長谷川祐介エンジニアがF1プロジェクトの総責任者となった2016年シーズン。開幕戦からすべてのグランプリで週末に行われた会見で、もっとも厳しい表情だったのが、今年の日本GPのレース後だった。じつは、そのことが今回鈴鹿でホンダが得た最大の収穫だったのではないだろうか。
日本GPでマクラーレン・ホンダが苦戦を強いられた理由は、パワーユニットの性能だけでなく、クルマのパフォーマンスにも問題があった。じつはその問題は以前からドライバーが指摘していたことである。しかし、フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンという2人の元チャンピオンたちは、その欠点を自らのドライビングで乗り越え、覆い隠してきた。最近のレースではシンガポールGPとマレーシアGPでの好成績は、アロンソのスタートダッシュの良さにかなり助けられた結果だった。
そのアロンソが鈴鹿ではスタートでポジションを上げることができなかった。加えて、日本GPではハードを必ず1回はレースで使用しなければならないというルールがあったため、ピットストップ戦略でアドバンテージを得ることもなく16位に終わった。
要するに、今回の日本GPのマクラーレン・ホンダの結果は、ドライバーの腕やピットストップ戦略に関係なく、クルマの実力がそのまま反映された結果だった。それが空力的にもパワーユニット的にも厳しい鈴鹿だったことで、マクラーレン・ホンダの弱点が浮き彫りとなったわけである。
だからこそ、良かったのである。
ホンダを応援していたファンは、表彰台は無理だったとしてもポイントを取る走りを期待していたことと思う。それが見られなかったことは本当に残念。長谷川祐介総責任者も「これほど多くのファンが応援に来てくれたのに、このような結果に終わってしまったことは、本当に残念でなりません」と語った。
しかし、もし鈴鹿のレースでもラッキーなことがあって、もしポイントを獲得していたら、マクラーレンもホンダも、あそこまで深刻に現実を受け止めていただろうか。そして、そのような状況には来年、大きく飛躍することはできないのである。
鈴鹿で直面した課題とは、予選でコーナーが連続するセクター1が遅く、レースではルノーやザウバーをストレートで抜けないという問題だった。簡単に言えば、マクラーレン・ホンダのマシンはコーナーで遅く、ストレートで抜けないということで、これはレーシングカーにとって、致命的な欠点である。
「課題が明らかになりました。そして、この時期に課題が明らかになったことが良かった」とレース後、長谷川祐介総責任者が語った言葉こそ、日本GPの最大の収穫だったと思う。
長谷川総責任者に、レース後のチームの雰囲気がどうだったのかを尋ねると「こんな感じです」と、自身と同じようにスタッフ全員が落ち込んでいたことをほのめかした。そして、レース後のミーティングでは「クルマの課題が明らかになったとチーム側が言っていた」ことも明かし、「強いて言えば、それが良かったことです」とも語った。
昨年、「GP2エンジン」と叫んだアロンソは、今年はレース後にこう言って、サーキットを後にした。
「僕らはファクトリーに戻り、何が起きていたのかを分析し、この落胆から立ち直ってみせる」
ホンダにとって、復帰後2度目の母国グランプリは、昨年とはまた違った苦い経験となった。その悔しさを忘れてはならない。
(Text:Masahiro Owari)