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今宮純のF1決勝インプレッション:互いの決戦意識が激突。王座争うふたりの“メンタル・バトル”

2016年11月1日

 メキシコだけに“スパイシー”な後味が残るレースだった。タイトルマッチGPともなると直接争う者だけでなく、それぞれの決戦意識が強まる。昨年以上の13万人大観衆がぎっしり詰めかけ、彼らの熱気がまた決戦空間を作り出していた。


 ロケット点火、PPルイス・ハミルトンはほんの一瞬間は出遅れたかに見えたが、クリーンなラインを加速。徐々に内側に進路をとり、約800mダッシュ競争で先頭を守った。1コーナーまでが最も長く、最も高速な300キロオーバーからのビッグ・ブレーキング。以前行われていたときも必ずと言っていいくらい、危うい場面が起きている。冷えたブレーキでいきなりフル・ブレーキングになるからだ。


「やってしまったな、ハミルトン!」。1コーナーまでは西岡アナのリードでと打ち合わせがあり、絶叫はつつしみ実況描写がうまい彼に任せる。激しいロックアップ、曲がりきれず芝に逃げ2コーナーに先頭のまま戻ったリーダー。「これでいいの?」。審議対象にはならず、他からのアピール無線もOAされない。さらにニコ・ロズベルグとマックス・フェルスタッペンも絡まり、これも危うかった。「おーっと、逃げたハミルトンと避けたロズベルグ、大勝負がかかっている二人ギリギリのコントロールだあッ」(と古館さんなら叫んだかも・多謝)。


 その先4コーナーまでの間も決まって何か起こるのが「ロドリゲス兄弟サーキット」。ロマン・グロージャン、マーカス・エリクソン、パスカル・ウェーレインが多重接触、この日たった1台のリタイアがマノー。VSCからSCへ、急展開するなか6番手ダニエル・リカルドがピットへ。1分足らずの間の決断にこのチームの“瞬発力”を感じた。それにしてもハミルトンのフラットスポットはどうか。きっと振動に襲われ、彼のハートも震えているに違いない。でもペースは落ちない。10周目には2位ロズベルグを3秒以上離していく。もしもまたロックアップしたら地獄に落ちるのに、この序盤ピンチをカバーした彼のドライビングに渾身の技が見てとれた。


 2位ロズベルグに追いこむ気配がないのはなぜだろう。勝負師の選択として彼はアメリカGPでも先を見越し、序盤から“勝負”に出てこなかった。けして消極的ではなく、落ち着いて構える今年のニコ、追わずとも振動によってミスするかも、先に早くニューセット・タイヤに換えるのは必至だ。焦って動こうとはしないロズベルグ。


「失うものはないから追うハミルトン有利」とよく言われる。そうだろうか。3連覇4冠めざしここまで迫ってきた彼に失うものがないはずはない。もちろん10年目の絶対好機にプレッシャーがのしかかるロズベルグも同じ最終局面。僕は二人とも等しく、今年を失ったら一生後悔すると思えてならない。かつてない3年目続きのチームメイト対決には、サイド・バイ・サイドがあまりなくても今の二人“メンタル・バトル”に激突性が見てとれる。


 連続PP&ウィンのハミルトン、連続P2&2位のロズベルグで終わったメキシコGP。ハミルトンは“年間最多勝”をめざし、合計ポイントの優劣よりも『最速王』でいいと割り切りつつあるのかもしれない。次戦ブラジルGPは未勝利の場だが、プロスト抜き“52勝”=インテルラゴス初勝利めがけ、メンタルをピークにもっていくだろう。


 一方19点リードのロズベルグはブラジルGP2連勝中。ミックス複合コーナーが続くここで持ち味を発揮してきた。ただ彼はウェット状態、濡れ乾きコンディションでは苦戦することがある。勝てば戴冠となる19点差でも「五分五分」、メンタル的にはサイド・バイ・サイドのまま11月スーパーファイナルに臨むことになる。


 最後に数々あった審議対象の案件について。今回ドライバー出身スチュワードのD・サリバン氏は、83年ティレルでモナコGP5位、85年INDY500ウイナーのアメリカン。その前に国内レースに参加、当時取材した印象としてはとても温厚でレース一筋のジェントルマンだった。最近この役割を務めているがD・ワーイック氏のような極端な判定はしいない。そのサリバン氏とオーストラリア人とスペイン人と地元4者によるジャッジの結果、公式順位はひっくりかえった。


 3位ベッテル10秒ペナルティ降格で5位に、オーストラリアのリカルドが4位から3位に、オランダのフェルスタッペンは5位降格。辛い後味にイタリア人とドイツのベッテルは怒り心頭、でもレース中とはいえ競技運営責任者に“侮辱発言”はいかがなものか。他のプロスポーツであれば“一発レッドカード”、出場停止処分にもなる。こう言うのは残念だが、「今のフェラーリはとびきり辛いスパゲッティが絡まってのど越しが悪い」。スタディアム“空表彰台3位”はやや興ざめの後味に……。



(Text:Jun Imamiya)


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