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【2016年F1分析】ロズベルグの“早すぎる”引退の功罪(1)F1と本人が被るダメージ
2016年12月29日
ニコ・ロズベルグは、F1タイトルを手にしてチャンピオンとなった日からわずか5日後に、「マシンを降りる」ことを発表した。状況はだいぶ落ち着きを取り戻したが、果たしてこれは正しいタイミングでの決断だったのだろうか? 英AUTOSPORTの編集者スコット・ミッチェルが考察する。
■意見は分かれるが、誰もが落胆しているのは確か
F1ドライバーは「ロックスター」であってはならないという掟があるとすれば、これをニコ・ロズベルグに伝え忘れた者がいたに違いない。1週間のうちにチャンピオンとなり、表彰セレモニーのタイミングで引退するというロズベルグのやり方は、まったくもって「イカして」いた。
ロズベルグの引き際は完璧だった。チャンピオンを獲得し、頂点のまま引退を決定。カート時代からずっと優勢だったライバルのルイス・ハミルトンを破り、逆襲の機会を与えないという究極のオチまでつけた。偉業達成の後にはヨーロッパ中の授賞式に参加し、お別れツアーを敢行。賞賛に次ぐ賞賛を受けながら、気取らない人気者という印象を得ることにも成功している。
ロズベルグの決断については、意見がまっぷたつに分かれている。理解を示す者もいるが、2017年シーズンも最高レベルのマシンでトップを戦えることがわかっていながらの引退に、納得しない者もいる。後者の意見はもっともだし、ロズベルグの決定を支持している者でも、いくらかは落胆しているだろう。ここ3年間の、重要人物がいなくなってしまうのだ。
ハミルトン、ロズベルグ間の私的なライバル関係は、1チーム独占状態となっている現在のF1に光をもたらした。2002年、2004年、2011年、2013年などいくつかのシーズンを席巻したフェラーリやレッドブルのように、メルセデスもまたマシンのアドバンテージを享受していた。しかし、タイトル争いでふたりのドライバーの間に緊張が生じたことが、状況を大きく揺るがした。ドライバー同士のライバル関係が、新しく魅力的な要素となったのだ。
■チャンピオン不在がF1全体に与えるダメージ
ロズベルグはようやく、ハミルトンに打ち勝った。だが、彼は単にラッキーなチャンピオンだったのだろうか? レーシングドライバーとしての、最後の一歩を踏み出していただろうか? このタイトル獲得が、2017年にハミルトンと1対1でチャンピオン争いをするうえでの、大きなプレッシャーになったのではないのか? ハミルトンは、自身の努力が無価値になったかのような衝撃的な敗北に、どう反応するのだろうか?
これらの質問に対する決定的な答えは、我々には出せない。そしてF1ファンたちは、まさしく不服に思うだろう。とりわけ、メルセデスがふたりのエースドライバーをコントロールできないという弱点を、隠す機会を得てしまったことに。
新世代のシルバーアローは、もしかしたら過去3年間に走ったマシンと同等の能力を持っているかもしれない。もしメルセデスが、これまでと同様にターボ・ハイブリッド時代においての優勢を保ち、万が一ハミルトンが明確なナンバー2を引き連れて走ることになれば、F1はセバスチャン・ベッテルやミハエル・シューマッハーレベルの独走を見ることになるだろう。これは例え1シーズンか2シーズンに限るものだったとしても、F1の健全性にとって良いものではない。F1は人々の声に、耳を傾けるべきだ。
チャンピオンの不在は、F1界全体にとっての損失となる。特に2016年末で、F1の看板役だったジェンソン・バトンがレギュラードライバーの座から降り、長い経歴と人気を誇ったフェリペ・マッサも引退する(かもしれない)ため、宣伝効果的な観点でも良いとは言えない。厳密に言えばドイツ人として認識されていなかったかもしれないが、ドイツ人チャンピオンが退き、2017年にはドイツGPも再度のカレンダー落ちを免れず、F1は大打撃を受けている。
■ロズベルグ自身が失ったものも大きい
しかしそういったことは、ロズベルグの問題ではない。結局のところ、彼はF1に何の借りもない。もしあるとしても、3年間にわたるタイトル争いを演じ、最終的にトップに躍り出たことで役割は果たしている。1チーム独占状態の時代において、ロズベルグはハミルトンの連勝を阻止した。批評家たちは、この事態に感謝すべきである。
まずロズベルグには、代わりがいる。F1はスーパースターを失ったわけではない。ロズベルグはメルセデスが成長するうえで重要な役割を果たしはしたが、すべてが彼を中心として築き上げられたわけではない。一度きりのチャンピオンは、歴史的な記録を残してもいない。さらに言えば、現実的にいまは2017年のメルセデスのシートを得ることができないすべてのドライバーが、2018年のこのシートを狙って争うことになるかもしれない。それが、次のストーブリーグをさらに魅力的なものにするだろう。
もちろん、ロズベルグはF1にスパイスを効かせようとして引退したのではない。彼は彼自身と、まだ年若い家族のために決断をした。本当に勇気のいる決定だったことだろう。ほんの数カ月前の7月、ロズベルグはメルセデスとの契約を2018年末まで延長している。つまりは今後2年間に渡って得られるであろう利益に、背を向けたことになる。メルセデスの提示する基本給が変わらなかったとしても、タイトル獲得によってスポンサーからの収入は間違いなく上がっていたはずだ。
いちドライバーの立場として考えた場合、さらに重要なのは、ロズベルグはもう二度とF1のタイトルをかけて戦うことはできないということだ。懸命に努力を重ねて、目指す位置にようやくたどり着いたドライバーに、それは苦痛を与えることになるだろう。ロズベルグがハミルトンを倒すために、毎戦全力を尽くしてきた15カ月間のことだけを言っているのではない。この結果は子供の頃から目指し続けてきたものであり、彼はF1で成功を収めるために20年以上にわたってレースに打ち込んできたのだ。
ロズベルグは、後になって退屈するかもしれない。リタイア後の彼の人生は長い。グランプリでのレースが彼のすべてであったことを考えると、喪失感を覚えるだろうことは、想像に難くない。人生をかけての目標を達成し、本人が言うところの「山の頂上」にたどり着いたいま、一体どこへ行こうとしているのだろうか?
(パート2に続く)
(Translation:Akane Kofuji)
この記事は国内独占契約により英 AUTOSPORT.com 提供の情報をもとに作成しています
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