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佐藤琢磨の鈴鹿F1原体験 「あの日があったから、今、僕はレースをしている」

2017年7月19日

 1987年に鈴鹿でF1日本GPが開催されてから30年が経った。鈴鹿でF1を観たファンの総勢はいったいどれくらいになるのだろうか。延べで数百万人という単位だろう。初めて生で見たF1のスピード、サウンドと迫力は一生忘れることはないはずだ。


 80年代、90年代、そして2000年以降といつの時代もF1を操るドライバーは、憧れのスターであり、世界最高峰のF1マシンが毎年鈴鹿にやってくるのを楽しみにしているファンも多いだろう。


 今年の5月日本人ドライバーとしてアメリカのインディ500を初制覇した佐藤琢磨も、その原体験は鈴鹿サーキットで初めて見たF1日本GPだった。その琢磨選手に当時の様子をあらためて聞いて見た。


「僕が初めて見たF1が1987年の鈴鹿でした。サーキットも初めてなら、レースを生で見るのも初めて。もう衝撃でしたね。スケールの大きさに驚きました。レーシングカーを見るのも初めてだったし、すべてが想像を超えていましたね。しかも初めて見たのがF1でしたからね(笑)」


「あんなに速く加速していくモノを見たことがなかったし、音も想像以上にすごかったですね。空気が震えてお腹まで響くような、すごい迫力だった。エンジン音もそうだし、ターボの音とか、ギヤチェンジする音とかも聞こえて、初めてのサーキットは臨場感のあるすごい場所でした」


「レースを見終えて鈴鹿から帰る時も、もう一度F1が見たい、またF1が見たいってはしゃぎながら帰ったのを覚えていますよ。またF1が見れるのが待ち遠しくて仕方なかった(笑)」


 初めてのサーキット、初めてのレース、初めてのF1‥10歳の琢磨少年には強烈な印象を残した。

インディ500恒例の勝利のミルクを味わう佐藤琢磨


「初めて見たF1は速い! カッコイイ! 子供ながらにドライバーってすごいなぁ! って思っていました。当時はF1ブームだったから、若い世代のファンが多くて、子供はあんまりいなかったと思うんですよね」


「でも今は世代も変わったし、お爺さんが孫連れてくるような姿もあるし、ヨーロッパのレースのようになってきたと思うんです。家族でF1を見に来て、みんなで同じレースの話で盛り上がれるような。モータースポーツを親子で、家族で楽しめるようになったと思いますね。レースを観戦する目も肥えてレベルが上がったと思いますよ。それは30年前の僕が初めて行った頃にはなかった光景だと思います」


 F1初観戦以降もF1への憧れは尽きることなく、鈴鹿の日本GPに何度も足を運んでいた琢磨少年。


「その後、中学生とか高校生になるとTVとかモータースポーツの雑誌とかでいろんな知識も増えてたし、もうその頃にはかなりいろんな事がわかるようになって、ドライバーによって走行ラインが違うとか、どのチームのマシンの形状がどうとか、見るようになっていましたね。90年、91年は(アイルトン)セナや(ゲルハルト)ベルガーが全盛期だったし。1コーナーでセナとプロストがぶつかったのは、目前で見ていましたからね。鮮明に覚えています」


「もう少し大人になるともう誰かに連れて行ってもらうんじゃなくて、友達と鈴鹿に行くようになっていました。96年、97年くらいかな。ウイリアムズが速くて(デイモン)ヒルと(ジャック)ビルヌーブがチャンピオン争いをしていた頃だと思いますけど、忘れられないですね‥‥」


 87年に琢磨少年が初めて見たF1。それが彼の未来の目標まで大きく影響を与えることになった。


「ここで今、僕がこうしてサーキットでレースをしているという理由が、あの時の原体験だったことに間違いないです。あの日がなかったら、どうなっていたかはわからない。別のきっかけでレースやF1を見ていたかもしれないけど、あの日があったから今、僕がレースをしていると言ってもいいでしょう」


 ひとりの少年の未来を変えるほど、F1との出会いは大きかった。きっと日本のどこかでF1を見た第2、第3の琢磨少年が生まれているだろうし、今もレーシングドライバーを目指して頑張っている少年たちがいるだろう。

1997年に鈴鹿サーキットでのレーシングスクール、SRS-Fを主席で卒業した琢磨。松田次生、金石年弘と同期だった


 琢磨選手はF1見たら、レーシングドライバーになれ! と言っているのではない。サーキットでレースやF1を見れば、初めてでも迫力や楽しさもわかるだろうし、もし子供達が何かを感じて、大きな希望や夢を持ってもらえればこんなに嬉しいことはない。世界中のチームや人たちが鈴鹿に集い、F1というレースを目の前で見せてくれる。その楽しさを子供たちにも感じで欲しいのだ。


 そして今年も秋になればまたF1がやってくる。その見どころを琢磨選手に聞いて見た。


「昔に比べたら、音が少し静かになっちゃかもしれないけど、タイヤも大きくなって迫力もあるし、コーナーのスピードが上がるから今年のF1は楽しみですね。たとえばDRSが付いていて、1コーナーに入るスピードも上がるし2コーナー〜S字まですごく速くなると思うんですよね。F1の凄さがわかると思います」


「期待のマクラーレン・ホンダ。鈴鹿では今年一番のパフォーマンスを見せてほしいですね。まだ結果には繋がってないかもしれないけど、速さは時折見せているし、鈴鹿には期待値も上がりますからね。そろそろいいところを見たいです。カッコイイ走りを期待していますよ。インディ500でチームメイトだったフェルナンド・アロンソも楽しみですね。彼の走りはもう何も疑うことはないですからね。インディで久々に彼と走ったけど、さすがだなと思ったし、彼がF1で走っているところを見たら、今度は僕にも乗せてよ!って思うのかな?(笑)」


 F1と一緒に琢磨選手も今年の鈴鹿にやってくる。彼が今年のF1をどう見るか? 30年前のF1に対する思いとどう変わっているのか。今年の鈴鹿でのF1日本GPが楽しみだ。

インディの現場で子どもたちにサインする琢磨。『Takuma Kids Kart Challenge』など、子どもたちとのイベントを自ら主催している。



(AUTOSPORTweb)


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