前半戦を締めくくるF1ドイツGP、マクラーレン・ホンダは2台そろって入賞を果たすことはできなかった。ジェンソン・バトンはタイヤと燃費の問題を抱えながらも、8位入賞。しかし、フェルナンド・アロンソは最終盤にポジションを落とす苦しい展開となった。無線での言葉から、ドライバーとチームの戦いを振り返る。
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「もう1台は苦しんでいないの?」
「同じ状況だ」
「トリッキーな展開になりそうだ。2台ともレースが無茶苦茶になりかねないよ」
レース終盤の56周目、ジェンソン・バトンはレースエンジニアのトム・スタラードに向かって無線で訴えた。そう訴えるほど状況が切迫していたのは、バトンが二重苦に苦しんでいたからだ。
ひとつはタイヤ。予想よりもデグラデーションの進行が速かったのだ。
「リヤのグリップが、あちこちで昨日と較べてプアだし、アンダーステアだ」
予選前のフリー走行3回目で不満を訴えていたバトンは、その後ブレーキにパーツが噛み込んで走れなくなり、ぶっつけ本番のアタックをすることになった予選では
12位に終わった。
もうひとつの問題は、燃費だった。
「今日はタイヤをいたわることに集中して走ったよ。特にリヤタイヤはキツかった。予想以上にデグラデーションが大きかったからね。燃費セーブも、かなりやらなければならなかった。最後の10周は厳しかったね。常にステアリング上のダッシュボードを見ながら、どれだけ燃料をセーブしなければならないのかを確認して走っていたんだ」
ドイツGPから無線交信が解禁された代わりに、ミュートボタンは廃止され、すべての会話が中継に流れてしまう可能性があった。だから、マクラーレンは燃費に苦しんでいることを他チームに悟られないよう、ドライバーたちに直接的な伝え方をするのを避けていた。
「相当無線でやりとりしていましたけど、エリック(ブーリエ)が『それは言うな』とか言ってる場面もありましたね。『燃費が足りないならターゲットタイムで言えば良いのか?』とか言っていました。『何%足りない』とか『ここでリフトオフしろ』とか言わないようにしてライバルに燃費が厳しいことを悟られないようにしたかったんでしょう」と、長谷川祐介ホンダF1総責任者は振り返る。
バトンは、なんとかタイヤと燃費をマネージメントして、65周目に2ストップ作戦でタイヤがタレきったバルテリ・ボッタスを捕えた。
「ジェンソン、前のボッタスはプライム(ソフトタイヤ)で31周走っている」
「OK、行きそうだよ!」
これで8位入賞を果たしたバトンとは対照的に、序盤にバトンを抜こうとプッシュしていたフェルナンド・アロンソは終盤に燃費が、かなり苦しくなっていた。
アロンソはQ2でセバスチャン・ベッテルに邪魔されて最後のアタックをフイにして、予選14位に沈んでいた。
「フェラーリの1台が前にいて大きくタイムロスした」
「ああ、ベッテルが何をやっていたのか、わからないよ」
実は金曜のフリー走行1回目でも低速走行のベッテルに邪魔される場面があり、アロンソは「フェラーリには新しいサーキットが必要だ。こんなふうに、ひとりで走れる場所がね」と、皮肉を込めて無線で報告していた。
アロンソは13番グリッドから、スタートで入賞圏内に上がったものの、1回目のピットストップでポジションを落としてしまう。コース上で順位を上げるしかなくなったアロンソに、チームから無線が飛ぶ。
「(ペレスを抜いて)ナイスジョブだ。次はグティエレス、彼はプライムを履いている」
「OK、心配するな。次のピットストップで、またポジションを失ってもコース上で抜き返せばいいだろ?」
後方からの追い上げを余儀なくされたら、ますます燃費は厳しくなる。愚痴を言いたくなる気持ちも、わからないではなかった。
すべてが噛みあえば中団のトップを争う力があろうとも、混戦のなかで、ひとつでも歯車が狂えば崩れ去りかねない。バトンとアロンソの対照的な結果は、そのことを、はっきりと表していた。
(米家峰起/Text:Mineoki Yoneya)