さて今回のレースで、メルセデスAMGの2台に唯一匹敵する速さを発揮したのが、フェラーリのベッテルでした。ベッテルは終始メルセデスAMGの2台から若干遅れるだけのペースで走り、最終的にはロズベルグから14.2秒の遅れ、ハミルトンからは6.4秒の遅れでフィニッシュしてみせました。ただ、ペースは近かったとはいえ、マシンの性能差は明らか。しかしなんとか一矢報いようと、ベッテルとフェラーリはメルセデスAMGに先駆けて3ストップを実施したばかりか、2回目のピットストップ時にソフトタイヤを履くという策に出ます。
今回のレースでは当初、ソフトタイヤの航続距離は短く、スタート時以外はより長い距離を走ることができるミディアムタイヤを使う作戦が主流になるだろうと思われていました。事実、ピレリの発表した最速予想戦略は、ソフト-ミディアム-ミディアムというモノ。しかしベッテルはこれに反し、2回目のピットストップで再びソフトタイヤを装着したのです。一方、前を走るメルセデスAMGの2台はミディアムタイヤを装着。ベッテルのこの選択は功を奏し、このスティントではメルセデスAMG勢と同等のペースで走ってみせました。しかも、デグラデーションの兆候をほとんど見せずに。
再びFP2のデータを分析してみると、ソフトタイヤを履いたメルセデスAMGには明らかなデグラデーション(タイヤの性能劣化による、タイムへの影響)が見て取れますが、同じくソフトタイヤのベッテルは、ロングラン開始直後こそ数周にわたってペースを落とすものの、その後は下げ止まり、順調に走行を続けたことが読み取れます。つまり、レース中盤で再びソフトタイヤを履くというのは、フェラーリ/ベッテルだからこそできた芸当。もし、メルセデスAMGもベッテルに合わせてソフトタイヤを履いていたら……ベッテルが上位2台に追いつき、三つ巴の大接戦となっていたのかもしれません。
ただ、ハミルトンのラップタイム推移を見れば、3ストップでもタイヤをもたせるのに苦労していた様子が確認できます。ここから判断すれば、ベッテルは自らが3ストップを選択して相手(今回はメルセデスAMGのハミルトン)を3ストップ戦略に誘導するのではなく、逆に2ストップに引き込んで自滅を誘った方が有効だった可能性もあります。もちろん、正解は分かりませんが……。
結果的にベッテルは、前方の2台に追いつくことはできませんでした。しかし、後方にリスクが存在していないと見るや、正否は別として、“あわよくば”という策に賭けたフェラーリの積極性が見て取れたシーンだったと言えるでしょう。
さて、これで今季19戦中18戦が終わりました。残りはあと1戦。2週間後のアブダビGPです。今回のレース結果を見る限り、次もメルセデスAMGの2台による一騎打ちになりそうな状況。そこに、フェラーリの2台がどう絡んでくるのか? 2015年のF1フィナーレ、ぜひお見逃し無く。
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