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【無線ハイライト】何が許されないのか、境界線上にあったロズベルグへの指示

2016年7月13日

 イギリスGPでは今季から規制が厳しくなった無線の交信内容が大きくクローズアップされた。ペナルティ対象となったメルセデスとニコ・ロズベルグのやりとりを、あらためて見てみよう。

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「ギヤボックスにトラブルだ!」

 レースも終盤に差し掛かった47周目、ニコ・ロズベルグの悲痛な叫びが無線で届いた。チームはテレメトリーでデータ上の問題を見つけ、レースエンジニアのトニー・ロスは、すぐさまシステムのリセットを指示した。

「ドライバーデフォルトだ。シャシーデフォルト01を実行してくれ」

 今季からレース中の無線交信の規制が強化され、チームからドライバーに伝えても問題のないメッセージは、かなり限定された。その規制に抵触しないように配慮しながら、ロスはロズベルグに指示を送った。

 ターン16のアプローチで7速にスタックしてシフトダウンできなくなったロズベルグは、ステアリング上のボタンを操作してリセットを実行し、ギヤボックスのスタックを解除した。

 しかし、トラブルを抱えている可能性が高い7速を使えば問題が再発するかもしれない。チームは7速を使わないようロズベルグに重ねて指示を送った。

「7速を使わずに走ってくれ」
「どうやって? スルーしてシフトアップすればいい?」
「そうだ、スルーしてくれ」

 ロズベルグは6速から8速へ、ステアリング裏右側のパドルを2回引いてシフトアップ、それほど大きなタイムロスなく走行を続けることができた。背後にいるマックス・フェルスタッペンにポジションを明け渡すことなく、2位でチェッカーフラッグを受ける。

 だが、チームからの指示が無線規制に抵触しているとして、審議対象となってしまった。

「ロズベルグは無線でのメッセージについて審議中だ」

 その事実は48周目という早い段階でフェルスタッペンに伝えられた。ペナルティの可能性も考慮して、フェルスタッペンも無理な追い上げはしなかった。

「P3だ。ロズベルグの1.3秒後方で、彼は審議対象になっている」

 3位でフィニッシュしたフェルスタッペンには、レッドブルから重ねてポジションアップの可能性が伝えられた。

 レース後、メルセデスのトト・ウォルフは次のように述べ、自分たちの無線交信が合法であることを主張した。

「我々はギヤボックスにトラブルを抱えており、許可されたメッセージのリストにある『致命的なトラブルの兆候がある場合』に該当するため、合法だと考えている。そのまま走行し続ければギヤボックスが壊れ、リタイアにつながる可能性があったのだから」

 ヨーロッパGPではルイス・ハミルトンがパワーユニットのセットアップミスをめぐって混乱を来たしたが、そのとき「アドバイスできない」と返したのは「指示がなくても、壊れず最後まで走り切ることは可能だったから」だ。

 スチュワードもメルセデスの主張を一部は認めており、最初のやりとりについては合法であったと判断している。問題になったのは「7速をスルーしろ」という交信だ。これが「ドライバーは何の支援もなく、ひとりで運転しなければならない」というレギュレーションに抵触したと判断され、10秒加算ペナルティを科せられることになったのだ。

 無線規制については様々な意見が出ているが、今回のメルセデスとロズベルグの無線交信は、まさに「何が許されて何が許されないのか」という境界線にあったというわけだ。今回の裁定によって、その境界線が明確にされたとも言える。

 メルセデスは裁定を不服として控訴の可能性を示唆。裁定から96時間以内に控訴する権利を有していたが、結局は裁定を受け入れ、控訴を中止すると発表した。本件についてFIA国際控訴法廷に判断が委ねられる可能性はなくなったが、メルセデスは「過剰な規制について議論していきたい」と表明しており、ここ数戦その是非も含めてスポットライトが当たっている無線規制について、さらにクリアになるか、なんらかの動きがあるかもしれない。

(米家峰起/Text:Mineoki Yoneya)


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