トップでチェッカーフラッグを受けた後は、ヘルメットのなかでクスクスと笑いが止まらなかったという。波乱のレースを制したダニエル・リカルドは、パルクフェルメにマシンを止めるとひときわ大きな笑顔でチームのもとに走り寄った。
予選Q3でクラッシュ。10番グリッドからスタートしたレースでは、序盤にデブリを拾って緊急ピットに入らなくてはならなかった。6周目の順位は17番手──。そこから挽回して勝利に到達するまで、多くの幸運が働いたことは事実。でも、一番の鍵は、不運を幸運へと“変換”していったエンジニアとドライバーの冷静な思考、ドライバーの落ち着き、リカルドが好んで口にする「レースクラフト」の質の高さだった。
「絶対に諦めず、ノーミスのレースを走って、現れたチャンスはすべてものにしていくこと」
予選の落胆の後、リカルドは日曜日のレースにこんな目標を掲げた。2016年は奇跡的に波乱が起こらなかったバクーの市街地コース。しかし、今シーズンのマシンではフリー走行からクラッシュやコースオフが続出──集団で接近して走るレースでは、リスクがさらに高まることは明らかだった。
スタート直後、他のマシンが落としたパーツが右フロントのブレーキダクトを塞いでしまったのは不運。5周終了時点のピットインでは、スーパーソフトからソフトへの交換とデブリの排除、ダクトのチェックのために5.5秒が必要だった。
しかし17番手からひとつずつポジションを上げて行った後、12周目にセーフティカーが出動したところから、リカルドのレースの流れが変わった。不運を幸運に変えたのは、不利なソフトのままステイアウトせず、13周目にスーパーソフトに交換した判断だ。
前の10台がスーパーソフト→ソフトと履き替えたなかで、リカルドは逆にソフトからスーパーソフトに戻すことが可能だった。ウォームアップの難しいコースで、再スタートのたびにポジションアップした理由のひとつだ。
そしてセーフティカーは、コースのあちこちに散乱したデブリと再スタートのたびに起こる接触によって、22周目の赤旗中断に至るまで一度も完全なグリーンラップを挟むことなく、アウト/インを繰り返した。
16周終了時点の再スタートでは、コントロールラインに達する前にケビン・マグヌッセンをパスして9番手。19周終了時点の再スタートではニコ・ヒュルケンベルグを抜いて8番手。
フォース・インディア2台の接触と、その破片を拾ったキミ・ライコネンが後退したことによって、リカルドは赤旗中断時点で5番手までポジションを上げていた。
そして他のどのオーバーテイクより迫力に満ちていたのは、1周のセーフティカー先導の後、23周目の──これが最後となった──リスタート。
中断時点でのポジションは3番手フェリペ・マッサ、4番手ランス・ストロール、5番手リカルド、6番手ヒュルケンベルグ。