「今日の僕は、すべてに心を注ぎ込んだ。重く、でも強いハートで戦い抜いた」
チームメイトを讃えながら、リカルドが言った。その気迫は、予選Q1をミディアムタイヤだけでクリアした勇気ある決断にもはっきりと表れていた。
「ジュールが望むのは、きっとこういうレースだと思ったから。僕の戦いかたを好まないライバルもいるかもしれない。でも、これが僕のやりかただ。それにジュールのやりかたでもある。彼が育ってきた段階で、僕は驚くようなレースクラフト、とても印象的な突っ込みを目にしていた。今日のコース上の動きはすべて……僕はインスパイアされて走っていたし、表彰台に上がれたことに感謝しているよ」
ルイス・ハミルトンは自らのミスを認めた。ロズベルグはリカルドを非難した。それでも、勝利を狙って攻めていったやりかたに「後悔はまったくない」とリカルドは言い切った。
リカルドだけでなく、多くのドライバーがいつもとは違う使命感を持って戦ったハンガリーGPは、ただ荒れているのではない、力強い印象を与えた。その印象を強調したのがフェルナンド・アロンソ──波乱の連続に見えたレースに、しっかりと芯を通した。
5位という結果には、レース中のさまざまな出来事が貢献した。しかし、あちこちで起こる接触から離れたところに身を置き、クリーンなレースを走りながらチャンスを見きわめ、瞬間瞬間に彼が下した的確な判断こそが5位入賞の最大の理由。それに何より、アロンソが「快適」と表現するマシンは決して簡単じゃない。「タイムが出るマシンと運転がしやすいマシンは必ずしも一致しない」と言う強者が、自らの技術と信念を沿わせることによって“マシンとタイヤにとって快適”な状況を創造しているのだ。だから彼が戦えると、レースはこんなに濃密になる。
ジュールに捧げるレース──ドライバーたちの本気は、ハンガリーGPの内容に表れた。シーズンベストのレースだったとファンが感じたなら、その気持ちはそのまま、ビアンキと彼の仲間たちへのリスペクトになる。
(今宮雅子)