方でここまで発展してきたので、同じ方法をホンダに当てはめればいいだけだ。文化の違いは特別難しいことではなかったよ」


第2回につづく



(autosport)


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